5話 戦支度
マグから得た神力だと剣の技は使えない。また刻印にも蓄えられないので、〖聖拳士〗の召喚にのみ使わせてもらう。
もうすぐ夕暮時。
空き地には〖闘争の岩柱〗も設置され、着々と戦力の増強作業が進められていた。
「そろそろ止めといた方が良いな」
何度かの祈りを捧げ、刻印からも補充をしながら召喚していたが、これ以上は明日に響く。
「了解っす。とりあえず切の良いとこまで頼んでいいっすか?」
「おうよ」
十体が揃ったところで、ラウロは召喚者として〖拳士〗たちに指示をだす。
「お前らは向こうの町壁を魔から守ってくれ」
外壁は町を完全に囲っているわけではないので、魔物もけっこう通り抜けてくる。この〖聖拳士〗という神技は、前腕を除く部位に物理判定がないので、弓との相性がとても良い。
この空き地には兵士の姿もあった。
「彼らの指示に従うよう頼む。ああいった鎧をまとってる連中な」
分隊長やら小隊長などの役職はあるが、より上位者の言葉を優先させろなど、そういった細かな命令は難しい。
数名の兵士が〖拳士〗たちの前まで移動すると。
「ありがとうございます。では、こちらへ」
「よろしくな」
協会員たちが今日はここまでだと住人へと伝え、解散の準備に取り掛かる。
「明日の早朝より再会しますので、可能であればまたお集まりください!」
町壁を守らせる予定ではあるが、まだ二方面の〖拳士〗しか用意できてなかった。
ティトは周囲を見渡すと。
「これからどうするっすか。お供するっすよ」
「いったん協会にもどるつもりだ」
事前にやるべきことはまだ残っている。
・・
・・
協会の訓練場では、探検者たちが支給された装備の試着と、鎖への登録を行っていた。
そこにはすでにデボラの姿があり、未経験者に対し魔物に関する知識を教えているようだ。
ラウロはその様子を眺めながら。
「装備が貧弱なもんだからよ。序盤の森に出てくるのと同程度だって、どうも勘違いしてる奴がけっこういるんだ」
事前に協会が資料なども配っていたが、偽物との戦いで十分理解していると、ざっと目を通すだけの連中が多かったのだろう。
「俺も経験ないんすよね。だから資料みても、いまいちピンとこないってのはわかるっす」
実際に戦争が始まった今。探検者たちも支給された装備を確認しながら、デボラの話を真剣に聞いているようす。
「簡単に言うと、本物は偽物よりもしぶとい」
執着。
「装備は弱くても中身が強いってことっすか?」
「もう動かんだろって一撃を与えても、本物は灰になるまで油断できないって感じだ」
致命傷だとしても終わっていない。
「あと偽物は雑魚と強化個体で綺麗に区切られてるけど、本物はもっとなんつうか幅が広いんだ」
どう説明するか考えながら。
「練習ダンジョンの小鬼や、中級や上級のゴブリンも雑魚は雑魚だけど、動きは全然違うだろ。それらが混ざって襲ってくる」
「それかなり厄介っすね」
ここまで説明して、大体デボラの語る内容に追いついた。
「良いかい、その装備は確かに将製だが、過信はするんじゃないよ。しょせんは量産品だからね、自力で揃えた武具や防具ほど神技を強化しちゃくれない」
職人が造った物ではなく、一つ一つの作業を分割し、流れ作業で効率化させた物。
質より量。
引退者が売った品などは、一定の経験を持つ者に支給すると決まっている。目安としては自力で複数の将装備を揃えた探検組。
「だが決して粗悪品ってわけじゃあない。そこだけは勘違いしないどくれよ」
倉庫に眠らせているだけだと劣化もするので、けっこうな維持費となっているはず。
・・
・・
その後、ティトとは別行動になる。
訓練場の一角にはいぶし銀のメンバーがいた。
「よう。ミウッチャさんはいるか?」
「おお、ラウロ殿。お疲れさまですな」
この場には先代の二人も。
その手には装備の鎖が握られている。
「神鋼の鎧か」
「有難いことにな」
エドガルドが男爵から受け取った鎧の調整をしていた。
「この機会に譲ろうかと持ってきましたが、サイズも問題ないようでなにより」
王の素材も混ざっているが、とても立派な白銀の鎧だった。
車椅子の男は専用のケースを抱かえていた。
「俺のはアルフィアにくれてやる予定だ」
初老組はまだダンジョンにいるらしいので、コルネッタが代わりに預かる。
「本当は私が欲しかったんだけどなー」
「お前のは戦槌だろうが。槌身一体で育ててたなら、まあ使えなくもなかっただろうけどよ」
彼女の〖紋章〗は槌神一体なので、戦棍だと神技の効果が落ちる。
「オイラのは鈍器だから、メイスでも使えるぞ」
土の打撃武器であれば種類は選ばない。
エドガルドが鎧の感触を確かめながら。
「そうするとコルネッタのバフが弱まるだろ」
ラウロはモンテのことを思い浮かべ。
「まあアルフィアさんが妥当だろ。魔系統特化も付属できるしよ」
〖浄化の一撃〗が一層に強化されるはず。
男爵はダンジョン広場の方角を眺めながら。
「本当はルドルフォ殿のところも強化したかったんですがな」
鉄塊団にはもう一つ、上級に挑戦している組があった。
「俺らが無理を頼んでる側だからな。あの人たちの希望は救援じゃないんだよ」
中堅組は他の中級探検者と同じ役割となっている。
コルネッタはケースから両手持ちのメイスを取りだすと、柄を握って感触を確かめ。
