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雨海敦子27.よかった?

「追手がもうすぐそばまで来てる」


 何とか屋外には出られたが、途中で警備員の一人に気づかれてしまった。黒崎さんが足止めをしてくれているものの、人間の足で稼げる距離には限界がある。


「もういい。今ならまだ間に合う」


「嫌だよ。これからなんだから!」


「見つけたぞ!」 


「おとなしくしろ!!」


 気づくと私たちは、警察官に包囲されていた。ざっと数えて八人はいるだろうか。


 ちくしょう。こんなところで終わってたまるか。


「お願いだ。金ならいくらでも払うから! 頼むから見逃してくれよ!!」


 私は、じりじりと近づいてくる警察官たち目掛けて大声を張り上げた。


「おとなしく連行されろ!」


 しかし、警察官たちは怯む事なくじわじわと近づいてくる。


「私は——」


 言いかけたその時、優大さんが私の前に立ち塞がった。


「脱獄を企てたのはこの僕だ。女に罪を負わせて牢屋に入れ、脱獄の手筈を整えタイミングを計っていた。すべては完璧なはずだった。しかし、ここまで警察が優秀だとは思わなかったよ。降参だ」


 そう言うと両手を挙げた。逃れられない事を察して、私の身を案じて庇ってくれているのだろうか。


 私は嚙み切れるほどの強さで唇を噛みしめた。


「今からそちらへ行く。これ以上、事を荒立てたくはない」


 優大さんはそう言うと、警察官たちのもとへと歩みを進めた。


「待って! 行かないで!」


 情けなく響き渡る私の言葉で、優大さんが立ち止まる事はなかった。


 どうしてこうも上手くいかないんだ。どうして皆、優大さんの幸せの邪魔をするんだ。


 私は優大さんの背中を見据えつつ血液が入った注射器を取り出すと、優大さんの背中に刺して体内に注入した。すると、すぐに優大さんは口から多量の血を吐き出した。


「な……にを……した?」


 そう言って振り向く優大さんに


「ごめんね」


とだけ伝えると別の注射器を素早く取り出し、再び優大さんの体内に注入した。すると、再度多量に血を吐き出した後、膝から崩れ落ちるように勢いよく倒れ込んだ。


「捕らえろ!」


 好機と判断したのか、警察官たちが勢いよく私たちのもとへ走りこんできた。


「邪魔をするな!!」


 私はナイフを取り出すと大きく振り回し、けん制した。


「あと少し、もう少しなんだからさ、お願いだから邪魔しないでくれよ!!」


 せめてこれは。これだけは。優大さんがずっと口にしていた事だから。


 恐れを知らないのか、警棒片手に突っ込んできた警察官をすんでのところで交わすと、腹部にナイフを突き刺したその時だった。


「うわぁあぁぁぁ!!」


 それを見ていた警察官の一人が、おもむろに拳銃を取り出し私に向けて発砲してきたのだ。胸に直撃し、途端に身体に力が入らなくなってしまった。思わずその場に崩れ落ちた。


 痛みで頭がおかしくなりそうだ。呼吸が上手くできない。おそらく私は死ぬのだろう。


 こんなにも辛い。こんなにも苦しい。私は恐れている。わかっていた事なのに、途端に怖くて怖くてたまらない。それなのに、優大さんはこんな思いを何度体験したのだろうか。ちぎれる程の痛みを、何度味わったのだろうか。何食わぬ顔なんて、できるはずないじゃいか。


「ま……だ、まだ……だよ。私……はまだ、死……ねない」


 このまま死ぬなんて、無責任にも程があるのだから。


 朦朧とする意識の中、体を引きずりながら優大さんのもとへ近づき、なんとか耳を優大さんの胸に押し当てる事ができた。


 ……心音が聞こえない。


「死ん……だ?」


 わからない。優大さんの場合、心音が聞こえないだけでは何の根拠にもならないから。しかし、お願いだ。もし神様がいるのだとしたら、優大さんをこのまま楽にしてあげてほしい。もう、解放してあげてほしい。


 本当は、もっと話したい事があったんだ。伝えたい思いも、一緒にしたい事もたくさんあった。


 許されない。私がしたことは、決して許されない。しかし、これで少しは返せただろうか。


 嬉しいのかな。悲しいのかな。感情がちぐはぐとなっているせいか、明確な答えが分からない。


 よかった。


 ……これで、よかったんだよね?


「だ……いす……き」


 最後の力を振り絞った途端、私の意識は途端に遠のいていった。瞼を閉じる直前に、寒色の何かが視界に入った気がしたが、それが一体何なのか認識することはできなかった。

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