第四話 復讐するは我にあり
時は遡り、エリシアとアンヌが戦闘を開始するよりも少し前のことである。朱魅坂にある聖天十字教の教会の資料室にて、ある一人の騎士団員が複数の資料を見比べて唸っていた。彼は日本生まれの日本育ちという生粋の日本人にして、この朱魅坂教会に配属されている教徒だ。年齢は二十代前半、まだ十字架の騎士団には入団したばかりの新人である。彼はミステリー小説が好きで、独り言を言いながら謎解きをしている姿が度々教会内で目撃されていた。
そんな彼―――塩野亮太には一つ気がかりなことがあった。それは赤月市で発生している特異な連続猟奇殺人事件についてである。その犯人を騎士団では、東欧出身の『エリシア・カミラシア・ミラカミラ』という女吸血鬼と断定していた。バラバラにされた死体の山、杭で掲げられた首、飛び散る臓物と路地裏を染める血だまり。それらを短時間で行うのにはやはり常人ではなく『超人』の存在が必要となる。故の吸血鬼沙汰認定だ。だが、彼にはそれがどうにも引っ掛かるようだった。
「やっぱりな。過去の記録のどこにもコイツは……なら、これは一体どういうことだ?」
彼が眺めている資料は三つ。一つ目は事件現場が書き込まれた市販の地図、二つ目はヨーロッパ圏で吸血鬼が引き起こしてきた事件の詳細な記録、そして三つ目が一連の猟奇殺人事件についての調査報告の写し。
「かの『ミラカミラ家』。それが最初に表の歴史に現れたのが、十五世紀の末期から十六世紀の初頭。そこが『死妖姫カーミラ』としての彼ら一族の誕生だ。そして『カミラシア』が生まれ、その子供『エリシア』の誕生を以って一族の名はパタリと教会の記録から姿を消している。つまり公式記録上、エリシアなる吸血鬼が自ら人間を襲って血を啜ったという証拠は一切ないことになる。有名一族による吸血沙汰なら、本部の連中が大慌てで動くしな。なら、どうして彼女がこの街に来たと思わしきタイミングで事件が起きた?」
そう呟く塩野は、時計の振り子のように部屋を繰り返し横断する。
「俺達への攻撃は理解できる。だが、無辜の民は襲わないと公言しているアレがやって来てから、何故吸血鬼によると思わしき異常な猟奇殺人が起き始めた?どうしてその現場付近に限って目撃情報がある?本当にミラカミラの吸血鬼の仕業なのか、それとも他に―――」
そこまで言いかけて、はっとする男。大慌てで本棚に向かい、また別の分厚い資料の束を取ってはその頁を勢いよく捲る。そうして、彼はある一つの結論に到っていた。
「そうか!そもそも前提が間違っていたんだ、この事件は。真影家の少年が彼女に味方したのは、間違いじゃなかった」
若き信徒の脳裏に掛かっていた、謎という名の霧が晴れる。全てが―――そう、文字通り全ての要素が彼の中で繋がりだしたのだ。
「類似した事件がつい最近ルーマニアで起きていたが、それと構図が良く似ているんだ。そして、それに関係しているとされた吸血鬼の名は―――」
だが、見えた光明もここまでだった。何故なら、慌ただしく塩野がいた書庫に駆け込んできた者がいたからだ。それによって彼の思考は遮られ、注意もまた浮かんだ仮説から乱入者へと向けられてしまっていたのだ。
「おい、騒がしいぞ。一体何があった?」
「侵入者だ、孤児院の方に侵入者が出たんだッ!」
息も絶え絶えにやってきた同僚を咎めつつ、走ってきた訳を問う男。返ってきた答えに、彼は思わず嫌な想像をしてしまう。
「なんだって?まさか、吸血鬼―――」
「違う!魔術師だよ、あの『マカゲ』とかいう一族の、高校生ぐらいの奴が来たんだよッ!!」
