虚の告解
6000字弱
注)いじめを彷彿とさせる描写があります。
注)後半、やや食事中に読むと気分を悪くされる描写があります。
いつからだったか。
僕は、彼女が好きになっていた。
図書室のいつもの窓際の席で、つまらなさそうに墓地を眺めるその横顔が。
授業で教師に当てられた時に答える、淀み無い芯の通ったその声が。
手紙の時間までまだ後30分近くはあったが、待ちきれずに何度も時計を確認してしまう。
誰も彼もが目的の方に足を運ぶ中、僕だけが宙に浮いたような足取りだと思った。
足下で何かを啄む土鳩でさえも、目的があるというのに。
「木下君」
「あっ」と漏れそうだった声を口に押し留めて振り返れば、彼女がいた。
先程とは反対の意味でちらと見た腕時計の時刻は、まだ約束の時間じゃ無いと律儀に答えた。
「ふ、藤本さん、あの」
「私の話を聞いてからでも遅くないと思う」
本当に来てくれたんだという驚きと、彼女が来てくれたという喜びで心がいっぱいの僕に、彼女はまた予想外の言葉を投げかけた。
「誰だって、裏切られたくないでしょ」
やや投げやりにそれだけ告げると、彼女は踵を返して歩き始めた。
「ま、待って!?」
反射的に伸ばした手は空を切って、そのまま戻ってきた。
成り行きのまま彼女を追いかけて、着いたのは近くの公園だった。
彼女は一番手近なベンチの端に腰掛け、こちらに視線をよこした。
僕は彼女に密着して座りたくなったが、寸前で思い直して彼女と少し間を開けて腰掛けた。
「話が話だから、場所を変えたかったの」
構わないよね? と彼女の目は問いかけており、僕はそれに首肯した。
彼女は少しほっとした様子だった。だが、僕はその先が早く聞きたかったので気が逸っていたので、彼女に縋るようについ聞いてしまった。
「それで、お返事は……」
「保留させて欲しい。ああ、別に一日も二日も掛かる訳じゃない。さっき言った通り、少し長いが話を聞いて欲しい、それだけだ」
彼女の底光りするような目に射竦められ、僕は二の句が継げなかった。
それを肯定と受け取ったのか、彼女はぽつり、ぽつりと、まるで小雨の日の雨樋から伝う水滴のように、少しずつ言葉を繋ぎ始めた。
「私は、君が思うような人ではないんだ」
ーーーーー
私は、人を大切にできない。
それは他人はもとより、自分も含まれるんだ。
私は、「大切にする」という言葉の意味を、忘れてしまった。
きっかけは何だったか分からない。
だが、私は私としての道を歩むのに、少々生真面目で優しく純心で、脆かった。
朝食では、祖母が母の悪いところを論った。
母は私の悪いところを論った。
弟はそれに便乗した。
『人の嫌がることはしてはいけない』
私はそれを肯定し続けた。
『大人の言うことは聞かなければならない』
学校に行くには『安全のために』トモダチと待ち合わせなければならなかった。
待ち時間は30分。
全員を待って歩き始めるが、いつも私は一人で歩いていた。
学校まで徒歩で10分。
『きまりは守らなくてはいけない』
トモダチと一緒に遅刻するのが、どうしようもなく嫌だった事があった。
自分がそうして、きまりすら守れない人間だと思われる事に我慢がならなかったが、『一番私を大切にしている』『大人の言うことは聞かなければならない』ので、耐えた。
それでも何度かトモダチに話したり、親に訴えたりしたが、「あなたのためを思って」と言われるともう、何も言えなかった。
親のやさしい心を、裏切りたくなかった。
学校では、馬鹿にされ続けた。
廊下を歩くと聞こえるのは、「死ね」。
「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」……、皆、面白がっていた。
本当に死んで欲しいのか、確認を取るために手摺りに両手と片足を掛けて確認したのが悪かったのか、それを見たい、面白いと思う人々が私に聞こえるように、囁いていくのだ。
しかし、私はこう思った。
『皆が笑っていられれば、大円団じゃないか』
『皆』に私が含まれるほど、私は高尚な人ではない。
