1話 鉄塊団との情報交換
上級ダンジョン。余所の広場ではすでに開放されているが、ラフィスの町では延期のお告げがくだされ、すでに冬も本番となっていた。予定では今年中を目指しているとのこと。
場所はサラと以前朝食をとった広場の飯屋。
「こうして顔合わせるのは始めてだよね、ラウロさん。こんなとこまで来てもらっちゃってゴメンよ」
二人とも食事は頼まず。今から彼女はダンジョンでの活動もあるので、お酒でもなくお茶を頼む。
「いや、頼んだのは俺の方だしな。いつも交渉とか持ち掛けんのは他の連中だったか」
地域密着という意味では、満了組よりもこちらが主体だろう。
「団長から話を聞いた時は驚いたね、まさか有名人が私をご指名とは」
探検者組織、鉄塊団。
初級・中級・上級において、全てで活動している徒党だった。
そこの団長がリーダーをしているのが、上級で活動している[炎の初老共]であり、今回は彼を通してこの場を用意してもらった。
若いころは炎の青年たちで、やがて中年共になり、今は初老と名乗っているらしい。回復役以外は火の加護者が中心となっている。
もっと他の名称はなかったのだろうか。
「俺らも上級挑む予定だから、[いぶし銀]とも接点は持ちたかったし、良い機会でもあったわけだ」
【町】で活動しているのは、初老組と彼女たちだけ。
「まだまだ先代には及ばないけど、私たちとしてもよろしく頼むよ。満了組ばっかで、けっこう肩身狭いんだよね」
彼女らは二代目。すでに引退しているが、いぶし銀のリーダーだった者は、かつて鉄塊団の団長も務めていた。
「ミウッチャさんたち、前は違う名前だったのか?」
「そうだよ。まあ私がいぶし銀に憧れてたから、似たようなのだったけどね。名脇役は仲間に反対されたから、一番星って組名にしてた」
光と土。そして創造主がつくりだした、闇夜を照らす〖月〗ほどの明るさはないが、それでも〖星〗は確かに光っていた。
「そろそろ本題に入ろっか。時空剣だよね」
「ああ。俺が授かったのも教えるからよ」
互いに金のやり取りはなし。
・・
・・
〖儂の剣〗系統とは違う神技で、〖平伏・大剣落し〗などがある。
アリーダが〖紅・血刃〗を授かったのと同じ時期。近接武器の加護を持っていたうちの何名かが、新しい力を得ていた。
〖剣の斬神〗または〖刀神〗と呼ばれる者。
斬(強) 突(中) 打(弱)
近接武器の中でも主神級と呼ばれるのは、この柱だけだった。
一通りの内容を互いに語ったのち。
「転移までできるのかあ。でもラウロさんなら自分で回復できるけど、ちょっと自傷はきついね」
「今の俺だとかなり深く斬らんと、すぐさま転移ってのは無理だ」
将鋼の直剣により改善はしているが、兵鋼やナイフで傷をつけることも多い。
「あとそれで悩んでたりもする。回復に頼り過ぎてる気がしてな」
ボス戦などではサブの引き付け役もしているが、中衛での支援が基本。
刀神の加護。時空剣。
今の時空は闇が薄い。聖神との会話を思い返し。
「影で拘束もできるんだろ。なら扱いやすさは断然そっちだ」
「一長一短ってところだねえ」
〖空刃斬〗と〖残刃〗は共通している。時間の流れを意味する神技は三つ。
〖黎明・剣〗
〖真昼・影〗
〖黄昏・斬〗
夜に関係する名前での固定はできなかったようだ。
ラウロが持つ、時間を現す四つめの神技。
「でも〖夜明〗って完全に〖黄昏〗の上位だよ。攻撃できるのって、触手で繋がってる対象だけだし」
真昼で影の手を伸ばし、斬撃で連鎖させ、最後に黄昏で触手を断つ。
「斬る瞬間に抵抗あるからよ、将鋼がないと連続は難しいぞ」
空間を一定まで斬り進めれば、後はスッと抜けていく。
「あと俺が加護もらった眷属神なんだけど、同種の神さんとあんま繋がってないみたいでよ、〖私の剣〗発生系統は劣化版だぞ。君の剣とかも使えん」
「そんなことあるんだ。まあでも神さまにも色々あるんだろうね」
ミウッチャはお茶を飲もうと口を近づける。
「お互い熟練上げてかないとね。中距離に対応できるだけでも、私としちゃすごく助かってるし。紋章どうしよっかなあ」
「剣神一体の方なのか?」
猫舌らしく、口内を手で煽ぎながら。
「〖あたすの剣〗はね。でも〖黎明〗は全部(弱)だから、それなら剣身一体の方が良いかなって」
「羨ましい悩みだな。俺はまだ実戦投入には少しかかりそうだ」
一応経験だけは豊富なので精神安定もいらないが、それに関係なく失敗することの方が多い。
「ラウロさん加護もらったの最近だったもんね」
試練ではなく、後付けで加護を得るのはかなり珍しい事例。
「確かに、ちょっと変わった眷属神さまかも」
