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須々木優大29.そう、思っていたから

「敵は飛行能力。天高く舞い上がった後、急降下により発生する力で対象者を粉砕してくる」


 額に汗をにじませながら、由美は静かにそう言った。


「由美さんありがとうございます。でしたら、優大さんが接近して敵の攻撃を誘い、手の届く範囲まで近づいてきたところで私が能力で止めます。そしたら一哉さんから受け取った爆弾で——」


「よっしゃぁ!! 行くぜ!!」


 ミラーの作戦などお構いなしに、一哉はいつものように飛び出していった。


「由美、何かプラスであったら報告頼む」


「いちいち言わなくてもわかってるわよ。早く行きなさい、バカ優大」


 由美の言葉に背中を押され、僕も勢いよくバリア外へと飛び出して行った。


「とりあえず二手に分かれてかく乱だ! 一哉は爆弾をちらつかせてけん制してくれ!!」


 初めての戦闘から二週間程度が経過した。戦闘を繰り返したおかげもあり、当初よりも状況を見て立ち回ることができるようになってきた気がする。しかし、問題は一哉だ。間違いなく僕の声は耳に届いているはずなのだが、相変わらず返答はない。どうせまた無計画で突っ込もうとしているのだろう。であれば、いい加減こちらにだって考えがある。


 僕は走るのをやめると、一哉から事前にもらった爆弾になっている野球ボール程度の大きさの石を一つポケットから取り出し、足元へ勢いよく投げ捨てた。衝撃により、爆弾は爆発し、僕は数メートル後方へと爆風によって投げ出された。まだポケットには爆弾が数個入っていたので、それらの誘爆もあってか殺傷能力は十分であった。僕は激痛と朦朧とした意識のせいで、その場を動くことができなくなった。


「おい! 優大!?」


 一哉の声がどこからともなく聞こえてきたが、構うもんか。最後の力を振り絞り、瞼をこじ開ける。ぼやけた視界の端には、僕の方へと急降下してくる敵の姿を視認することができた。ゆっくりと瞼を閉じ、その時が来るのを待った。


 やれ、一哉。


 そう心の中で唱えたが、しばらく経っても身体に異変はなかった。そのまま意識は消失し、目が覚めるとミラーの背中の上にいた。どうやら戦闘は終わったようだ。


「ねぇまじで何やってんの? 優大は最大限の仕事をしてくれたじゃん!」


「どのみち勝ったんだからいいじゃねぇか」


「だからそういう問題じゃないでしょ? あのまま距離を取って優大を爆発させれば、一哉は不必要な怪我をしなくて済んだのに」


「優大が勝手な事をしたからだ。あの場面で能力を使う必要はなかった」


「ほんとさ、バカなの?」


「そうなのかもな」


 一哉と由美が言い合っているのが聞こえてくる。まぁ、いつものことだ。


「降ろしてくれ」


「お目覚めですか。お疲れさまでした」


 ミラーは立ち止まると、腰をかがめて僕を地べたへと着地させた。


 

 戦闘を繰り返して感じたことは、一哉は協調性がないのではなく、ただ単に死にたがっているだけなのではないかということだ。

 怖気づきたくないという思いから、戦地へと赴いているのだろうが家族はもういない。どう頑張っても二度と会えることはない。後悔の念は決して消えないのだ。であれば、これ以上この世界にいる意味もないと考えていても不思議ではない。

 その思いに気づいているのか、ミラーは危険な状況でも能力で一哉の動きを抑制しようとはしないし、由美は説教こそするものの最後は決まって不問とするのだ。

 一哉の思いは十分に理解できる。僕だって対価がなければ、今頃は死ぬことしか考えなかっただろう。しかし、死ぬことに対して手段を選ぼうとはせずに何年も狭間世界に滞在しているところから察するに、思いはそれだけではないはずだ。少しでもその思いに近づけたらと思い行動に移してみたのだが、上手くいかなかったらしい。


