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私達はお互いに目を見合わせるとどちらともなくひしっと抱き合った。
「まぁまぁまぁ!!仲間がいるなんて!私、前世では神奈川県住みの中3だったんですの!」
「そうなのね!!!私は千葉県住みの同い歳よ!!!」
2人で手を繋ぎきゃー!!と興奮気味に話していると、入学式が始まってしまった。
式が始まっても興奮が収まらず握りあった手をぎゅうぎゅうとお互いに力を入れた。
「まさか、悪役令嬢の北条美咲が転生者だとは思わなかったわ。」
「普通は自分以外の転生者がいるなんて考えないわ!私もびっくりした!」
「私の名前は有栖川 千捺というの。」
「有栖川千捺って、ストーリーの中で出てきた事あったかしら?」
「いいえ。私はいわゆるボブってやつよ。」
「そうなの?でも主要キャラ以外に転生するなんて。」
「そうなのよねー。私は何のために転生したの?っていう。」
「思っちゃうわね。」
2人でこそこそと話していると、理事長先生の話、校長先生の話が終わり、私の婚約者である西園寺要が出てきた。
マイクの前に立つと、1礼し話始めた、のだが。
「ねぇ、貴方の婚約者こっち見てるわよ。」
「...ね。なんでかしら。」
そうなのだ。何故か要がこちらを見ながらスピーチしているのだ。
「貴方本当に西園寺要に愛されてるのね。」
「えぇ?私が愛されている?何かの間違いよ。それ。だって、婚約破棄するのよ?」
そう。私達は婚約破棄する予定なのだ。
「でも、私達みたいなイレギュラーがいるのよ?未来が変わってもおかしくないでしょう?」
確かにそうなのだ。実際さっきも凛さんとぶつかったのは私だったし、転生者が2人もいる。
「でも、、」
「それに貴方...」
「え?」
「...いいえ。なんでもないわ。」
そこで会話が途切れ、入学式が終わるまで私達は話さなかった。
式が終わると私達は連絡先を交換し、私は要を待たなくては行けないので千捺とは別れた。
「待たせたな。」
私が席に座って待っていると要がドアから出てきて私の前に来ると私の手を取り立ち上がらせた。
「いいえ。そこまで待っていませんわ。」
何故か手を握ったまま歩き始めるとまたしても私の鞄を取り上げた。
だから何でこんな思わせぶりな事をするんでしょう。ゲーム同様好きになったらどうしてくれるのかしら!
まぁ、好きになんてならないけど。
そう思う私の気持ちになにか黒いもやがかかった気がした。
「美咲。」
「何でしょうか?」
「もう友達が出来たのか?」
「えぇ。有栖川千捺さんというんです。」
何?千捺が気になるの?
まぁ、可愛いもんね。わかるよ。
私が男の子だったら付き合いたいタイプだよ。
「そうか。俺は美咲があんなに興奮しているところを見ることが久しぶりだった。」
「そうですか?」
「...なぁ。俺といるのは楽しくないか?」
えぇ、なんですか。その問は。
イケメンが隣にいてとても目の保養になってますが?
そんな事ないと言おうとして、要の方を向くと、要は顔を歪ませて今にも泣きそうな顔をしていた。
なんでそんな顔をしてるの?
「ま、まさか。そんな事ないですわ。私は好きで要といるのですから。」
要が泣きそうな顔をしているから少し言葉が詰まってしまった。
言葉が詰まったのを誤魔化すために握ったままだった手に少し力を入れて微笑んだ。
「そうか。」
凄く短い返事だったけど、私にはとても嬉しそうに感じた。
...まぁ実際顔は緩みきっていたし私が力を入れた手を要も握り返してきたのでそう言われて嬉しかったのだろう。
なんでそんなに要が不安になっているんだろう。婚約破棄されるのは私なのに。
でもこうやって不安がって、嫌いじゃないと私に言われて喜んでいる要を見て舞い上がっている私もきっと満更じゃない。
「...そういえば私はなん組なんでしょう?」
なんとかこの微妙な場の空気を変えるべく話題を振った。
「美咲のクラスは俺と同じだよ。」
「え?そうなんですか?」
「あぁ。まぁ婚約者だから当然だろう。」
えぇ、要さっきから「婚約者だからな。」
という台詞が多くない?私の気の所為?
「そうなんですね。」
「...不本意だが、隼人も同じクラスだぞ。」
「え?隼人様も?」
北東隼人。彼は幼馴染でもあり、この乙女ゲームの攻略キャラでもある。
まさかの攻略キャラが2人も同じクラスなんて。
しかも、よりによってこの2人である。
要ルートだと出会い頭にぶつかるところからストーリーが進むので、要ルートに入ったのは間違いない。
要のルートに入ると好感度の高さによっては最後の方で、幼馴染の北東隼人と要に取りあいされるイベントがある。
そう。取り合いされるイベントがあるのだ。
勿論当て馬役の私も出てくる。
幼馴染を2人ともヒロインにとられて躍起になって嫌がらせが悪化させるのだ。
そこで北条美咲がやってきた悪事が攻略キャラにバレて北条美咲は婚約破棄されるのだ。
まぁ、私は2人が取られた(?)からといって躍起を起こしたりしないし、嫌がらせを鼻からする気なんかないが、補正がかかって私がやってないことなども私のせいにされかねないのだ。
だから、そのイベントが起こりやすくなったこのクラス。
私は用心してこの1年間を過ごさなくてはならない。