雨海敦子26.言う通り
気づけば辺りは真っ暗で、テレビの光だけが密かに周囲を照らしていた。どれだけ時間が経ったのかは分からない。私はいつから鳴っているのかわからないスマホを手に取ると、耳に当てた。
「面会謝絶。警察には追い返された。どういう事か説明してよ。何があったの」
声の主は日南さんだった。しかし、日南さんとは思えないほど声色は鋭く尖っていた。
「……私が悪いんです。全部私のせいなんです」
思わず声が震えてしまった。
「だったらどうして守ってあげられなかったんだよ! ゆう君は度を超えて優しい人なの。あんたならわかっていたはずでしょ? 大切な人のためなら身を挺する。その大切な人の一人だってわかっていたくせに。
あんたさえいなければ、ゆう君は人殺しになる事なんてなかった。あんたさえいなければ、ゆう君は幸せを掴んでいたはずなのに。任せるんじゃなかった。悔しい。憎い。許せない!」
日南さんは、感情をむき出しにしながらそう言った。
その通りだ。私ではなく日南さんであれば、このような結果にはならなかっただろう。きっと優大さんの考えを見抜いて、優大さんを幸せへと導いていたに違いない。優大さんと一緒にいた期間は日南さんと大差ない。むしろ毎日ずっと一緒にいた私の方が時間を共有しているはず。それなのに、どうして私はこんなにも優大さんの事をわかってあげられなかったのだろう。
「殺してください。どうか——」
「ふざけるなよ! あんたを殺して、すっきりしたとしてもゆう君の行為がすべて無駄になる。そんな事私でもわかっているんだよ。
調子に乗るな! 自惚れんな! 今あんたにできる事は、ゆう君の行動の意味を考え生きる事。それがあんたのゆう君に対する贖罪だろうが。
二度と死にたいなんて口にするな。生きて生きて生きて、一生苦しんで生きろ!!」
私の言葉を遮り、鼓膜が破れそうな程の大きな声で日南さんはそう言うと、通話が切断された。
……日南さんの言う通りだ。私はなんて事を口走ってしまったのだろう。死ぬ暇なんてない。このまま死んでいいはずがない。
須々木さんに対する思いたちすべてを、私は一生背負って生きていく。そのうえで今は少しでも早く、前を向いて己の人生を歩んでいかなければならない。
私は通話履歴を遡り、見つけた番号を選択すると再度スマホを耳に当てた。
「もしもし」




