雨海敦子5.買い物終了
「またいつでもお待ちしております!」
もしかしたら店の商品すべてを試したのではないだろうか。そのくらい長い時間滞在してしまった。気づくと時刻は十六時三十分。いつの間にか須々木さんからメールの返信が来ていた。
『十七時までにはけりをつける!』
まだ決まっていなかったのか。悩むにも限度ってものがあるでしょ。
そんな事を思いつつ、私は近くのベンチに腰掛けた。さすがに少し疲れた。まさかこんな事になるなんて、想像もしていなかった。しかし、結果的に楽しんでいる自分がいるのは事実だ。
私はしばらくぼーっとしていたが、とある事を思いつき、立ち上がった。
そうだ。腕時計を修理に出していたんだった。まだ修理が完了したという連絡は届いていないが、進捗状況を聞くくらいは良いだろう。そう思い、時計屋へと足を運んだ。
「いらっしゃいませ」
店内に入ると、店主であろう老人が私の存在に気付いて声をかけてきた。そこら中に時計が置いてあり、各々時を刻んでいる。
「あの、以前腕時計を修理にだした雨海と言う者なんですけど……」
「あぁ、雨海様。申し訳ございません。損傷が予想以上に激しいので、修理にはまだ時間がかかりそうです」
私が腕時計の話を持ち出すと、店主は申し訳なさそうにそう言った。
「大丈夫です。どうなったのかなと思って、うかがっただけですので」
「……心配ですか?」
腕時計は中学二年生の秋頃、歩道橋の上で遠くを眺めている時に見知らぬ女性からもらった物だ。有無を言わさず家に招待されて、ご飯も作ってくれた。あの日の出来事は今でも鮮明に覚えている。
「そう、ですね。少しだけ。も、もちろん信用していないわけではありませんよ」
「立ててくださらなくても大丈夫です。時計はいつか必ず時を刻むのをやめる。何度修理しようとも、必ず寿命が来る。そう、人間のように。ですが、あなたの時計はまだ生きたがっている。そんな思いを私はね、無下にするつもりはありませんから。必ず直してみせますよ」
店主はそう言うと、にこやかな表情を見せた。
「ありがとうございます。お願いします」
私は店主にお辞儀をしてそう言った。この人にあの腕時計を託してよかった。そう心から思った。
気づくと十七時になっていた。再度スマホを取り出し確認すると、須々木さんからメールが届いていた。
『無事買い物終了。車に乗って待ってる』
どうやらようやく決まったようだ。こんなに待たせたのだから、これで変な商品を購入していたら叱ってやろう。そんなことを思いつつ、私は足早で車へと向かった。




