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須々木優大7.家事

 契約開始から早くも一か月が過ぎようとしていた。最近常々思う事がある。


 ……僕は無能だ。


 一日中家事をしている雨海さんの手伝いをしたい。そう思い、料理や洗濯、トイレ掃除や風呂掃除。何かと挑戦してみたのだが、なぜかどれも失敗する。結局二度手間となり、雨海さんに無駄な労力を負わせてしまったのだ。


 このままテレビでも見ながら、何もしない方がいいのだろうか。いや、そんなはずはない。自分のためだけに時間を使ってほしい。自由に生きてほしい。そう伝えたのにも関わらず、結局雨海さんにすべての家事を押し付けたままで、自由時間をろくに作らせてあげられていないのだから。


 負担を少しでも減らす事ができないだろうか。


 僕はチャンネルを意味もなく変えながら、現状を打破できる突破口はないか考えた。買い物の一件だって正直成功だったとは言えない。気を遣わせてしまったのは明白だったから。


「お昼ご飯できましたよー。今日はカルボナーラです!」


 そう言いながら手招きしている雨海さんを横目に、僕は一つ決心をした。


 何を作っても絶品である雨海さんのカルボナーラをペロリと完食し、僕は何も言わずに家を出た。相変らず路駐している白い車の前まで行き、コンコンと窓を叩く。


「いかがなさいましたか?」


 窓が開くと、黒崎が応答してきた。


「いつ来てもあんたなんだな」


「たまたまでしょう」


「まぁいいや。あのー。あのさ……」


 なかなか言い出せない僕に対して、黒崎は何も言わずに待ってくれた。


「家事って、できたりする?」


「人並程度にはできると思います」


 勇気を振り絞って出した言葉に、黒崎はいとも簡単に返答した。


「お、教えてくれないか。彼女がいない間だけでいいから」


「どうしてでしょう?」


「なんかその、申し訳ないんだよ。全部やらせちゃってさ」


「では本人から教わればいいのでは?」


「それこそ申し訳ないんだよ。僕はあんな手際よくやれる自信ないからさ。彼女の仕事量を増やしてしまうだけでしょ? 曲がりなりにも一年間は一緒にいるんだから、おんぶに抱っこは嫌なんだよ。何よりも、生きるために時間を費やしてほしいから」


 黒崎はしばらく何も言ってはこなかった。やはりだめなのだろうか。


「無理なら——」


「もしもし。黒崎ですが」


 諦めようと言葉を発したその時、黒崎は唐突にスマホを耳に当て、誰かと通話を始めた。


「ご要望があるようでして。はい。短パンマンチョコを買ってきてほしいとの事です。はい。急ぎではないようです。はい。よろしくお願いします」


 もしかして雨海さんと通話を?


「お、おい。僕はそんなこと頼んだ覚えはないよ」


「わかりませんか? 時間稼ぎです。私の指導は厳しいですから」


 黒崎は通話を終了させると、こちらを見てそう言った。


「じゃぁ……!!」


「買い物に行き次第、早速とりかかりましょう」


「お、お願いします!」


 僕は深々と頭を下げた後、急ぎ足でその場を後にした。


「もう! どうして直接言わないんですか?」


 家に戻り、リビングに出ると雨海さんが皿を洗いながらこちらを睨みつけてきた。


「い、いやなんか恥ずかしくてさ。無理ならいいんだ。本当に」


「大丈夫です。どのみち今日は買い出しに行く予定でしたから。今夜食べたいもの何かございますか?」


「任せるよ」


「わかりました。すぐに出かけますね」


 雨海さんはキッチンに向き直り手際よく洗い物を済ませると、リビングを後にした。


 雨海さんが外出した後、すぐに僕も家を出ると再び車の窓をノックし、黒崎を呼び出した。


「時間がありません。ポイントを絞ってコツコツやっていきましょう」


 そう言って車の扉を開けた黒崎は、とても頼もしく見えた。


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