私一人が耐えれば皆が幸せなら、それこそ皆の言う『民主主義的な多数決』、もとい最大幸福なのではと信じていた。
椅子の上の画鋲を見た時、それを使って皆と同じ赤い血が流れていることを確認したくなった。
しかし、一番行きたく無いと漠然と感じていたのは、部活動だった。
私は運動が苦手だ。
失敗すると、指導者に叩き飛ばされた。
紛れもなく体罰であったが、それは平等だった。
つまり、それを受けたのは私一人では無かったのだ。
多くの子どもはそれに耐えられるはずもなく……子ども達のストレスは私に収束した。
物は奪われ、壊され、私が意に削ぐわないことをするだけで泣き叫び……私が責められた。
家に帰ると、弟に理由もなく叩かれた。
眼鏡が吹っ飛んで、落ちた先に伸ばした手は踏まれた。
弟は、部活動のストレスを私にぶつけていた。
もちろん、親には見られない様に。
『弟は唯一の肉親だから大切にしなければならない』ので、私は姉という立場を笠に着て、何かをしたくはなかった。
そんな日が続いて、私は、いくつかの感情を忘れてしまったのだと思う。
楽しいとは何なのか。
悲しいとは何なのか。
怒るのはどんな時なのか。
心が弾んで歌い出したくなる感覚や、心が傷つけられて血を流す感覚も、わからなくなった。
肉体的な刺激は分かりやすく、殴られれば痛いことが有り難く、私が一人の人間と扱われていると信じることができた。
食べ物の好き嫌いを忘れ、表情を忘れても、まだ人生は昼下がりにもなっていなかった。
ベランダから飛び降りれば私は赦されるのかと思ったが、葬儀に金がかかる上に、私は金を稼いでいない事を知って、諦めた。
だから、私は人として扱われてはいけない。
私を好いても、幸せにはならない。
私は人を大切にすることも、共感することも、ましてや愛することなんて……無いのだから。
ーーーーー
「だから、君が私を好くのは自由だが、私にはその価値は無いんだ。これでもまだ、私と付き合おうと思うかい?」
僕は、すぐに返事ができなかった。
やや間を置いて、僕はすっかり重くなった口を開いた。
「藤本さんが、とても可哀想な目に遭ってきたことは分かりました。でも、でも! そんなのは関係ない」
彼女が何かを言ってしまう前に、僕は言った。
「……ぼ、僕は、あなたのことが好きなんです」
彼女は、すぐには何も言わなかった。
僕はすぐに居た堪れなくなって、自分の気持ちの告白を続けた。
「その誰にも流されないところとか、物静かに本を読む姿に惹かれたんです。それに、今の藤本さんを見ていて、本当に感情が無いだなんて思えない。掃除だって当番じゃ無いのに付き合ってくれるし、物事を正しく判断してくれるし、言うべきことは言ってくれるし、とても頼りになります」
「……」
「それに、たまに髪が跳ねていたり、ちょっと天然みたいなところがあって、とても可愛い」
恐らく、辛い思い出を引っ張り出して心が傷ついている彼女の頭を軽く撫でようとすると、ビクッと大きく震えた後、無抵抗で僕の手を受け入れた。
「すみません。やはり、貴方とは付き合えません」
ややあって、彼女はきっぱりとそう答えた。
「えっ、で、でも……」
何故、どうしてという思いが次々と湧き出しては口をついて出そうになるが、明確な言葉になる前に消えてしまう。
「私は、貴方の差し出すものを返せない。はっきり言って、貴方の感情が負担だ。貴方のように、他人を大切にすることが出来る人は、もっと他の人を探した方がいい。こうは言っては何だけど、深谷さんみたいな女子と付き合った方がいい」
「ぼ、僕は……藤本さんがいいんだ」
「知っている」
勇気を振り絞った二度目の告白も、すげなく断られた。
どうして……と膝から崩れ落ちそうになり、はずみでポケットから落ちたハンカチは、地面に出会う前に彼女に拾われた。
「君が私のことを好いているのは、アブラゼミより鬱陶しいからよく分かる。無意識だとは思うが、常に私の半径3mにいないと落ち着かず、私を見ると笑顔になり、視線を彷徨わせれば私に行き着き、下校時もギリギリまで私の後を追う。私はその気持ちを踏みにじりたくは無いし、貴方を傷つけるのも本位では無いが、ここははっきりと言うべきだと知っている」
