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いつか終わる世界に  作者: 作者です
試練ダンジョン編
11/133

10話 日常4



 近くの空き地に到着すれば、見知った人物が手を振って寄ってくる。


「マリカさんだったな」


 うん、そうだよ。と元気な返事のあと。


「今日はね、用事があって来ました。一緒に探検しませんか?」


 この娘を寄こしたことになにか狙いでもあったのだろうか。普通にレベリオで良かった気がする。



 子供たちがこちらの様子をチラチラうかがっていた。

 無事だったかと一息。孤児院の職員と思われる数名と作業を始めるようだ。


 再びマリカの方を向き。


「わざわざ手伝ってくれてすまん。その事なんだが、もう話はついててな」


「あれ? そうなんですね、良かった~」


 ざっと内容を説明する。


 派遣軍の娘。


「お金だしてもらっちゃって良いんですか?」


 任期満了が近づくと、進路を聞かれたりする。探検者としてやっていくのなら、色々と補助もついてくる。

 満了組への所属も、その中では重要な事柄だと思う。


「前に詫び料で貰ったしな。大した額じゃないから気にすんな」


「そっか~」


 にへへと笑うと、片方の鍋を持ってくれた。


 設置した屋外用の机では、すでにシスターや教会の連中が作業を始めていた。


「ラウロ君。元気そうだね」


 シスターと違い、この人物は本当に神職らしい笑顔で。


「はい。おかげ様で」


「そうかそうか。良かったよ」


 目を合わせられない。気を使ってくれたようで、神官さんは野菜を切る作業に集中する。

 だいぶ皺が増えたようだが、穏やかな表情。包丁の扱いも手慣れていた。


「もう何人か来てるから、あんたは列の整備しな」


「料理中くらい煙草やめろよ」


 うるさいねと唾を吐き。


「鍋にぶっこみゃ臭いなんてわかんねえよ。ここ来るような連中が、そんな肥えた舌してる訳ないだろうが」


 続けざまに。


「なんなら排水路のでも使うか、そうすりゃヤニの臭いなんざ気にならんわな」


 終いにはギャハハと笑いだす。もうこの人なんでシスターしてるの。


 水の加護で浄化などもあるが、それとは別に排水の施設はあるらしい。ただ水路の臭いからして、効果は未だ発展途上。


 とりあえず対策しようという心がけ。これさえ忘れないのなら、天上界の属性神たちは特に触れないつもりだと、訓練時代に神職から教わっていた。


「それじゃ~ ラウロさん、私こっち手伝うんでぇ」


 子供たちと籠から出したパンを深い器に入れていく作業。


「はいよ。大人の威厳を示すんだぞ、舐められたら終わりだ」


 なにそれ~ と能天気な口調。


 

 ラウロは生活に困っている人たちのもとに行き。


「もうちょっと待っててくれな」


 安給すぎて余裕がない家族。探検者で手足を失った者。病気であまり働けない者。どこにも帰る場所がない者。


 切羽詰まっているのか、余裕もないのか。列に割り込もうとする人がいるので、飯が足りなくなれば金を出すからと伝える。


 配るのは食べ物だけではない。

 すでに収穫の季節は過ぎた。ここら辺はそこまで冷えないが、中央教会からは冬に備えた毛布と、多少の断熱効果のある灰色の布。


 あとは飲み水だが、井戸でもなんでも一度は煮沸させる必要があるので、季節に問わず薪やそれを入れる空き缶なども配布される。


 