そしてその塩野への言葉に、彼は苦々しくこう答えたのだった―――考えうる限りで、最悪の事態が起きてしまったのかと。愕然としていた男だが、その理由は駆け付けた同僚の『アレックス・ジェガマンド』には全く分からなかった。そのため、金髪のアメリカ人である彼は静かに震える友人を無理矢理引っ張り、侵入者のいる現場へと走り出す。
「とにかく急ぐぞ、でないと子供たちが危ないからなッ!」
だが、時既に遅しというべきか。資料室のあった棟から出た彼らが外で見たものは、燃え盛る炎と黒煙に包まれた教会の庭だった。逃げ惑う一般の信徒らや、教会で働く騎士団員ではない修道女たち。時折降り注ぐ稲妻や火炎弾が聖母の像や十字架を吹き飛ばし、地の底より噴き上がる水流と突然発生した竜巻が人々を宙へと舞い上げる。
「……やはり敵にするべきじゃなかったんだ、彼は」
「何訳分かんねぇこと言ってんだ。さっさと行くぞ、リョウタッ!」
「あ、ああ」
一喝するアレックスと、何とか思考を現実へと引きもどした塩野。二人は再び走り出し、教会の敷地の中でも最西端に位置している『朱魅坂聖天孤児院』へと急行する。その間も響く悲鳴、炸裂する爆発。それは、眼を覆いたくなるような惨状であった。
「いたぞ、アレが件の侵入者だ」
そうして彼らの視界に入ってきたのが、復讐者へと転じた真影隼人である。彼は刃の反りが小さい日本刀のようなものを右手に、その鞘らしき筒を左手に握りしめていた。憎悪を体現する火の粉を孕む風を受け、靡くは彼の魔術師としての礼服たる―――黒い学生服の上に羽織った―――臙脂色のマント。
尻餅をついている紺色と白の服に身を包んだ修道女と、その後ろで怯える孤児院の子共達。彼らを見つめる少年の視線は氷のように冷たく、刀のように鋭利だ。よくよく目を凝らせば、その周囲には先に駆け付けたのであろう騎士団員たちの亡骸が転がっていた。
「薄汚い魔術師め、彼女たちから離れろォォォォッ!!」
「ッ!?待て、無謀すぎる!」
塩野の制止を振り切りつつ怒りの咆哮高らかに、正義に燃える若きアメリカ人は突撃する。左手で施設警備を担当する者の正式装備たる聖十字鎚鉾を腰のベルトから引き抜き、アレックス・ジェガマンドは悪鬼外道へと堕ちた少年に躍り掛かったのだ。
「―――は?その口が言えたものかよ」
「下がれ!下がるんだよ、アレックスッ!!」
だが、そんな勇ましい彼の最期はあまりにもあっけなかった。間合いに入って振り下ろされたその利き腕だが、手首から先を隼人の目にも止まらない速さで斬り上げられたことで攻撃の機会を喪失。男の脳がその事実を正しく認識する前に、続けざまの一太刀で首を刎ねられる。そして、赤い液体のシャワーを振らせて擱座―――アレックスの攻撃からここまで、たった三秒の出来事である。
そんな僅かな瞬間、刹那のカウンターによって彼は死んでしまったのだ。まさに殺人剣。相手に攻撃の隙を与えず、その攻めの起点を潰し、何もさせぬまま命を終わらせる。それが、彼ら真影家が継承する剣術であった。
「先に仕掛けてきたのはそちらだろ?俺はそのお礼参りに来ただけ、あんたら風に言えば『フェーデ』ってヤツかな」
フェーデ。それは古代ゲルマンの部族の慣習であった親族集団による復讐と、それに由来した中世ヨーロッパの騎士達が有していた自らの権利・利益を実力行使によって実現する権利のことだ。彼が持ちだしたのは、前者の意味でのフェーデ―――血讐なのだろう。尤も、本来フェーデというものは、一夜明けてからの報復を意味していた。