彼女が僕のことを見てくれていて嬉しい反面、僕の気持ちは第三者から見ると分かりやすかったのかと少し恥ずかしくなった。
彼女は覚悟を決めて、こう言った。
「その行為はストーカーで、気持ちが悪いからやめてほしい」
「あ、え……」
「そんな人とは付き合えない。せめて、女子の嫌がることを覚えてから、告白してほしい」
胸が痛い。
彼女の目が、拒絶ではなく憐憫を浮かべているのが一層に辛い。
止めを刺された上で、息の根まで止められた様だった。
彼女は僕の手にそのハンカチを握らせた。
「あ、ありがとう」
「次からは気をつけて」
彼女は荷物をまとめ始めた。
もう帰ると言わんばかりである。
僕の中はさまざまな感情でいっぱいだった。
ぐるぐる回っては落ちて、また浮かんでは消えていく、シャボン玉の様だ。
それでも何かを言わないと、と口を開いた。
「僕は、こ、こ……告白して良かったのかな」
そんな中言葉になったのは、こんな下らない問いだった。
「私は、これで、貴方にとって良かったと思う」
既にベンチを立っていた彼女に再び伸ばした手は、何も掴むことができなかった。
彼女のいなくなったベンチで少し自分の姿を思い直すと、惨め過ぎて笑えてしまった。
●
ちゃんと断れて良かった。
少し昔話が長くなってしまった事に加え、昔話が哀れさを誘っている様に聞こえた事は次回以降の反省点にしたい。
男性で、意味の分からない行動をする人物と話をするのは正直怖かったが、何とかリハーサル通りに事を運べた。
「どけよ、歩行者危ないぞ!」
物思いに耽っていた為に、歩道を走ってきた自転車にぶつかりそうになったが、間一髪であった。
ぶつかって、もしあのおじさんに賠償金が発生したら申し訳が無かったので、良かった。
しかし、あのままぶつかっていたらどう人が傷ついたのかには興味があった。
それでも怪我は面倒なので、ぶつからなくて良かったと思う。
私には、食べ物の好き嫌いは無い。
肉体的に楽だとか、筋肉や骨が軋んで辛いだとかはあるが、心が動く事は無い。
私の胸は空っぽで、もうそこには何も無いからだ。
映画を見て泣く事も、理不尽を強いられて怒る事は無い。ただただ時間を取られて煩わしいだけだ。
しかし、『嬉しい事があったら喜ばなければならない』ので、沢山の本から、周りの人間から、その都度の感情を学習した。
あのおじさんとぶつかった時は恐らく、怒りを感じるべきであったが、同時に恐れても良いので何も応答しなくても良いと判断したのだった。
だから、私が優しく見えるのは、私が与えてもらいたかった事を相手に為しているだけで、相手への思いやりや優しさは一分たりとも含まれていない。
いつ、牙を向かれるか分からない獣に、餌付けをしているだけだった。
私は、目に映るもの全てが怖かった。
命を脅かされるのは、誰だって怖い。
ふと目をやると、小型犬を散歩しているご婦人が見えた。
あの犬もきっとこの足で首を踏めば死ぬだろうし、ご婦人も首をへし折れば死ぬだろう。
それは、私も同様に、簡単に殺されるという事を意味している。
瞼を閉じると、今でも知らない男性が包丁を振りかざしている姿が焼き付いていた。
あれに刺されていたら、死ぬまでにどれだけの痛みを感じていたのだろうか。
焼肉屋では、窓を覗くと肉の切れ端が網の上でジュウジュウと音を立てて焼けていた。
背ローズや、タンやらレバーやらと呼んでいるが、あれは、死体から引っ張り出して腐る前の背筋や舌、肝臓といった屍肉である。
そう考えると、目に入る動物がすべて、あの赤身と臓器と骨で出来ていると分かり、自分と同様だと安心できる気がする。
先程の犬だって、毛を剃って皮を剥けば筋繊維と骨が見えるに違いないからだ。
口だけで同じ文言を唱えるよりも、余程確かな証拠となるに違いない。
本当はそれを確かめてみたいのだが、想像を行動に移してしまう程、私は馬鹿でも空想家でも無い。
現実と想像との壁はよく認識しているし、定められた規範を守っていれば生存を許されるのだから、敢えて危険を冒すのは愚策だ。