 何時どうなるか分からない、ラウロには身に覚えが有り過ぎた。


 ふと振り向き、孤児たちの様子を見る。


「あと10分ほどで始まりますから。たくさん用意してますんで、焦んなくていいですよ!」


 騎士団時代の貯えは極力使わない。今は教会に預けており、死んだときは面識のある孤児院にでも、そのまま寄付する契約になっている。


 マリカは手もとのパンや、魔女(仮)が混ぜる鍋を見て、物欲しそうな視線を向ける。隣の少女が私たちも貰えるよと伝えたのか、満面の笑みがその場を和ませていた。


 それでいいのか。


・・・

・・・


 配給が始まった。列の管理をしていると、煙草をくわえたシスターがやって来た。


「もうここは良いよ。あの偏屈に届けてくれ」


 深い木製の容器には、固いパンと透明な塩味のスープが注がれ、その上に布がかぶされている。


「この時間になると橋に居るのにな」


「それでもね、あんたしか受け取らないんだよ。あのクソ爺は」


 容器を受け取る。


「できればそのまま用事があるんだ、サボっても良いか?」


「いつもの事だろ。ガキどもが文句を言うが、けっきょくは金も出ない慈善事業だ。そんなんお前の好きにすりゃ良い」


 シスターは煙草を吸いながら、ラウロの代わりに列を受け持つ。


「悪いな」


 空き地の外に出たところで、レベリオとアリーダが立っていた。


 ニヤニヤしながら。


「報酬も受け取らずに奉仕活動とは、もう本当に素晴らしいわね」


 感動のあまり、涙ぐむ素振りをするアリーダ。


「……あっ しまった」


 デボラから逃げるように出て行ったので、すっかり忘れていた。


「受付嬢さん怒ってましたよ」


 生き甲斐の一つでもある、リヴィアちゃんに叱られてしまう。


「明日また行くわ」


 ちょっと楽しみだなんて、このオッサンは思ってない。絶対にだ。



 何かを発見したのか、レベリオは目もとを手でおおい。


「マリカ、それは駄目だろ」


 すでに一通りの作業は終えたのか、彼女は子供たちと食事にありついていた。


「何時も余分に用意するから、あんたらも残ったら食ってけよ」


「いいの?」


 ちょうど夕飯時。探検者も兵士も、戦闘職は余裕があろうと基本二食。


「味は保証しないがな」


 どちらかと言えば、片付けの方が大変な作業。恐らくその手伝いに来てくれたのだろう。


「ラウロさんはここで食べないんですか?」


「俺は偏屈の相手だ」


 二人は首を傾げるが、深く聞くこともせず、シスターのもとに向かう。


 中央教会が主催の時は、これだけやってほとんど参加しない。


・・・

・・・


 日は傾き、夕暮れに染まる排水路。


 そこは教会近くの橋ではなく、炊き出し会場の傍にある。


「おら爺さん、持って来たぞ」


 汚い布には自分で彫ったと思われる、木製の神像が並べられていた。


「いらん。今日は売れねえ」


 浮浪者の作った神像など、買う奴がどれほどいるのかと思うが、たまに慈悲なのか売れていることもある。


「相変わらず下手くそだな。大体よ、槍の主神は女じゃないだろ。眷属神か?」


「ちげえ」


 いつもそう返答し、これ以上は答えない。


「地上界ができてどんくらい経つのか知らんけど、消えちまった神さんもいるってことだな。教国ができるずっと昔もあったわけだし、そんなころの資料も残ってない訳だ」


 こちらの返しが良かったのだろう、続きを引き出すことができた。


「背に腹は変えれねえ。大切にしてもらえるなら、それで良いのさ」

 

 最初は売るつもりはなかったのだろう。


「仕方のない爺さんだな」


 背腰の鞄から金袋を取り出して、その中に手を突っ込む。


「ほらよ」


「……」


 硬貨を数枚だけ放り投げ、食事の入った容器の布を外して、老人の前にそっと置く。


「邪魔するぞ」


 隣に座り、汚い布の上に置かれた木製の像を持って眺める。


「片腕でよく彫れるもんだよ」


 自分で作ったと思われる木製の義足は、汚い布とロープで固定されていた。何本かの彫刻刀は、紐で腰にぶら下げている。


 もう頭皮には油もないのか、髪は乾燥して肩にフケが落ちている。隣に座ると臭うほどに汚れた服。残った足には底の剝がれかけた靴。支給品を貰えば、もっとまともな物を着れるだろうに。


