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須々木優大13.わかっている

「大丈夫かよ」


 肩を貸すだけじゃ全然前に進めないと早々に見切りをつけて、僕は雨海さんを背中に乗せた。


「私の事嫌いなんでしょ。今すぐおいて帰ればいいじゃないですか」


 口調がいつもと違う。これは相当酔っているようだ。


「そういうわけにもいかないだろ」


「どうでもいいと思ってるくせに。日南さんも大げさなんだよ。私一人で帰れるもん」


 そう強がってはいるものの、威勢だけで体には全くと言っていいほど力が入っていない。一人で帰るには到底無理な状態だ。


「悪い連中にでも捕まったらどうするんだ」


「いいですよ。私の事なんか誰も気にしない。あなたもせいせいするでしょ? 厄介者がいなくなったって大喜びするくせに」


「そんな事は一言も言ってないだろ?」


「迷惑。迷惑なんでしょ? 今すぐ置いて帰ってください」


「こんな状態で置いていけるわけないだろ。もうすぐだから」


「帰りたくない。どうせあなたにはわからないですよ。幸せだった時間が充満したあの家に一人でいる事がどれだけ辛いのか。だったらどこかで、知らない誰かと何かをしている方がずっとまし。何も知らなかったあの頃に戻る方がずっとましなんですよ」


「……じゃぁ僕にどうしろっていうんだ。どう足掻いても、遠くない未来で僕たちは離れ離れになる。充実した時間が長ければ長い程、別れが辛く、抱えるものも大きくなる。

 わかってくれ。だから、僕を嫌ってくれ。それですべて丸く収まるんだから」


 つい本音をこぼしてしまった。雨海さんを抱える手に思わず力が籠る。


「わかりません。わかりたくもない。これから先、どれだけ辛かろうが知った事ではない。そんな事では、あなたを嫌う理由にはならないんだから」


「それは君が経験した事ないから言えるんだ。後で必ず後悔する日がくる」


「あなたは未来を生きているの?」


「急に何言ってんだ。そんなわけないだろ」


「だったら未来の話は、未来の私たちに任せましょうよ」


「そんな楽観的に僕はなれない」


「頑固な人ですね」


「余計なお世話だ」


 僕はずり落ちてきた雨海さんを抱え直すと、歩みのペースを速めた。


「辛いのは今だけ。仮にそうだったとして、じゃぁ今この辛い気持ちは誰が癒してくれるんですか?」


「それはひなちゃんとかに——」


「だめだよ。こんな気持ちにさせたのはあなたなんだから。あなたがちゃんと責任取ってよ。辛い思いなんか吹き飛ばしてくれたら、あなたの思い通りになって見せますから」


「……それができたら苦労してないんだよ」


「じゃぁ、わかりました。私はあなたとの契約を果たして、あなたが死んだとしても悲しむ事なく前を向いて、必ず幸せになります。私は幸せでしたってあの世であなたに伝えますから。だからどうか、死ぬまでは私のそばで生きていてよ」


 雨海さんは何の躊躇いもなく、そう言い切って見せた。


 酔っているし、口先だけなら何とでも言える。どうせその場しのぎに過ぎない。無理だ。でまかせだ。だから聞き流せばいい。頭ではわかっている。


 ……わかっているんだよ。


「酔っていたなんて通用しないからな」


 そう言葉にしてみたが、雨海さんからの返事が返ってくる事はなかった。


「すごいタイミングで寝たな」


 僕は雨海さんを再度抱え直すと、静かな夜道をただひたすらに歩き続けた。

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