4話 支援活動
南門から内壁門までは一直線。
混血で強化された肉体で走れば、そこまで急がなくても三十分ほどだろうか。
中央通りに接する道。
いぶし銀であれば〖岩亀〗で狼煙の様子を確認できる。
同じ役目を任されたカチュアたちに高度を上げる神技はないが、〖土犬〗も同行しているのでその後を追うといった手段もあった。ついて来いの合図はリーダーへの軽い体当たり。
〖剣〗と〖戦槌〗の銀光を頼りに、暗闇の中を進む五人。
ミウッチャの組にも〖土犬〗は居た。細い通路で先頭を走るその個体を見て。
「ほんと便利だ。オイラも欲しい」
「ないもの強請りしてもしゃぁないでしょ」
〖大地の気配〗は索敵の中だとそこまで優秀じゃない。一々手を地面に添えるのはなにかと面倒だ。
先頭を走っていた〖土犬〗は急停止すると、突然その場で自分の尻を追うように回転しだす。
合図を確認したミウッチャは、走法をナンバというものに変更させる。左手で鞘に触れるだけで、この動作になるよう身体に覚えさせており、走りながら刀身を払う。
「敵襲っ!」
両脇の建物は損傷が激しく、道幅は三人が横一列で移動できる程度。
イベント中なので普段との違いはあるかも知れないが、今通っているのは比較的に安全なルートとされている。
「このまま一気に行くよ」
気配を察したのは召喚主ではなく〖土犬〗の能力。敵襲を知らせる動作が右回りか左回りかで、危険度を見分けられる。
エドガルドも走りながら、装備の鎖を操作して。
「熟練が高けりゃ、神眼にも迫るな」
罠に気づくこともあるらしい。
行く先に時空紋が出現し、そこから小鬼と肉鬼が姿を現した。
「今回の作戦もそうだけど、実用性だけならワンちゃんの方が上だよ」
駆けながら姿勢をつくり、ミウッチャは〖一点突破〗で前列の小鬼に突っ込む。細い通路での〖波〗は効果抜群。
今回のイベントは〖あたすの剣〗を主体に使う予定だった。〖真昼・影〗はある程度の明るさがなければ、夜の闇に混じって拡散してしまう。
コルネッタも転倒した小鬼を飛び越え、その先にいた肉鬼に接近。
「あとは罠の解除さえできりゃ完璧なんだけどね」
〖波〗によって仰け反っていたので、大盾で防がれることもなく、勢いのまま兜ごとぶっ叩く。
戦槌を構え直し、近場にいたもう一体のオークに〖無断〗を喰らわせた。〖幻〗を使うとそのぶんクールタイムも延長されてしまうので、今回はあえて使わなかったのだと思われる。
ミウッチャは顔をしかめ。
「あぁ、駄目だ」
小鬼の首を狙ったが、鎖帷子に阻まれてしまい、刃が途中で止まってしまう。相手の脇腹を膝で蹴り、その反動を利用して引き抜いた。
斬(極) 突(強) 打(弱)
すでに〖剣の紋章〗は発動しており、剣神一体の状態にはなっている。
斬神の加護を得た時に、協会から刀という武器とそれを扱うための資料を渡された。強制ではないけど、できれば使うか検討してもらいたいとのことだった。
「もっと神力沈ませなきゃ」
神の素材といっても、沈める量に応じて時間もかかる。
オークが側面より斬りかかってきたので、刀で受け止める。刃の反りが攻撃の勢いを流し、大剣を地面に激突させることに成功。
「正直、扱い難くてさ」
一連の動作で肉鬼の懐に入れたので、相手の脇から胸までを斬り上げる。両者の距離が近すぎたこともあり、両断とまではいかなかった。
「なんでボク、この武器使ってんだろってたまに思うよ」
痛みを無視して大剣を振るおうとしてきたので、ミウッチャは相手が弱るまで距離をとる。
「けっきょく綺麗だから、ずっと使って来たんだけどね。刀神さまのお勧めだし」
耐久強化がなければ、数体倒すだけでも下手をすれば刀身が歪む。刃は鋭利なぶん欠けやすい。
引いて斬らなければいけなので、叩き斬る両手剣や、片手で扱える剣よりも刃の届く範囲は狭い。