「すげえ偏屈な柱だったりしてな」
剣身一体にするのなら、気をつけなくてはいけないことがあった。
「そのうち〖剣の紋章〗って使えなくなるんだろ?」
熟練が一定を越えれば、〖私の剣〗系統を自分の名称で扱えるようになる。紋章が使えなくなれば、剣神一体もできない。
「私じゃ年齢的に難しいと思うし」
本人のやる気なども関係してくるが、飲み込みの早い幼少期からというのは重要。
「先代も引退間近まで、強化は(中)より上がらなかったからね」
〖俺の斧〗 打(中) 斬(弱) 突(弱)
「人の一生なんて、神さまと比べりゃあれだもんな」
剣身一体を選ぶのなら、断魔装具に頼らなくてはいけない。そのため剣神一体という選択は理に適っていた。
あとなにか交わすべき事柄はないか、ラウロはしばらく考えてから。
「俺は短剣と片手剣に〖儂〗と〖夕暮〗使ってるけど、そっちはどうなんだ?」
「試してはいるよ。でも私って両手持ちの剣だしさ、あんま使わないかな」
大体の話は聞けたかなと判断し。
「今日はありがとな、同じ時空剣について聞けてよかったわ」
ここらで閉めようと思ったのだけど、彼女としてはここから本題に移るようだった。
「ねえねえ。レベリオ組さあ、うち来ない?」
「それは俺じゃなくて、リーダーに言ってくれ」
肩を落とし。
「断られたから、こうやってラウロさんにお願いしてんじゃん。なんかサービスするからさー それとなく仲間に誘ってよぉ」
鉄塊団の事情はこちらも察している。
「中級にいる連中はまだ難しいのか?」
「行けるかなって組もあるよ。でも本人たちが無理だって判断してるし、年齢的にも私たちより上なんだよね」
恐らく、以前情報交換をした中堅の所だろう。
「ルチオ君とか私らマジで狙ってたのに、自分たちで旗揚げしちゃうしさ。それもモニカ組だよ」
両方とも勧誘はしていたらしい。
「あれには俺も驚いたな」
「ラウロさん教育係だったじゃん、今からでもお願いできないかなあ。うちの若い子ら、皆もう中級で満足しちゃってて、すごく貴重なんだよ彼らみたいなの」
本当に困っているようだ。
ミウッチャの年齢は三十半ほど。探検者としても一番良い時期ではある。
「あいつらが決めた事だしな、俺としては尊重したい。それにレベリオ組がフリーであることに違いはないし、普通に指名依頼だしても良いんじゃないか?」
ラウロの年代からは少しずつ下り坂か。
「できろば鉄塊団の中だけで完結させたいんだけど、最終的にはそうなるかな」
この町で中核になる徒党。
「魔界の門が開けば満了組は予備軍に編入されるし、そうなれば防衛の要は間違いなく鉄塊団だ」
「褒めてもなんもでないよー」
上級で活動できるだけの戦力が不足している。
「グレゴリオさんに俺も世話になってるからよ。できる限りのことは協力したいと思う」
この町で活動する者にとって、その人物は欠かせない存在だった。
「緊急時はレベリオ組だって、あんたらの指揮下に入るぞ」
「そうだね。あの人に心配かけるくらいなら、プライドなんて捨てた方が良いや」
昔は探検者の筆頭として。今は協会員としてこの広場の顔。
グレゴリオの話でふと気になり。
「イルミロさんたちはまだ大丈夫そうか?」
「うん。時々辛そうだけどさ、先代たちが私ら上がるまで踏ん張ってくれてたから、俺らも頑張るんだって」
だが意思とすれば引退へと傾いている。
鉄塊団の歴史は長く、過去には上級組ではなく、中級での活動者が団長を担ったこともあった。
「今から中級か?」
彼女らはここしばらく町には帰っておらず、この広場で所属組と活動していた。
「上級だけじゃなくて、後進の育成もしなきゃね。とりあえず今回はオークの拠点でも潰しに行く予定」
「大変だな」
にやけながら。
「ルチオ君たち育てた手腕を是非みたいなあ。余裕があるとき手伝ってよ、協力してくれるんでしょ?」
「今は上級の事で一杯いっぱいなんだよ。そのうちな」
流れから行けば、恐らく彼女が次期団長だろう。
「立派な後継者だよ、ほんと」
「……うん」
組織運営は大変だなと思う。
「そうだね、頑張らなきゃ」
「せっかくだから、ダンジョンの情報交換でもするか?」
協力したいと感じてしまうほどには。
「デカイのあるぞ」
「本当にぃ?」
もうこの際面倒なので、最初のお金はなしでいく。
ミウッチャからの情報。
・初級 中ボス【岩亀】 宙に浮かび頭上より土塊や泥を落としてくる。胴体の土がなくなれば降下する。
高く浮かばないようにするギミックあり。
・初級 中ボス【大地の腕】 【飲み込む手の平】に掴まると、今までは握り潰すか場外へ投げるだけだったが、地面に叩きつけるという行動が追加された。