淡々と呟くように漏れたそんな呟きだったが、それは自己正当化の言い訳か。或いは命を奪った事への懺悔を打ち消す誤魔化しの一節か。本人にもそれは最早分からない。分からないからこそ、彼はもう刃を止められなくなっていたのだ。一時は少女の説得で理性という名の枷を自らに科した隼人だったが、それはエリシアの責任感が暴発した時点で弾け飛んでしまったに等しかった。
故の凶行、これは必然的な蛮行なのだ―――少なくとも、その行為者たる少年魔術師からすれば。僅かに残った罪悪感と憎悪を煽る声が衝突し、後者が彼の脳裏で勝利しただけの話だった。既に彼の頭からは、妹の消息を確かめることなど消えていた。ただ偏に、己が憤怒を晴らすことしか残っていなかった。その居場所については、一人生き残りを作ってソレから聞き出せば良い―――そんな考えで頭の片隅に追いやってしまっていたのだ。
「くっ―――君が、『マカゲ・ハヤト』か?」
震える喉から絞り出されたかのような塩野の声。それが聞こえてきた方へ、隼人は煩わしそうに顔を向ける。高校二年生とは思えないほどに濃密な殺意と憎しみが渦巻く黒い瞳に射竦められた彼だが、それでも言葉を続けようと必死だった。
「俺は塩野亮太、君に話があるんだ。騎士団の人間の話なんか聞きたくもないかもしれない。けれど、俺は君と話をすべきだと思っているんだ。だから―――」
―――刀を納めてくれ、そう続く筈だった言葉はばっさりと閉ざされた。何故なら隼人が左手の指先から放った風の弾丸が、塩野の頬を掠めたからだ。
「問答無用。そう言ったぜ、俺は。もう聞く耳も話す舌も持たない。いや、あんたら相手に持つものかよ。それに下っ端に聞いたって、俺の欲しい情報は手に入らないだろうしな」
傷口より流れ出た血が、塩野の唇の端に触れる。最早戦闘は避けられない、そう彼に自覚させるのには充分なきっかけであった。震える手に宿る恐怖は未だ健在―――されどもベルトに下げた剣の柄に、男の指は触れていた。
「っ……シスター。子供たちを連れて、早く行ってください」
静かに呟かれた一言。その後に青年が慣れない手付きで鞘から引き抜き、両手で握るは片手剣。十字架の騎士団下級戦闘要員が持つ汎用型の武装―――『聖十字歩兵剣』。ドイツ生まれの幅広剣にして、その名は喧嘩用を意味するというもの。本来は片手で振り回す前提の剣なれど、戦いに慣れていない塩野はそれを両手で持っていた。
「早くッ!!」
青年は必死に叫んだ。だが、その修道女も子共たちも、既に腰が抜けて立てないのだ。彼らの目の前に立つ少年が、そんな無抵抗な者たちに掛ける情けを持ち合わせていないことなど一目瞭然。何かきっかけさえあれば、すぐにでも刀を振るって皆殺しにしているだろう。しかし、そうはならなかった―――これは女性らにとって幸運なことにだが、隼人が塩野に向き直ったのだ。そして、ゆっくりとではあるが刀を引きずって歩き出した。地を這う刃は照り返しと返り血で紅に染まり、その地獄絵図に次の標的たる青年を映し出す。
「どうした?あんた、守りたいんだろ?なら、さっさと来な。そろそろ間合いだぜ?」
隼人は嘲笑うかのような言葉を放っていた。そして相変わらず構えを取らないまま、彼は間合いを詰める。そこから先はどうぞそちらから、そう言いたげに少年は男を誘っているのだ。
「ああ、偉大なる主よ。どうか、至らぬ若輩者に加護と救いを与えたまえ」
