須々木優大26.必要なの?
「おい待て一哉! まだ爆弾もらってねーぞ!!」
敵との距離は、とうに一キロを切っている。おそらく敵も僕たちの存在に気付いているだろう。いつ鉄を投げてきてもおかしくない。それなのに、一哉は僕の声掛けをスルーして、何の迷いもなく一直線に敵のもとへと駆けている。相手はおそらく遠距離タイプなのだから、慎重に対応しなければ危ないはずなのに。
そう思っていた矢先、敵はまるで野球の投手かのようなモーションをしたかと思うと、次の瞬間には黒色の球体が勢いよくこちらめがけて飛んできていた。
「鉄じゃねーのかよ!?」
一哉は半笑いではあるものの、勢いよく飛んできた球体を辛うじて避けると、さらに距離を縮めていった。
まだ体力が戻っていないのか、想像以上に重い体に鞭を打ちながら僕も一哉に続いた。
「一哉、僕に、任せて、一旦距離を!」
息を切らしながらもそう叫んでみるが、やはり一哉は一向に足を止めてはくれない。
「おいおい! 不用心に丸腰で走ってくるとか初心者かよ? よくここまで生きてこられたもんだな!」
距離が百メートル程度まで縮まった頃、ようやく敵の風貌まで把握することができた。敵は体格がいいスキンヘッドの男。言っていることはごもっともで、どれだけ一哉の能力が強くても、これでは致命傷を負いかねないだろう。
「見せてやるよ! 俺の能力。アイアンキングダム!!」
唐突に技名みたいな言葉を叫び出したスキンヘッドの男は、薄気味悪い笑みを浮かべると両手を天に突き上げた。すると、頭上にバランスボール程度の大きさである球体が姿を現した。
「こいつは追尾式でな。さて、いつまで体力が持つか試してみるか?」
あんな鉄の塊が先程のようなスピードで追いかけてきたら、普通の人間にはどうする事もできないだろう。
「一哉!! 逃げろ!!」
スキンヘッドの男が体をのけ反り、投げるモーションに入っているのにも関わらず、さらに距離を縮めている一哉に対して、再度叫んでみたのだが、やはり一哉の行動は変わらなかった。それどころか、先程よりもスピードを速めているようにすら感じた。
「うおぉぉるあぁぁ!!」
スキンヘッドの男はそう雄叫びを上げたが、のけ反った姿勢のままで球体が僕たちに飛んでくることはなかった。
「……あぁ? どうなってんだこりゃぁ!?」
変わらない姿勢のまま、スキンヘッドの男は驚きを隠せてはいないようだ。
動きが止まった。動けない。そうか。ミラーの能力だ。しかし、止まっただけ。あの状態でも鉄を投げられる可能性は捨てきれない。やはりまだ警戒はひつよ——
「ぺっ、ぺっ。砂、口の中にすげー入っちまったじゃねぇか。責任とって爆散しろよ」
気づくと、一哉がスキンヘッドの男のもとへとたどり着いていた。
「あぁ?」
鋭い眼光で睨みつけているスキンヘッドの男などお構いなしに、一哉はその場で勢いよく飛び跳ねて鉄球に触れると、今度は僕の方へ向かって走り出した。
「優大!! 逃げるぞ!」
一哉が全力疾走で迫ってくる。僕に指示を出してきたのはこれが初めてだった。
「おい! 何だこれ! 何がしたいんだお前らは!!」
後方でスキンヘッドの男が叫んでいる。動きが止まっただけで今のところ何の害もないのだから、戸惑うのは当然であろう。近づいてきた敵が、今度は突然逃げ出したとあらば尚更だ。
「優大!! 早くしろ!!」
横を駆けていった一哉のその言葉で、ようやく僕も動き出した。
おそらく一哉は鉄球を能力により爆弾へと変化させたのだろう。あの大きさの爆弾が至近距離で爆発するのだから、スキンヘッドの男の即死は免れないはずだ。しかし、一哉はなぜこんなにも全力で逃げているのだろうか。十分に距離は離れているから、巻き込まれる事はないはずだし。
そんな浅はかな僕の考えを吹き飛ばすかのように、後方から大きな爆発音とともに砂埃を纏った爆風が背後から僕たちを襲った。数メートル先まで吹き飛ばされ、勢いよく地面に体を打ち付けられた。
振り返ると、先程スキンヘッドの男がいたところには巨大な煙が延々と立ち込めていた。
……火力やばすぎだろ。
僕は体を起こすと、僕よりも数メートル先で横たわっている一哉のもとへと足を運んだ。僕は手を差し伸べながら、仰向けになって笑っている一哉に対して、今一番思っている事を口にした。
「これ、僕必要なの?」




