雨海敦子13.唐突な一方的
頭が痛い。ガンガン、ジンジン、ズキズキする。これが二日酔いというやつなのだろうか。眠る前までは何ともなかった気がするのに。
私はいつまでも寝ていたい衝動を抑え込むと、やっとの思いで体を起こす事に成功した。そのままの足取りでリビングへと向かう。しかし須々木さんの姿は、そこにはなかった。時刻は十一時を過ぎている。散歩に行っているのだとしても、普段ならばもうすでに帰ってきているはずだ。心配になった私は家を出ると、白い車の窓をノックした。
「黒崎さん、須々木さんがどこに行ったかご存じですか?」
開いた窓から出てきた黒崎さんにそう尋ねると、
「須々木様の行いのせいで、危うく契約が破棄されてしまうところでした。これ以上の身勝手な行動を避けるため、須々木様はこちらで管理する事になりました」
いつも通りの口調で、いつも通りの表情で。黒崎さんはそう返答した。
「……え。どういう事ですか」
寝起きだからだろうか。黒崎さんの言っている事が理解できない。
「言葉の通りです。須々木様はこちらで管理させていただきます」
「管理って……。じゃぁ須々木さんは、もうこの家には戻らないという事ですか?」
「安心してください。契約は続行されます。毎日十九時に十分だけ家に滞在しますから、その間にすべき事をしてください」
「ちょっと待ってください。あれは事故だったし、何より須々木さんは無事だった。それに、電車に乗りたいなんて言ったのは私だし、身勝手で家を出たのも私です。須々木さんは何も悪くないじゃないですか」
「もしもまた、勝手な行動をとられて契約が破棄されてしまっては目も当てられません。何卒、ご理解ください」
黒崎さんはそう言うと、頭を下げた。
納得できるわけがない。
「須々木さんは、それでいいと言っていたのですか?」
「はい。むしろ、須々木様から提案された内容でございます」
須々木さん自ら望んで?
……嫌だ。嫌だよ。どんな思いで須々木さんがそう結論付けたのかはわからないけれど、だからと言って簡単には引き下がりたくはない。あまりにも一方的すぎる。
「私がちゃんと監視します。もう二度と、同じような事は繰り返しませんから。だからどうか、もう一度チャンスをいただけないでしょうか」
「決定事項ですので、末端の私では覆す事はできません。申し訳ございません」
しかし、黒崎さんの口からは望んだ言葉が発せられる事はなかった。
「……わかりました。無理を言ってすいませんでした。須々木さんには、十九時に会えるのですよね?」
「はい。そのような手筈になっております」
「わかりました。失礼します」
これ以上黒崎さんに何を言っても意味がないと見切りをつけて、私はその場を後にした。