それに、解剖は授業だけで十分満足している。
多くの本を読んだが、きっと、こんな私は狂っていると判断せざるを得ないのだろう。
少なくとも、そう大多数から判断されるに違いない。
もし彼と付き合っていたら、それがいつ暴露されるか分からない。
そうして異物を排除しようとする社会はまるで、体からウイルスを追い出す免疫機能の様だ。
日本人というレッテルを貼られた細胞を守るために、違うものは悪いものとして追い出される。
それは、『空気を読む』ことで得られる共通観念によるものの場合もあるという。
私は、目に見えないそれが無性に怖かった。
もうすぐ家に着く。
母は仕事で疲れており、これ以降の家事は全て私の仕事であった。
『本日の楽しかったこと』のネタとして、木下君とお喋りできたと言っておけば、家族は納得するだろうか。
笑顔の練習をしながらイメージトレーニングをしている内に表札が見えてきた。
今日は弟に殴られて、痛いという反応を見せるべきか悩む。
日によって、痛い思いをしている姿を見せた方が早く終わる事もあるからだ。
一瞬、誰かに後ろ髪を引かれた様に体が動かなくなったが、私はそれを無視して無理やり足を前に運んで、家の扉に手を掛けた。
「ただいま」
お読みいただきありがとうございます。
感想や、「この言葉の意味は何を意図したんだ?」等の質問を頂けると有り難いです。
一般受けはしない事を重々承知しておりますが、あなたの執筆活動の糧として頂けたら幸せです。
ーーーー
2021/9/5
以下、本文の解説です。
いらないと思う方は飛ばしでどうぞ。
>僕は、彼女が好きになっていた。
大人っぽく見える彼女への背伸びをした憧れと、他とは違うものが気になってしまい「特別」が欲しいという所有欲と、思春期の男子高校生特有の女性に興味を持つ感情がないまぜとなった空虚な錯覚です。
恋なんて錯覚みたいなものです。
>手紙の時間まで
ベタですが、彼は彼女の下駄箱か机の中かにラブレターを入れたのです。
行動原理が昭和からアップデートされていないですね。
>僕だけが宙に浮いたような足取りだと思った。
上記の気持ちを自分でも薄々気付いている感じです。彼の動機は明確ではありません。ふわふわした感じなのです。
恋なんてそんなものかも知れません。
>先程とは反対の意味で
最初に時計を見た時は「まだ時間じゃないよな……」でしたが、今の時計を見た時は「まだ時間じゃないよな?!」になりました。
>「ふ、藤本さん、あの」
彼の中は感情でいっぱいだったので、この言葉の後には何か意味のある言葉は続かなかったでしょう。
>反射的に伸ばした手は空を切って、そのまま戻ってきた
今後の展開を示唆しています。
>寸前で思い直して
一応、幼馴染(深谷さん)から「あんまり近付くと気持ち悪がられるよ。覚えてといて」と念を押されてここに来ています。彼は(そんな事はないけど……)と思っていますが、側から見ていた幼馴染は彼の為を思って単に親切心で忠告しただけでした。
>「私は、君が思うような人ではないんだ」
これに全てが詰まっています。
「思うような人ではない」と「君が思う、人(一揃いの感情を揃えたという意味での)ではない」と、自己評価を下しているという意味です。
彼女は彼の感情に触れる気は無く、義務的に真面目に返したつもりでしたが、彼には少々高圧的な言葉と捉えられてしまい、後の過去の話を話半分にしか聞かれない事態を引き起こしました。
>『一番私を大切にしている』『大人の言うことは聞かなければならない』
彼女の親からの言葉です。親は単に親切心であったり、教育の為に掛けた言葉でしたが、彼女にとってそれは不可逆な天命の様に感じ、いつも傷付いていました。
傷付いていた事さえも親の言葉で否定されているので、自分を騙し続けていました。この辺りから「心」と「意思」の乖離が見られ始めます。
>『皆が笑っていられれば、大円団じゃないか』
自分が無様な事をして、人に笑われるのが役目だと思っていました。『トモダチ』に聞くと、それが彼女の取り柄らしいのです。
