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お、お仕置きだなんて...。
いや、なんか言い方がとっても乙女ゲームチックだけど。
こんなにんまり顔で周りに花を散らしたまま言われても可愛いだけなんだけど。
隼人もこっちを見て目玉が落ちそうな程目をひん剥いてるし、千捺なんて自分の席にいるくせにこっちガン見してるし、ほかの女子の目は痛いしでもういろんなことに勘弁してくれ...。
「か、要。もうそろそろHRが始まると思うから席に着いた方がいいと思う。」
とにかく私から要を離そう。
あながちHRが始まるのは嘘じゃないし。
先生来てないけど。
「...。そうだな。また来る、」
残念そうに私の手を離すと隼人を連れて自分の席の方へ向かった。
それにしても良かった…。よくある席が隣とかじゃなくて。
ここの世界の要は乙女ゲームの要とは違うところばかりある。
可愛いかったり、クールじゃなかったり、さっきの曲がり角で一目惚れしてなかった(?)り、色々と違うようだ。
考えふけっているとドアから先生らしき男の人が入ってきた。
「皆さん。初めまして。このクラスの担任を受け持つことになりました。星 雅博といいます。1年間よろしくお願いします。」
少しくせっ毛のある茶髪に丸メガネという少し冴えなさそうなこの担任。
実は隠しキャラその1だ。
メガネを外すとそれはもう凄いイケメンになる。主人公が最初から要ルートではなく、生徒会長の紫原晴人のルートの途中で出てくキャラだ。
担任である星雅博は生徒会の顧問でもありそこで主人公は知り合うのだ。
「えーっと、今日は入学式だけで解散となります。この後クラブ体験や見学がありますので興味のある方は席を立たずその場で待機してください。10分後に説明を開始します。」
クラブ体験か...。
要達攻略キャラは生徒会に入るだろうからクラブには強制的に入れない。
ヒロインもそれに当たる。
私は生徒会に入るつもりはないからクラブに入ってもいいかもしれない。
クラスの大半が入らないのか、皆席を立って移動し始めていた。
千捺はどうするのだろうか...。
ゲームの中ではモブ中のモブだったから千捺の行動については全くわからない。
まぁ、本人が転生者な時点でシナリオ通りにはならないのだけど。
「美咲。」
気づけば要が私の前に立っていた。
「要?なんですか?」
「...座りっぱなしだがクラブに入るつもりなのか?」
あぁ、そういうことですか。
「どうしようか迷っているの。興味はあるのだけれど...。」
「美咲。俺と一緒に生徒会に入らないか?」
「え?」
生徒会に入る?私が?
「俺は生徒会に勧誘を貰っていて入るつもりでいるんだが、是非美咲にも生徒会の活動を手伝って欲しいと思っている。」
まさかのお誘い来ました。
けれどよく考えてみれば1年で生徒会に入れる人数は決まっている。
原作通りヒロインである花園凛と、要、隼人の3人までだ。
そこにイレギュラーな私が入ったらそれこそ原作がひっちゃかめっちゃかになってしまう。
ここは断っておくのがいいと思う。
あくまで私は悪役令嬢だし、婚約破棄される運命だし...。
「要、私...」
「いいな。やったらどうだ?」
「え、」
私が断ろうとしたら急に横から入ってくるなんて...!!!
何考えてんだ隼人!!!
「隼人様?でも、生徒会に入れる人数は3人までと決まっておりますよ?」
「あぁ、だからいいんじゃないか。
俺だろ?要に美咲な。」
ほら、丁度3人!と言わんばかりに指を3の形にしてニコニコと笑う。
くぅ、かわいい。
私と千捺以外生徒会にヒロインが入ってくることを知らないからこう言うんだ...。
「でもほら、他にもやりたい人がいるかもしれないでしょう?そしたら特にやろうとも思っていなかった私は厄介者ですわ。」
「別に勝手に競わせとけばいいだろ。」
要はふんっと鼻を鳴らすと私の鞄を取って歩き出す。
「あ、要待ってっ」
また私の鞄を人質にとってる!!