上手い人が使えば結果だって違うのかも知れないが、少なくとも現状のミウッチャでは、神技がなくてはそうなるのが分かっている。
少し出遅れてしまったが、エドガルドは〖あんたらの鎧〗を発動させ。
「昔と今じゃ役割も色々と違うからな。一番殺してたのが弓だって言うし」
まだ人間同士で戦争をしていたころ。
剣も相手の防具に合わせて研究され、色んな形状で試行錯誤を重ねてきた。
追及の形も時世によって変化する。
どこか遠い所からやってきた、祈りを込められて生まれ落ちた武器。
「少なくとも一つの柱に好まれた武器なんだ。神技を授けられた俺らにとって、なにか意味もあるんだろ」
歴史の中で変化を重ねながら、武器であって武器でなかったこの武器を、それでも武器として愛した者たちがいた。
〖紅〗の件に関わらず、装備系の加護に新たな神技を下ろすことは、ミウッチャが試練を受けたころから検討されていたのかも知れない。
後方で立ち止まり、様子を見ていたバッテオは。
「錆びの雨いる?」
脇から胸までを斬られ、もう大剣を持てなくなった肉鬼は、痛みで涎をまき散らすことしかできない。一度距離をとっていたミウッチャは、その場から大きく踏み込んで、刀の切先を相手の喉に突き刺す。
「もったいないから良いや」
まだまだ敵は残っていた。彼女を囲うように大小の敵が動く。刀身には樋と呼ばれる溝が掘られており、これがどういう理由であるのか、今のところ明確には伝わっていない。
ミウッチャが刀を振り回し、風切音を発生させれば、小鬼たちはそれに怯んで足を止めた。
「まってろ、デバフ付けてやる」
エドガルドの前方に滑車が六つほど出現し、〖鎖〗が小鬼や肉鬼たちに発射される。
巻き取りをしなくても、この状態だけで防御力低下などの効果があった。
「大昔は鎧もこんなこと出来なかったわけだしな」
小鬼は風切音に動きを止めたが、肉鬼は一切の恐怖も示さなかった。
「エドワールドは物知りだね」
「俺は都市同盟の首都になった覚えはない」
ミウッチャは片足を動かし、大盾の横側に回り込むと、オークの上腕を狙って斬りあげた。〖血刃〗を発動させてから一歩さがる。
出血により腕の感覚がなくなったのか、肉鬼は大盾を持ち上げているのが辛くなった様子。
「素敵なお顔が見えてるぞっと」
コルネッタが戦槌を振りかぶる。
「オイラもそっち行こっかな」
〖土の打武器〗を発動させたが。
「この通路じゃ、二人で武器振り回すのが限界だっつうの」
「来ちゃダメだってさ。それよりお花の匂いが欲しいかな」
肉鬼と戦えばどうしても唾液がつく。
不貞腐れながらも、ムエレは〖土の鎧〗から〖花の鎧〗を発生させる。
「好きなだけ嗅ぐと良いさ、オイラの香しき体臭」
〖肥料の雨〗がないので、〖残り香〗まで持っていくのに時間が必要。この問題だけでなく、鼻呼吸という制限がなければ、もっと回復役として一線を張れたかも知れない。
「うげぇ なんかやだぁ」
なぜか移動中よりも、会話が弾んでしまう。もし先代に見られていたら注意を受けそうだけど、戦いに余裕があるとこうなってしまうのは昔から。
「でも本当に扱えるようになったよ。最初なんて振った後に、そのまま自分の足とか斬ってたもんね」
彼女が自傷するたびに回復していたので、バッテオもよく覚えていた。
えっへんと誇らし気なミウッチャ。
「先生と試行錯誤したからね」
先代いぶし銀にも剣の加護者がおり、その者に師事を受けていたが、相手の得物は一般的な両手剣だった。
同じ剣なので通じるところもあるが、先生なる人物も刀について調べながら、手探りで教えていたのだろう。
・・
・・
時代の中で戦争も変化した。瘴気や魔物に混乱せず立ち向かえるのは、名馬と呼ばれる優れた種だけ。
訓練された軍馬すら使えなくなった。〖土狼〗に乗るなど試されはしたが、大型犬のサイズでは中々に難しい。