「いつも迷惑かけてるから、せめて今回はね。アルフィアさんも予備軍に引き抜かれないし」
五十を過ぎるまで、満了組はその義務を負わされる。
「確かルドルフォさんとこの水使いが、臨時で入ってたんだったか」
神鋼の戦棍を眺めていたが、車椅子の男はラウロの片手剣に視線を移す。
「優秀な中堅ってのはいつの時代もそんなもんだ。実力にそぐわない役目だって、その場の都合で押し付けられちまう」
「まともな中間管理職ほど、損をする仕組みになっておりますな」
本人たちとしてはまだ厳しいと判断していたが、イルミロたちの引退に備え、天空都市での活動をお願いされた。
実際にいぶし銀や初老共よりも、彼らは毎回装備の損傷が激しい。
「……そうか」
ラウロも自分が無能だとは思っていない。むしろ騎士団の中でも実力は上位だという自覚はある。
共感できる点が多いからこそ、今度ちゃんと話をしてみたいと思った。
エドガルドが支部の方を指さし。
「そういやラウロさん、ミウッチャのこと探してるんだったな。バッテオと中の方にいると思うぞ」
「わかった」
二人の引退者を見て。
「明日も朝から聖拳士の召喚すっから、良ければ顔出してくれ」
「……そうだな」
どこかやりきれない表情だった。
「我々にもまだ、できることは残っておりますか」
長いことグレゴリオらと先頭に立って、この町を守ってきた二人だからこそ、今回の侵略は思う所が多いのだろう。
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新旧のいぶし銀メンバーと別れ、支部に入ろうと歩きだしたところで、訓練場に一人の爺が紛れていることに気づく。
「どうかしたのか?」
彼はこの場にいる者たちを見渡しながら。
「寒空に、集う若木が、育つ森」
ラウロの頭に衝撃が走る。
「もしかして、あなたは」
余所行きの被り物をしているので、中がどうなっているのかは不明だが、先ほどの詩からしてあの人ではないかと確信する。
「ふぉっ ふぉ ふぉ。なんか聖者さまが人を集めとるそうなんで、試しに来てみたんじゃが」
育友会には長老と呼ばれる存在がいた。
ここは広報局長として、挨拶をしなくてはとオッサンは意気込む。
「ラウロと言います。いつもお世話になってる会員だ」
「ほうほう。わしは……名前、なんじゃったっけ?」
どうやら長老はお茶目な人だったようだ。
一応だけど聖者でもあるので。
「すんません、集まりの方はもう終わっててな。また明日の朝にやっから、そっちにある空き地で」
今は村に住んでいるとのことだが、ラファスに避難してきたのだろう。
「ありゃまぁ 飯をもらい損ねちまったぁ」
「えっ いや、炊きだしじゃないんだ。それなら教会の方でまだ準備してると思う」
そう言えばシスターの姿は目にしていなかった。
「あの、もし良かったらなんすが」
ラウロは空間の腕輪から布を取りだす。
「世話になってる人が、貴方のファンでして」
インクとペンを近場にいた協会員に借り。
「可能であればサインを貰えると」
「ふぇ わしの?」
表地は黒だが、裏となる面が白くなっていので、そちらにお願いした。
長老はもともと物語の執筆を仕事としており、中には児童むけの作品もあった。
「なんか照れるのぉ そんなこと言われたの始めてなんじゃが」
「ついでにルカ君へって」
なにせ拳術神は劇場での一件から、半年たっても泣き続けていたので、冗談抜きで日光仮面には助けられた。
「こんなんでどうじゃろ」
「ありがとうございます。本人も喜ぶと思いますんで」
そんなやり取りをしていると、訓練場の出入口に中年の女性が姿を現す。少しのあいだ見渡していたが、老人を確認すると、こちらに足を進める。
「あっ おじいさんこんなところにいたんですか」
「ふぇ? どちらさんじゃったかのぉ?」
まったくもうとため息を一つ。
「嫁です」
「わしのか? お前ばっかりずるいぞ、わしも若返りたいっ!」
なに言ってるんですかと呆れてから。
「貴方の息子の嫁ですってば!」
「おお、そうじゃったそうじゃった。ところで飯はどこで食べれるんじゃ」
女性はラウロに頭をさげると、お爺さんの手を引いて。
「さっき食べたじゃありませんか」
「あれぇ? そういや腹も減っとらんかったぁ」
杖もつかずに歩けてるので、身体はとても元気なようす。
「わしね、サインしてくれって頼まれちゃった」
ラウロは布に書かれた名前を見る。
「はいはい。それは良かったですね」
「うん、えがったぁ」
マントを空間の腕輪にもどす。
「ペンネームってやつかも知れないな」
実名のサインなど、ある意味レアかも知れない。
・・
・・
ミウッチャへの報告を終えると、次は各徒党や探検組の配置が書かれた用紙を受け取る。
外壁をティトと事前に見て回ることになっていた。
ラウロは天上菊とは別で動く。もし今回の侵攻が当たりであれば単独でも良かったが、結果としてラファスは外れを引いてしまった。
そうなれば外壁というのは最前線だから、一人で〖聖域〗を使って回るのは危険すぎる。
各方面を行き来するのであれば、全員が〖聖壁・足場〗を使えなくては都合が悪い。
【門】が町の近場に出現した場合、ラウロは隊長を除く十五班の三名と行動する。
とりあえず出来ているとこまで投稿したいと思います。
七話までです。




