須々木優大18.終わらない果て
熱い。痛い。苦しい。辛い。
そんな言葉たちだけでは言い表せられない程の苦痛を全身に浴びて、意識が飛んだ矢先にまた意識が戻り、再度苦痛が全身を襲う。このループを何度繰り返せば終わるのだろうか。僕は許されるのだろうか。
死にたい。死んで、命が尽きて、少しでも早く楽になりたい。しかし、容易にそれは許されない。じゃぁせめて、戻りたい。あの日々に。ただひたすらに毎日が充実していたあの日々に……。
「生きている。建物は火の海だったんだぞ。奇跡としか言いようがない」
「君。大丈夫か君!」
そんなうるさい声で目が覚めた。目を開けると、オレンジの服に身を包んだ救助隊数人が、驚いた表情で僕を見ていた。
「大丈夫です」
そう言いながら上体を起こすと、
「大丈夫なはずがない。そのまま寝ていてくれ。すぐに担架がくる!」
救助隊の一人が力強い声でそう言いながら、僕を制止させた。本来であれば、心強い存在であるはずなのに、今の僕にとっては鬱陶しくてしょうがなかった。
「本当に大丈夫なので」
僕は勢いよく立ち上がると、それでも声をかけてくる救助隊を残してその場を後にした。
黒崎は僕の存在にいち早く気付くと、勢いよく近づき着ているコートを体にかけてくれた。服は火で燃え尽きてしまっていたし、真冬の外で素っ裸はいろいろとまずいので非常に助かった。
しかしそんな事よりも、今すぐにでも確かめないといけない事がある。
徐々に動悸が激しくなっていく様子が手に取るようにわかる。やれるだけの事はやった。上手く事が運んでいれば、最悪の事態だけは避けられているはずだ。大丈夫。わかってはいるのだが、焦燥感は一向に治まってはくれなかった。
「副所長様が亡くなりました」
先に口を開いたのは黒崎だった。
僕は耳を疑った。聞きたくない言葉だったから。それだけはどうしても避けたかった。そのために全力を尽くしたはずだったのに。思わず握った拳に力が籠る。
「データが未回収だったうえ、回収されないようプログラムの変更まで施されておりました」
黒崎は続けてそう言った。
データが未回収? プログラムの変更?
そんなバカな。あのクソ親父が、どうして今になってそんな事を?
何を言っても変わらなかったくせに。どうして今、このタイミングですべてを投げ出したんだ?
わからない。わからないが、このままだと雨海さんが……。
違う。違うだろ。
あんなにも叶えなければならなかった夢が、たった今潰えたんだ。罪が消える事はなくなってしまった。償う事すらできなくなってしまったんだぞ?
……いや、もう言い逃れはできない。紛れもなく、揺るがない。全くもって違わないのだ。
僕は黒崎のもとを離れると、人混みの中から親父を探し出し、近づいた。親父は俯いているだけで何もしていなかったが、僕の存在に気付くとただ一点に見つめてきた。その様子が何とも情けなく見えた。
「どうしてデータを持ち出さなかった」
「茶番を終わらせるためだ」
僕が質問をぶつけると、信じがたい返答がきた。
……茶番?
「俺は浮かれていたんだ。お前が生き返った事で、もう一度くらいなら奇跡を起こせると錯覚していた。お前が生き返ったのは神の悪戯だ。ただの人間が、人の生死を覆せるわけがなかったんだ」
言葉一つに苛立ちが募る。何なんだよ。
「今更反省したって、死んだ人間は戻らないんだ」
「お前以外はな。検査データを偽りなく報告してくれていれば、もう少し早い段階で研究を打ち切っていただろう。お前に苦しい思いだけをさせるために研究をしているわけではなかったのだから」
どうして虚偽の報告がばれたのか。変えられない過去を悔やんでいる暇は、今の僕にはない。夢が潰えたうえ、死んでも蘇ってしまう僕でもまだできる事はあるのだから。
「いや、やっぱり黙っておいてよかった。そうでなければ、弱点に気付く事はできなかっただろうから。ただ一つ。今日だけは、どうしても決断しないでほしかった。じゃぁな。もう二度と会う事もない」
そう言うと、僕は親父に背中を向けた。
「弱点? どういう事だ。おい!」
背中越しに聞こえてくる声に耳を貸す義理はない。僕は再び黒崎のもとへと向かった。
「力及ばず、誠にもうし——」
「今まで、僕の我儘に付き合ってくれてありがとうございました」
僕は黒崎の言葉を遮ると、そう言って頭を下げた。いろいろあったが、黒崎の協力なしではきっと何もかもが上手くいかなかっただろうから。紛れもない本心だった。
「最後に一つ。お願いしてもいいかな」
これがきっと人生で最後の決断であるからなのか、発した声は異常なほどに震えていた。