手早く左手で十字を切る塩野。そして直ちに剣へとそれを戻し、再び中段の構えを取っていた。どう考えても青年に勝ち目のない戦だが、彼に引く気はない。汗ばむ手のひら、微かに揺れる刃の切っ先。緊張と恐怖、焦りと絶望。それらで板挟みの戦士は、それでも尚挑むつもりなのだ。一重に、復讐鬼の背にいる守るべき者たちのために。
「はあッ!」
先に飛び込んだのは塩野だった。彼は何とか掛け声を発して剣を振り被り、上段からの一太刀を隼人に浴びせんと迫る。対する少年は沈黙のまま抜き身の刃を返し、斜め左上への斬り上げでそれを迎撃。青年のそれを刃で受け止めていた。隼人は更にそこから半歩進み、刃を立てて鍔迫り合いに持ち込む。
「くっ………」
片や両手による押し込み、片や片手で支えるのみ。そんなアンバランスな中、両者は拮抗していた。小刻みに震える剣と刀、耳を通るは刃と刃が触れる時の金属音。鍔迫り合いと呼ぶには、右手のみで反りが小さな刀―――柄を長くした中華系の苗刀らしきもの―――を握る隼人にとってあまりにも温い状況だった。
「体ががら空きだな」
「しまっ―――」
故に、彼は左手に持つ鞘を塩野の胴体に打ち込みつつそこから衝撃波を流し込む。打撃に合わせた体内への直接攻撃によって青年の身体は僅かに浮き上がり、そのまま蹴り飛ばされてしまったのだった。
「ぐぅっ!?」
「その体たらくでよく『騎士団』に入れたな」
隼人は呆れて溜息を吐く。肩を二度ほど刀身の峰で叩き、話にならんと呟いていた。一方の塩野はというと、浸透した衝撃波による全身の痛みを堪えつつ、何とか剣を杖にして立ち上がった所であった。
「ッ……問答無用なんだろ?よく喋るじゃないか」
「あんたがあまりにも不甲斐ないから、思わず言葉が出ちまったのさ」
構えずに佇む少年と、痛みに顔を歪めながらも基本に忠実に剣を構えた青年。互いに挑発しあう二人。その間で吹くは焦げた臭いを運ぶ風、響くは天を赤く染めた炎の音。少年の臙脂色のマントと、青年の純白のコートが互いにはためく。
「強がるのはやめといた方が良いぜ、騎士さんよ。あんた程度、さっきの奴みたいに一太刀ですっぱり殺れるんだからさ」
「俺とて教会を守る剣の一員だ、せめて君の妨害ぐらいはさせてもらうよ」
その反論に隼人は忠告したぜと付け加える。そして筒状の鞘を腰のベルトに引っ掛けて、遂に左手を刀の柄に沿える。取った構えは脇構え。それは右足を引いて身体の左側を相手に見せ、刀を自身の右側に移動させて剣先を後方へと向ける構えのことだ。
この構えの利点は、人体の急所が集中する正中線を敵の正面から外し、狐の飾りを向けることで刀身の長さを把握させないという点にあった。また、こちらの左半身に隙を作ることで攻撃や視線をそこに誘導し、或いは単に相手の下半身や腕への攻撃がしやすくなるということがある。
隼人が確たる構えを取ったことで、塩野はより緊張する。飲み込むは生唾、血走る瞳。両者間の距離はおよそ八メートル。互いに駆け抜ければ結着は一瞬にして着くだろう。だが、斬り合いは何も実際に刃を振るうだけに非ず。刀を打ち合う前の、両者の脳内にて行われる仮想の実戦―――即ち情報戦もまた重要なのだ。
今まさに、少年と青年はそれを行っていた。故にまだ踏み込まず、刃も振るわれず。ただ静かに、睨み合う。不動たる隼人、剣先のぶれから焦りが見える塩野。それ故―――やはり先に出たのは塩野の方であった。雄叫びを上げ、決死の覚悟で走る騎士。先のアレックスとは異なり、武器を振り上げるのではなく、腰だめに構えて体重を乗せた突きを仕掛けたのだ。
「ッ!」