「おい優大!!」


 一哉は僕がミラーの背中から降りたことに気づくと、そう言い勢いよく近づいてきた。


「不死身だから何だってんだ。無意味に命を散らすな」


 そう言って胸ぐらを掴んできた。


「どのみち勝ったからいいじゃん」


 僕は怯むことなくそう告げると


「……次同じ事したら、もう爆弾預けねぇからな」


一哉は静かに僕を開放すると、そう言った。


「今日の反省会はこれくらいでお開きにしましょう! 何はともあれ、皆さんご無事で何よりでした。帰ってゆっくり休みましょうか」


 さすがに雰囲気が悪いと感じたのか、ミラーは手を叩くと声高らかにそう言った。


「皆止まって」


 バリア内に侵入してから、やけに大人しくなっていた由美は何やら深刻そうな面持ちで唐突に僕たちを静止させた。


「どうしました?」


「一哉と優大は待機。ミラーは私と来て」


 由美はそう言うと、二人で家の中へと姿を消した。


「……死にたいけど、死にたくない。優大ならどうする?」


 取り残された僕と一哉の間に、しばらく沈黙の時間が続いていたが、深い深呼吸の後で一哉が静かに口を開いた。


「一哉は現状をどう思っているんだ?」


 僕は敢えて具体的な内容を聞かずに、そう質問を投げかけてみた。


「間違っていると思う。だけど、正解がわからないんだ。だからいつも、中途半端になる。はたから見たら異常者だよな。だから嫌われる。わかってるんだけどさ」


 俯きながら乾いた笑みを浮かべる一哉は、先程敵と相対していた姿とはまるで別人であった。


「二人には相談したの?」


「言えるかよ。勘付いてはいるだろうけど、具体的な理由は知らないと思う。よくわかんないけど、由美は俺の心は読まないみたいだし」


「……そうか」


 死にたい。そう思うに至るには、さまざまな思いが積み重なって形成されたものだ。これからの行動次第で、どうにかなるなんて甘ったれたことを口にするつもりはない。

 意外だったのは、死にたくないとも思っていたことだ。家族がいないこの世界に未練でもあるのだろうか。


「死にたくない理由は僕にはわからないけれど、死にたい理由が家族に関係するものであるならば死に急ぐ必要はないと思う。はっきり言うが、一哉が今ここで死んだとしても、家族には何も影響を及ぼさない。ただの自己満足なのだから」


「ほんと、はっきり言うなぁ」


「慰めてもらいたいわけじゃない気がしたから」


「まぁ、そうだな。確かにそうだ。どのみちどこかで確実に死ぬんだ。急ぐ必要はない。だけど、考えちまうんだよ。また肝心な時に何もできなかったらどうしよう。また後悔しか残せなかったらどうしようって。

 そう考えると、これ以上後悔せずに済むのなら今すぐ死んだ方がいいなんて思っちまうんだ」


「次もどうせだめだ。次こそは上手くいく。どちらも机上の空論だ。何も根拠がない。だけど、一哉の言う肝心な場面に直面した時、必ずどちらかには傾くんだ。うまくいけば、何より。だけど、また怖気づいてうまくいきそうにないと感じた時には、僕が一哉の背中をぶっ叩いてやる。少なくとも、何もできなかったなんてことにはならないはずだろ? だから今は、来るべき時に備える。それでいいんじゃないか?」


 一哉は顔を上げて僕を見つめると


「やっぱ言ってみてよかったわ。うまく言葉にできないんだけど、優大すげーよ」


そう言ってほほ笑んだ。


「思ったこと言っただけだよ。力になれてよかった」


「じゃぁ、ほんと頼むな。俺は弱虫だからさ」


 そう言って差し出してきた一哉の右手と握手を交わしたその時だった。


「ち、ちょっとミラー! 本当にいいの!?」


 由美の焦っている声とともに、ミラーが扉を開けて姿を現した。心なしか表情が硬いような気がする。何かあったのだろうか。


「優大さん。お見せしたいものがございます。さぁ、こちらへ」


 ミラーはそう言うと扉を全開にし、家の中へと僕を誘い込んだ。


 言われるがまま家の中に入り、辺りを見回した。ベッド付近に目線を移したところで、僕の思考は途端に停止した。


目を疑った。何かの間違いかもしれないから。


 僕は勢いよくベッドサイドまで駆け寄った。鼓動が早くなる様子が手に取るようにわかる。呼吸も荒くなってきた。


 ありえない。そう思っていたから。


 ベッドの上には、間違いなく雨海さんが横たわっていた。

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