「根性で彫る」


 固いパンを黒ずんだ手で掴み、スープに浸されていた部分に噛みつく。汁が上着をさらに汚す。


 片手で容器を掴み、それを口に持っていけば、両端からスープが零れ落ちる。


 野菜が残った。手で鷲づかみ、ムシャムシャと音を立てて咀嚼。


「無料だって言ってんだろ」


 空になった容器に小銭を入れると、それをラウロに返した。


「人に施されるわけにはいかん、儂これでも神さまだったし」


「教会に殺されるぞ」


 食後の所為か少し咳き込んでから。


「誰も相手にせんさ」


 どうしようもない爺さんだ。

 飯を食わせる役目は終えた。ここからはいつものやり取り。


「なあ、また見せてくれよ」


「いやだ、これ儂のだもん」


 自分のではないのに、自分のだと言い張る老人のような発言。


 この爺さんは片時も、肌に離さず片手剣を抱えていた。


「なあ頼むよ、俺の貸してやっから」


 長くなり過ぎた眉毛だけの目で、ラウロをしばらく睨み。


「ふむ。まあ良いだろう」


 見せてもらえるようになるまで、けっこうな時間がかかった。


 買った木像を置き、自分の片手剣を装備の鎖より出現させる。


「世話になってるし、爺さんの鎖も買ってやろうか?」


「いらねえ」


 自分の汚い服で丁寧に何度も手を拭いたのち、ラウロの片手剣を受け取る。片腕では鞘を抜けないだろうから、そこは手伝う。


「貸すだけだからな」


 爺の剣を渡され、呼吸をしないよう一度吸ってから、剣身を空気にさらす。


 どこにでもある鋼の剣。断装具でもない、地上の鉱山からとれた鉄製。だいぶ古い物のようだけど、今でも錆び一つなく生きている。


「なあ、直ぐにとは言わんけど、何時かこれくれよ」


「それ儂の!」


 叫んだせいで咳き込み、ラウロの剣に唾がかかってしまう。


「すまん」


 本気で謝ってきたので、気にすんなと返答する。


 反省した爺は布を咥えると、しばらく注目しているので、自分も爺剣を見る。


 誰を斬りなにを成したのか。持ち主はこの爺だけだったのか。どんな時代を生き抜いた剣なのか。

 気になってしかたない。


「いいなぁ」


 何故かはわからないけど、自分からすれば神鋼なんかよりも、ずっと魅力的に感じてしまう。


 もう良いというので、爺の剣も鞘に帰してから返却した。


「手前の剣を大切にしろ。んで、研いだばかりか?」


「ああ。このあいだの試練でな、鬼の金棒とやりあった」


 オーガ。


「大丈夫だったか?」


「まあな。ナイフ壊しちまったが、巨体相手に始めて〔合わせ〕できたぞ」


 爺さんは皺だらけの顔をさらにしかめ。


「儂なら壊さなんだな」


 次にドヤ顔。この老害は自慢話が多い。


「どの魔物もそうだが、鬼は特に下から上の幅が広い」


 小鬼も含まれるのだろうか。


「そうなのか?」


 爺は咥えていた布で木像を優しく拭く。片手なので上手くできないようだ。


「厄介なのは天使でも厳しいぞ、儂ならなんとかできたがね」


「はいはい、お爺さんは凄いですね」


 昔は名の通った探検者だったのだろう。


「瘴気から産まれた最初の鬼だった」


 魔物はそれから発生する。


「あれ。門が開いたのって、爺さんが若いころだったか?」


 もっと昔だった気もする。


「まあ良いか。んじゃ、そろそろ行こうぜ」


 金袋と像を鞄にしまい立ち上がる。これは後日、教会で保管してもらう予定。


「この容器と神像、いったん家に持って帰るからよ」


 爺はラウロを見あげ。


「なんだ欲しいのか? でもそれは売りもんだからな、代金くらいは払ってから行け」


 タダではやれん。大切にして欲しい。


「儂にとっては価値のあるもんだ」


「そうだったな」


 金袋から硬貨を取りだし、それを放り投げる。


「んじゃ、待ってるぞ」


「ああ」


 手を貸すのは嫌がるので、爺が立ち上がるのを見守ってから。


「すぐ戻ってくるけど、悪いな」


 木剣も借り部屋にある。


「構わねえよ」


 素振りをして悪い所があると、何も言わずに鞘先で小突かれ姿勢を直される。


「一本取るからな」


 ふんっと鼻で息を吐きだす。


「ずいぶん長いあいだ、合わせ勝負だけは負けたことがない」


「言ってろ」


 爺が転ばないよう気をつけながら、しばらく剣で打ち合う。

 最初に合わせができた方が、相手の剣を弾いて隙をさらす。


 〔合わせ〕られ姿勢をくずし、剣先をこちらに向けられた。この瞬間だけは、歯の抜けた汚い笑顔をラウロにさらす。


「今日が年貢の納め時だ」


「まだ負けんさ」


 こっちを見向きもせず、自分の剣を杖がわりに去っていく。


 ラウロも借り部屋へ戻る。



 困り顔で少しにやけ。


「その時は、儂も潮時だな」


 小さく咳き込む。


 

これで日常は終わりとなります。

次はたぶん月日を流して、練習ダンジョン辺りからかな。

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