だから、彼女は自分の死を望む人々の心に寄り添い、自分の死は愉快で楽しい事で、皆が死を望んでいる……自分には何も価値が無いと肯定し続けました。皆と一緒になって、自分を馬鹿にして笑い続けたのです。
これが社会で、こうして自分が犠牲になって、社会に尽くすのが大人だと考えました。
>皆と同じ赤い血が流れていることを確認したくなった
心を持ち、正常である人間とどこか共通点を見つけたくなったのです。
>私が責められた
劣等感どころか、自分が生きる事にすら罪悪感を感じています。
>殴られれば痛い
唯一の刺激で、自分が生きている事を確認する方法でした。
>私は人として扱われてはいけない
人として扱われて来なかった者に、人並みの感情を求めても、何も返せない。私には何も無く、時に壊され、時に自分で壊しながら何もかもを失った。
人以下の存在で、人として扱われるのは人への侮辱だろうという意味です。
>「藤本さんが、とても可哀想な目に遭ってきたことは分かりました。でも、でも! そんなのは関係ない」
ここで、彼は付き合えるチャンスを失いました。自分の感情を優先する彼の様子が表れています。
「可哀想な目」というのも、そういったいじめに遭った事のない人の、想像力の欠如に端を発する非常に傲慢な考え方ですね。
「関係ない」と彼女も思っているのなら、わざわざこんな話は彼にしません。
>自分の気持ちの告白を続けた。
ほぼ見た目!
後は外面!
付き合う事を「深く相手を知るため」と理解し、真摯に向き合っている彼女の言葉を踏み躙っている事を彼は分かっているのでしょうか。
「(外面は良くても)中は空っぽだよ」と言った彼女に対し「外面で惹かれました」は端的に言って草。
>辛い思い出を引っ張り出して心が傷ついている彼女の頭を軽く撫でようとすると
体罰言うたやん!
得てして体罰の記憶を引き摺る者達は、身体的な接触を極度に恐れる場合があります。因みに猫なども暴力を振られていたりすると頭の上から撫でられる事を恐れたりします。
トラウマを抉っているのは彼の方です。
>無抵抗で僕の手を受け入れた。
彼は優越感や自己満足に浸っていますが、彼女は逃げ出したくなったり、吐き気のする気持ちを何とか抑えています。
彼女を「あの時」へ戻す最後の一押しまでもが、彼の手で行われました。
>明確な言葉になる前に消えてしまう。
「彼女を好きだ」と錯覚したふわふわした気持ちを否定されても、明確に言語化された気持ちなぞ残らないでしょう。
>深谷さん
彼に忠告したり、彼の恋愛相談に乗っていた幼馴染です。深谷さんは男勝りではきはきしており彼を尻に敷く様な力関係を周囲に見せており、彼はそんな深谷さんに食傷気味となり、ミステリアス(に見える)藤本さんにアタックを仕掛けた次第です。
>二度目の告白
二度目でやっと、自分の気持ちを否定された事を自分で認め、思った通りにならない不満と彼女への淡い恋心を傷つけられた痛みで膝から崩れています。
>落ちたハンカチ
「泣いている」という間接的な表現です。
情けない男です(実話)。
> ストーカー
クラス全員が知っていて、恋の玉砕が一番早いからと見て見ぬふりをしていました。
気付いていなかったのは、やっていた彼だけです(実話)。
>拒絶ではなく憐憫
憐れみを掛けた相手から憐れみの視線を向けられた事。
この時からこれは告白では無く、ただただ彼の幼稚さを指摘される場にしかならなかった事。
男とすらも見られていなかった事。
彼の心を真正面から全面的に否定してのけた彼女に、彼ははじめて反省を覚えました。
>ハンカチを握らせた。
ハンカチを拾ってから返すまでは、「てめーが泣く事も許さねえよ」という彼の非を責めるターンでした。
彼女にはそんな気持ちは微塵も無く、この後に及んで彼の将来の事を考えながらの親切心から来る助言という意識だったのですがね。
>「僕は、こ、こ……告白して良かったのかな」
「私は、これで、貴方にとって良かったと思う」
これ。
彼女は何の衒いも無く、彼の成長に繋がったので自分を犠牲にして良かったと言っています。
ところで、実際あなたが言われたらどう思います(実話)?