ラウロからの情報。
・中級 敵対生物 これまで猪や鹿などが確認されており、それらは【森】の中で生態系を築く。少し攻撃的ではあったが、地上界に生息する動物と同じかと思われていた。
「他の広場にはいるらしいけど、ここじゃ始めてだよね」
「俺らはまだ一度も接触してないけどな」
鉄塊団ですら掴んでなかったのなら、まだ個体は少ないのだろう。
「協会の方でも報告は数件上がってるそうだ」
「じゃあ確証がとれたら、皆に広がるかもね」
事前に知れたのはルチオやリヴィアのお陰としても、もし本当に居るのであれば、フィールドボス的な存在になるのだろうか。
序盤の森に生息する猪 突進命中時に対象が燃え上がる。恐らく〖炎槌〗と同系統の神技。〖炎鼻?〗
迷いの森に生息する熊 地面に前足を叩きつけ〖岩の爪?〗をまとう。ルチオから聞いた話しだと、土を食べて石を飛ばしてきた。
「それで出たの?」
「いや。でも灰にはなったそうだ」
生息動物は倒しても死体が残る。解体して毛皮や肉を素材にすることも可能。
特殊個体は灰になり、稀に各色の玉を落とす。それは天上界が用意した報酬ではなく、動物が宿した属性の力を凝縮させたもの。
「宝玉が出れば、もう確定だな」
大きい物であれば杖に取り付ける。小さくとも純度が高ければ研磨してアクセサリーに。
大きくて優れた物があったとしても、それは人がどうこうできる相手ではないかも知れず。
砕いて溶かし加工すれば、特殊な瓶を制作可能。
「ほとんど騎士団に持ってかれちゃうから、私らあんま恩恵もらえなかったんだよね」
〖水分解〗で塗料に変化させ、布に模様や文字を描く。
普通の白布や神布を染めたり、糸の段階から色づけをして、生地その物に一層の力を宿す。
ローブ・軽装・法衣だけではない。騎士鎧は肩からマントをなびかせ、所々が布で装飾されているので、これらは欠かせない技術だった。
「【森】はただでさえ優秀なダンジョンだったけど、また一つ価値が上がるぞ」
「なんか【町】より優先したくなってくるよ。だからラファスの上級だけ延期になってるのかもね」
天上界オリジナル生物。
もしかするとこういった存在の中で、天獣または神獣と呼ばれる個体が産まれるのかも知れない。地上界にもいるのだろうか。
これらを使役・契約する神技は今のところ人間にはないが、古の聖者から聞いた終焉の獣がそういった類だとすれば、天上界には有るのかも知れない。
「あれだぞ。岩山のグイドさんが入ってくれるみたいだし、上級だって少しは安定するはずだ」
「正直、かなり助かるよね。いつもその護衛って先代たちが任されてたから、できれば私らが受けたいんだけど」
時空(杖) これが召喚系統の神技だとすれば。なんらかの方法で異世界から呼び出したのは、主神または眷属神の加護者ということになる。
「私らからは広めな方が良い?」
「まあ近いうちに協会からお触れもでるから、しばらく様子見だな。仲間内だけにしてくれ」
ラウロとミウッチャは互いに金を出す。レベリオ組の活動費に回す予定だが、けっこうな額をもらえた。
・・
・・
二人して外にでる。
「ありがとよ、色々と有益だった」
「いえいえこちらこそ。今日は町にもどるの?」
一方を指さし。
「ちょっと買い物してくけど、その予定だ」
「じゃあうちのとこで買ってよ」
町でも買えるが、ここでは協会の許可を得て、探検者が売っていることもある。税金を払っているので値段は変わらなくとも、常連になるだけの価値はあった。各種〖薬〗など。
「おうよ」
「感謝でーす。それじゃ、私行くね」
手を振って走っていく。神殿への列に並ぶのかと思ったが、門へと向かうようだ。
売り場に足を進めながらも、しばらく意識を向けていると。
「おっちゃーん、聞いてきいて! ボクすごい情報ゲットしたよ」
壁門に駆けより、目を爛々と輝かせながら、身振り手振りで説明する。
門番はすげえなと、今はじめて聞いたような返事をした。
「あの人ここの顔役だし、もう知ってると思うけどな」
先代のいぶし銀には水も光もいなかった。手段は〖薬〗か感情神の単体回復だけで、全員が装備系統の加護もち。
五人いたうちの二人はもう、足腰にガタがきているらしく杖での生活。
回復に頼りすぎない。この難しさをラウロは実感していた。
できる事なら、一度彼らの戦う姿を見たかった。
個人的に戦闘描写が難関なので、そこが片付けば目途がたった感じになります。
上級編は前半後半で投稿予定で、前半は八話を予定しており、六話まで終わったので投稿開始したいと思います。