衝突まで五メートル、隼人は未だに動かず。脇構えを維持し、瞳を閉じる。
「ハァァァァァァァッ!」
四メートル。咆哮は高らかに戦場に響き渡り、塩野のアドレナリンがより増幅される。対する隼人は大きく息を吸って呼吸を止め、更なる静寂不動の境地に到る。波紋なき静かなる水面、それが隼人の心の内であった。
「―――斬ッ!!」
そして残り二メートル―――を切った所で隼人はさっと左に身体を捌き、塩野の突進からの突きを紙一重で躱す。そのまま素早く一瞬にして青年の背後に回り、その背に迅速の袈裟斬りを浴びせかかる。大きく弧を描いて白銀の軌跡を描いた長刀が、青年の肉を大きく斬り裂いた。隼人は斬り終わった際の姿勢で残心を取る。噴出した血飛沫が、少年の顔や服に跳ねていた。
「ふっ―――斬り捨て、御免」
少年はそこで漸く息を抜き、ぽつりと呟いた。一方の塩野はそのままの勢いで何メートルか走り抜けて、倒れ込む。右肩から胴体の左下―――腰まで届く大きな太刀傷が、斜め一文字に破れた白いコートの下から露出していた。最早勝負は付いたも同然だった。
「少し浅かったか。今楽にしてやるよ」
刀を払い、血を落とした隼人はそう言って死に体の男に近付く。うつ伏せの塩野は、まだ生きていた。血だまりを作ってぴくりとも動かないが、それでもまだ死んではいなかったのだ。
ゆっくりと歩み寄る少年。だが、その時だった。隼人は突如勢いよく振り返る。そこには先程の修道女が、白い拳銃を両手で握って銃口を彼に向けていた。
「ひ、ひぃッ!?」
不意打ちを気付かれた女は短く叫ぶ。拳銃は大きく震え、まともに命中するような状態ではなかった。それでも彼女が立ち上がったのは、やはり孤児たちと同僚を守らねばという使命感からなのだろう。それは隼人にも理解できた―――が。
「武器を取らないなら、殺しはしないさ。だが―――」
駆け抜けた白銀の閃光。一度だけ鳴った銃声。そして、孤児たち五人の悲鳴が鎮魂歌のように奏でられていた。
「―――武器を構えたあんたは、もう俺の標的の一つでしかない。恨むなら、怯えて軽率に拳銃を拾った自身を恨むんだな」
まさに刹那の間の所業。放たれた銀の弾丸を刀で弾いて間合いを詰めた隼人は、そこから最小限の動きで修道女の首を刎ねていたのだ。それも、僅か数秒の間に。冷たく言い放ったその時には、もう既に彼女の胴体と頭は分断されていた。
「あんたらは見逃してやるよ、だからさっさと逃げな。若しくはそこでじっとしてろ、そうすりゃ殺さない。けど、もし敵討ちがしたいって言うなら―――その時は相手になってやるよ、何時でもな」
横向きに倒れた修道女の遺体を跨ぎ、隼人は少年少女に近付きながらそう声を掛ける。復讐は復讐しか呼ばない、そんな愚かな連鎖への導火線であるということは彼も承知の上だ。だからこそ、彼は未来の復讐者にそう告げたのだ。被害者には、自分と同じように復讐する権利があると。そして加害者には、それを受けて相手をする義務があると。
そうして彼はその場を後にする。背に受けるは子供たちがすすり泣く音。まだ虫の息であった青年に近付き、彼はその背へ無造作に刃を差し込む。一瞬だけ塩野の右手がびくっと震えたが、それもすぐに終わる。命が儚く散った瞬間であった。
「さあ、さっさと出て来いよ―――あの三人組。十中八九、両親を殺したのはあんたらだって分かってんだ。早く出てこい。さもなきゃ、本当に皆殺しにするぞ」
引き抜いた刀の峰を肩に乗せ、少年は再び歩き出す。その後ろで剣先から零れた紅い液体が跡を作り、隼人の足跡となっていた。