さっさとヒロインのところに行けばいいのになんで私にずっと構ってくれるんだろ...。
「か、要?ほんとに、鞄持たなくても大丈夫よ?私自分で持てるわ。」
「いいんだ。俺に持たせろ。」
鞄は絶対に離すまいと要はぎゅうっと私の鞄を掴む。か、かわいい...!
「じゃあ、宜しくね、ありがとう。」
お礼を言った途端ぱぁっと要の周りに花が咲く。これぞ2次元パワー...!!!
にしてもほんとに要は可愛いな...。
ゲームとは似ても似つかない性格をしてる。
ここがただのゲームの世界じゃなく、現実の世界なんだと思い知らされた気がした。
何故か自分の家の車ではなく要の家の車に揺られている訳だが、その間要は私の鞄を離す所か私の指まで掴んで窓の方を向いていた。
なんだろう...。この幼児感。
「そう言えば要は何故生徒会に入ろうと思ったの?私知らなかったわ。」
「まぁ、いろんな理由があるが1番はこの先俺は東條家の跡取りとなる訳だから生徒会のような中心で何かを纏めることになれておいた方がいいと思ったからだ。」
要はちゃんと考えているんだな...。
ただでさえ私は女だし、そこまで強制されている訳でもない。
だから将来の事とか何も考えていなかった。
記憶がもどる前も戻った後である今でも。
でもやっぱり現実の世界なんだからちゃんと考えた方がいいとは思ってる。
何せ乙女ゲームとは違ってストーリーが終わったらはい終了じゃない。
私にはこの先にも人生のレールが続いていて、攻略対象である要達にも人生がある。
全ての時間をストーリーに費やせる訳でもないのだ。
それをわかった上でこの先行動しなきゃ行けない。
んん...。難しい、
ふと頬に何かが触れている感触が伝わってくる。
頬に手を当てると要の手が私の頬に触れられていた。
「要?」
「何か難しいことを考えているのか?
皺が寄っている。」
「あぁ、えっと、要はちゃんと将来の事を考えて行動してるんだなって思って...。」
「。?それが?」
「私ってあんまりそーゆー事考えてこなかったから凄いなって思って。私も身の振り方って言うのかな。そういうのそろそろ考えた方がいいよなって思ったのよ。」
私の話を聞くと要は少し眉をひそめて私を見た。
なんで要がそんな難しそうな顔してるの?
「美咲。美咲は誰の婚約者だ?」
「そんなの要のに決まってるでしょ?」
「あぁ。そうだよ。」
「え?だから?」
「美咲はそんな難しいこと考えなくてもいい。なんなら身の振り方とかいうことも考えなくていい。」
え、なんで要の婚約者であることがそれに繋がるのかよく分からないのだけど。
「えーっと、どういう事?」
「だ、から!美咲は俺の妻となるだろ!それ以外にはならないんだから考えなくていいって言ってるんだ!」
...つまり、それは俺が働くから私は何もしなくていいってことかな...?
んんんんんんっ、!!!
かわいい!!え、なに?!ほんと、要ってこんなこと言う人だったの!!
「つまり私は要の所に嫁ぐから何も心配するなってこと?」
「まぁ、そういう事になるな...。
俺が働くわけなんだから美咲は俺のサポートをしてくれればいい。」
何も考えるな。と私の頭をぽんぽん叩く。
うぅ、萌え死にそう...。
萌え死にそうだけど!!
私婚約破棄されちゃうんだった...!!
めちゃくちゃときめいたけどこのままじゃダメだ。
やっぱりバイトでもしてこの先のこと少しでも考えた方がいいかな...。
「美咲?お前俺の話を聞いていたか?」
あ、また難しい顔してた?
「大丈夫。分かってるよ。」
こっちでも色々進めるから安心してヒロインと付き合ってね。
うんうんと頷くと丁度私の家に着く。
「要、ありがとう!また明日ね。」
くいっと要から鞄を奪って手を離すとドアを開けて車を降りる。
「あ、おいっ!」
要が何か最後に言おうとしてた気もするけどまぁいいかと家の中に入った。