> 再び伸ばした手は、何も掴むことができなかった
最初は良く分からずに伸ばして何も掴めなかった手ですが、最後は何も掴めなかった事に重きを置いて自覚があります。
彼は、自分の手の届く範囲が少し分かりました。
> 惨め過ぎて笑えてしまった。
反省が出来る様になり、一つ彼が成長した事を示しています。
やはり恋愛は人を大きくする(恋愛未経験者論)。
>正直怖かったが、何とかリハーサル通りに事を運べた。
自分よりも筋力のある相手と一対一なのは正直怖いですね。彼女は本当は会いたくなかったのですが、彼の為を思ってと、彼にもっとよく分からない行動をされるのも怖かったので呼び出しに応じました。
恐怖で話せなくならない様に、脚本を書いてリハーサルをしていました。
>歩道を走ってきた自転車
自転車は軽車両なので、ぶつかって怪我をしたら賠償金を支払うのは自転車です。
こういったおじさんは、気の弱そうな相手にこうした行為を仕掛けてきます。
彼女はおじさんの為を思ってどきました。
>私が与えてもらいたかった事を相手に為しているだけ
報われた事は一度もありません。
それが親切だという事にも気付きません。ただ自分を傷付ける相手の為にだけ生きて、自分の傷から逃げ続けているだけの無様な生き方です。
>赤身と臓器と骨
彼女と他の存在との数少ない共通点です。
自分を相手に投影して、相手が自分を傷付けた事への「正当性」を自分で証明し続けなければ、親に禁じられていた『相手を下に見ること』『傷付けること』に抵触しかねないからです。
>異物を排除しようとする社会
彼女がどんなに努力して追いつこうとしても、どんなに皆と同調しようとも、自分を殺し続けようとも「異物」として扱われ続けている。
学校という社会にて、同じ「人」として扱われない彼女は、「人」以下の異物となっている。
最大幸福の社会の為、社会に殉じようと自分を否定し続けた彼女はしかし、自分を否定し続けている事で「異物」となっている事にずっと気付かない。
> 笑顔の練習
笑い方が分からないので、練習を欠かさないのだ。
『表情が無いのは不自然』であるからだ。
意地悪な笑い方、鼻で笑い飛ばす様な、満面の笑み、涼やかな笑み等、鏡を見て練習し、表情筋の使い方を顔に覚え込ませている。
>誰かに後ろ髪を引かれた様に体が動かなくなった
彼女の無視し続けた心が必死に彼女を止めようとしていますが、止められませんでした。
>「ただいま」
自らの意思で断頭台に登り切った犯罪者をイメージしています。
これからも、彼女は自分の心を殺し続けるのでしょう。
>虚の告解
告解とは、「キリスト教の幾つかの教派において、罪の赦しを得るのに必要な儀礼や、告白といった行為をいう」(Wikipedia)
彼女が神(他の人間へ)、自分の罪を告白して許しを得る為の行為であると共に、それが虚であり本来の罪では無くて許されず、また、告解事態が虚である為に許しを得られないという、彼女サイドから見た意味があります。
加えて、告解をする相手も神ならぬ人であるので虚となり、告白をした彼の心も虚で、告解にすらならぬ独りよがりの訴えであった事もまた虚でした。
誰も救われないという意味が込められていました。
以上です。