このように歴史のなかで衰退してしまったものもある。
神力混血で強化された肉体を使い、ミウッチャたちは〖土犬〗の先導で通路を進む。移動時は軽装に交換しているので、身軽となったぶん足取りもスムーズ。
「いた、ラウロさんだ」
〖足場〗に乗って周囲の狼煙を確認しているのだと思われる。
お調子者のムエレが大きな声で。
「鎧に戦槌、バフはいらんかねぇ 今なら剣もついて無料だよ」
どこか屋台の売り文句みたいな口調。
満了組の第七班と第十班も救援の担当となっているが、彼らは光属性なので装備系のバフをかけれるのは、二代目いぶし銀とカチュアたちだけ。
通路を抜けた先の少し広い道にでれば、レベリオたちの姿も確認できた。ちょうど狼煙が消えてしまったところだったようで、地面に瓶の中身をこぼしていた。
「ここは一段と明るいね」
「ええ、とても助かってます」
〖聖域〗が足もとを照らしていた。
「バフは鎧だけで良かったっけ?」
「僕は戦槌もお願いしようかな」
守り短剣。正式には十手という名称で、剣というよりも打撃武器だった。
形状として似ている剣をとるか、打撃として共通している戦槌をとるか。
「私もお願いしま~す」
「盾だけじゃなくて、鎧もそろえたんだね」
マリカは軽装・弓・矢筒の格好だったが、装備の鎖を使い軽鎧・小盾・ダガーへと交換している。
「えへへ~ 良いでしょ~」
「ところで、戦闘は何回くらいあったの?」
ミウッチャたちはバフをかけるために動き回っているので、なかなか狼煙の確認も出来ていない。
脇道を受け持っている中には一般の探検者もおり、彼らは屋根上への対処ができなかったので、今は頼まれて〖岩亀〗を置いてきているから召喚もできない。
「定期的に小競り合いはありますが、大規模な戦いはありませんね」
エドガルドから〖あんたらの鎧〗をもらうと、アリーダは移動時に使っている革鎧(兵)に交換する。
「こっちにもお願い」
今回は料理の神技が効いているので、通常よりも制限時間は長くなっている。
「あんたらも大変だな、本来は俺らと同じ役目だったんだろ」
「内壁からはある程度離れてるし、今のとこ大丈夫だよ~」
壁上の矢が届く位置には誰もいないが、壁の一番近くを任されているのは八班と九班。そこから少し離れて第六班がおり、次点にあたるのがレベリオ組のいるこの脇道。
「この作戦終わったら、一緒に飯でもどうだ?」
「やったぁ ご馳走になりま~す」
バッテオはため息を一つ。
「ほらほら、こんな時に口説かないのミッドナイト」
「それは止めてくれ」
首を傾げながら。
「私口説かれてたのぉ?」
「この子食費かかるから、もし誘うなら覚悟しといた方がいいわよ」
じゃあアリーダ嬢を誘おうかと思ったが、なんか逆に手合わせに誘われそうな気がして止めた。
恋人が欲しいエドガルドが肩を落としていたら、上空にいたラウロが一方を指さし。
「こっからでもわかるな。巨鬼でたぞ」
ミウッチャは鯉口を切り、柄に手をかけると。
「何処かな」
「中央通りだ」
常に装機兵は動いているので、茶色い狼煙は大まかな目安。
大神殿の時計は夜なので見えないが、レベリオから借りた懐中時計を見て、そこからも装機兵の位置を予想する。
「場所的に対応すんのは、たぶんイルミロさんとこかね」
警戒を解いて、刀から手を放す。
「そっか」
「たしか一名欠けてたのよね」
火の眷属神(杖・ローブ)
コルネッタは戦槌を担ぎ。
「全員揃わないと最高火力だせないんだけど、まあなんとかなるっしょ。私のお師匠もいるし」
ムエレは土犬を撫でまわしていた。
「バランスは取れてっから」
光の眷属神(戦棍・盾・軽鎧)
火の眷属神(弓・ローブ)
火の眷属神(戦槌・盾・鎧)
「大丈夫だよ。イルミロさんたち強いから、引退なんて早いくらいだもん」
火の槍舞神(槍・軽装)




