雨海敦子17.手持ち無沙汰
「一緒に寝ませんか?」
夕食を食べ終え、ソファでうとうとしていた須々木さんの耳元でそう囁いてみた。
「も、もちろんエッチな事はしないから。その、反省しているし。いや、でも無理ならいいの」
保険はかけた。これで断られたら仕方がない。
「いいよ」
須々木さんは眠たそうな目をこちらに向けると、意外にもあっさりと引き受けてくれた。
「ありがとうござ……じゃなかった。じゃぁ寝る支度してくるね」
私はすぐに視線を外すと、洗面台へと向かった。
やった、やった!
私は平然を装いながらも、心の中では何度もガッツポーズをかましまくった。
歯磨きを終え、準備万端で寝室に向かうと、すでに須々木さんが左を向いて毛布にくるまっていた。私は恐る恐る布団をめくると、須々木さんの右隣に横になった。
……緊張する。もう少し距離を詰めてもいいのだろうか。嫌がられないだろうか。このまま須々木さんの方を向いていてもいいのだろうか。
異性とは幾度となく寝てきたというのに、こんなにあれこれ考えてしまうのは初めてだった。これはきっと寝られそうにないな。
そんな事を思っていた矢先、急に須々木さんがもぞもぞ動きだしたかと思うと、私の方に顔を向けてきた。
「あっ、ごめんなさい」
ふいに視線が合ってしまい、思わず視線を反らすと、そのまま体ごと右を向いてしまった。
私の方から誘ったくせに。気を悪くされていないだろうか。本当は向き合って抱き着いて眠りにつきたい。朝、目を開けたら須々木さんが隣で涎なんか垂らして寝ていて、起きるまでただ見つめていたい。妄想ばかりが膨らんで、結局肝心なところで勇気がでないくせに。
「足、出てるじゃん。もっとこっちおいで」
背中越しに聞こえた須々木さんの心地よい声が、体中を駆け巡った。
「……う、うん」
振り返る事もできずに私はうねうねと体を動かして、じりじりと須々木さんの方へと近づいた。足が毛布にすっぽりと収まった時、私の背中が須々木さんに触れた感覚がした。その証拠に僅かだが、ぬくもりを感じる。
「あっ……」
思わず声が漏れてしまった私だったが、
「おやすみ」
須々木さんはいつも通りの口調でそう言った。
「……おやすみなさい」
分かっていた事ではあったが、手持ち無沙汰になったこの感情はしばらく収まってはくれなかった。




