須々木優大12.急にどうした
「日南様という方からお電話です。どうされますか?」
狭い車内に中年の男と二人きり。いい加減うんざりしていたところで、黒崎が僕にそう言った。
「要件は?」
「雨海様がどうやら酔いつぶれしまったようで。迎えに来てほしいとの事です」
「タクシーを呼べばいいだろ」
「乗り物に乗ると吐いてしまいそうだから無理みたいですよ」
「なんだよそれ。飲みすぎだろ」
「家からはそう遠くない距離にあるお店みたいです。車内にいてばかりいては、お体に触ります。散歩がてらに行ってあげてはいかがですか」
「……わかったよ。近くまで向かってくれ」
そう言うと、ゆっくり体を起こしてシートベルトを着用した。
送られてきた住所に到着すると、店前で今にでも倒れこんでしまいそうな雨海さんと、それを何とか支えているひなちゃんがいた。
「よかったぁ。助かったよぉ!」
ひなちゃんは僕の存在に近づくと、大きな声を上げた。
「ひなちゃんも相当酔っているな。どれだけ飲んだんだよ」
「もう数えられないくらい? 全部ゆう君のせいだね」
「僕は関係ないだろ。隣の酔っ払いは預かるよ。面倒みてくれてありがとう。ひなちゃんはタクシーで帰れそう?」
「うん。なんとかー」
そうは言うものの、酔った女の人をこのまま一人で帰すのは不安でしかない。
「やっぱり家まで見送らせてよ」
「……いいのいいの。私は大丈夫だから。あっちゃんを頼むよ。今にも吐いちゃうかもしれないし」
「……じゃぁ、気を付けるんだぞ?」
僕は雨海さんを受け取ると、ひなちゃんに背を向けた。
「ゆう君がどうしてあっちゃんにひどい事を言ったのか。真意はわからないんだけどね、それが例えばあっちゃんのためだったとして、そこにゆう君の気持ちはあるのかな。また自分を蔑ろにしていないか。私はそれだけが心配だよ。人の気持ちなんて、その人にしかわからないんだからさ、都合のいいように決めつけずに向き合って、後悔のない選択をしてほしいな」
歩き出そうとしたその瞬間、ひなちゃんが唐突にそう言った。
「……急にどうした」
「よっぱらいのただの一人言」
思わず振り返った僕に、ひなちゃんは笑顔でそう言った。
「もう何も失いたくないんだ。そのためだったら何だってするさ」
「……どういう事?」
「素面のただの独り言。今回だけだぞ。こんな事は」
ひなちゃんの問いかけを笑顔で返し、僕はその場を後にした。




