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「いてて...。」
はっとして声の方を見てるとふわふわとしたピンクの髪とすっとした鼻にぷっくりと形の整った唇。
ヒロインの花園凛が尻餅をついて涙目でこちらを見ていた。
ひゃぁぁぁあぁぁあ...!!!
私もしかしなくてもストーリーぶち壊した?!
私が花園凛とぶつかってしまった...!!!
出会いイベントのストーリーが崩れた!
ど、どうしよう...!!!
「ご、ごめ、」
「おい、お前。ぶつかっておいて謝りもしないのか。失礼な奴だな。」
えぇえ...。まさかの要が突っかかるの?
ぶつかられた訳でもないのに...?
ま、まさか、補正かかってる?
このまま私が何も言わずに立ちさればストーリー元に戻る??
「ご、ごめんなさい...!!!ホールに行きたかったんですけど迷ってしまって...!」
くぅ、流石ヒロイン...。可愛い...!!!
「だ、大丈夫よ。私の方こそごめんなさい。私も前をよく見ていなかったの。お怪我は?」
「ごめんなさい...。大丈夫です...」
オロオロとしながら私が差し出した手を握り立ち上がった。
「迷ってしまったの?ちょうど良かった。私達もこれからホールに行くのよ。一緒に行きましょう?」
「え、いいんですか?」
「えぇ、勿論!!!」
まぁ私は場所がわからないけども。
要が連れていってくれるし、このまま補正がされて2人が仲良くなれば...。
私も仲良くなって最悪な形での婚約破棄にはならないし、友達もできて一石二鳥!!!
私が目指すべき未来は婚約破棄をされたとしても西園寺家の敵にならないこと!
西園寺家に目をつけられる様なことをすれば北条家は路頭を迷うことになる。
そうならない為に、穏便に婚約破棄をする!
私は別に花園凛と西園寺要の邪魔がしたい訳では無い。
2人が幸せになれる将来があるのなら2人はくっつくべきだし、私は邪魔しちゃ行けないと思う。
穏便に婚約破棄出来れば花園凛とも友達のまま、西園寺家との繋がりも消えない!!!
よし。穏便に婚約破棄できるように頑張る。
私という邪魔者が居ながらもとりあえずストーリー通り2人を会話させることに成功した。
何故か私を真ん中に挟みながら会話しているが。
「私、花園凛って言うんです!!!
よろしくお願いします!!!えっと...」
「あ、私は北条美咲というの。こちらこそ宜しくね。えっーと、こちらが、、」
「...。」
え、なんで黙っているの?!
普段なら私より先に喋って私の分の自己紹介まで要が終わらせるくせに...!!!
自分のことくらい自分で言いなさいよ!
あ、わかったわ。可愛い子を目の前にして緊張してるんでしょ。
もうっ、しょうがないわね!
「こちらが西園寺要様よ。」
...。これ以上なんて説明するの!?
これから恋仲になる子にわざわざ
「この人私の婚約者です。」なんて説明しないわよ!?
「そうなんですね!宜しくお願いします!!!西園寺様!」
「...あぁ。」
...あれ?乙女ゲームのストーリーではここで要は「要。西園寺と呼ばなくていい。」
ってぶっきらぼうに名前で呼ぶことを要求するのに...!!!
どんだけ緊張してるのよ!このへっぽこ!
「それにしてもこの校舎とっても広いですよねえ…!私校門をくぐる時に門が大きくて少しビビっちゃいました。」
わかるわ。その気持ち。でもね、なんで私に話しかけるのかしら...!!!
その会話は要にしてあげてちょうだい...!
きっと貴方と話したくてうずうずしてるはずよ...!!!
「えぇ、そうね。要様もそう思ったでしょう?」
「...まぁ、そうだな。しかし美咲の家の門とそこまで変わりもなかったような気もするけどな。」
そう、その調子よ!
「えぇ!そうなんですか!?北条様のお家ってすごく大きいんですね!」
えぇ、そこで私の話になるの...?
「えと...そんな事ないわよ。あと、北条様だなんて呼び方やめて欲しいわ。是非下の名前で呼んでちょうだい?」
「...!!!ほんとですか?是非!!!えっと美咲...さん?」
「えぇ、宜しくね。凛さん。」
「...。」
「...おい、美咲。」
「...?はい、何でしょうか?」
「美咲はいつまで俺のことを様付けで呼ぶつもりだ?」
...え?
いや、考えたこともなかったんですが...。
だって前世でも要のことは皆んな要様って呼んでたし...。
「えと...。いつまで、でしょう?」
その回答が気に障ったのか少し眉をひそめて私を睨んだ。
えぇ、なんで睨むの...。
「要、要でいい。」
「...え?」
「...。だから、要と呼べと言ってるんだ。」
えぇえ、要様...。それはヒロインである凛さんに言う台詞ですから...!!!
「わかりました。えっと...、か、要。」
心の中じゃ呼んでいるのに、いざ口に出すとなるととても緊張する...。
「あぁ。」
なによ、呼ばせておいてそれだけ!?
と思い、要の顔を見上げると満足そうな顔をしてこちらを見ていた。
...なによ。その顔は。
ちょっとときめいちゃうじゃない。
思わせぶりな態度を取るからゲームでも私みたいな面倒な悪役令嬢に好かれちゃうのよ。
「...。お2人って仲がいいんですね!」
「えっ、?」
「当たり前だ。俺達は婚約者だからな。」
「「えっ!?」」
「...なんで美咲まで驚くんだ?」
いや、そんな怪訝そうな顔で見られても...。
「いや、宣言されると思わなかったので驚いてしまいました。」
「...何故だ?」
「え?」
「婚約者だと宣言してはならない理由でもあるのか?」
んんんんんん。
後に貴方が困ることになるんですよ!
...なんて言えるはずもなく、
「いいえ。」
「お2人って婚約者同士だったんですね!
だからそんなに仲が良かったんですね!」
うわぁ...。明るい声が逆に私の心に響く...。
このあと婚約破棄して自分が婚約者になるだなんてきっと思ってもいないのだろう。
「...着いたぞ。」
ホールに着いたようだ。
ホールのドアを要が開けると、中には結構な人数が既に集まっていた。
「俺は代表としてスピーチがあるから式の最中には席には戻らない。美咲、式が終わっても席から動かず俺が来るのを待っていろ。」
「え?私は1人でも教室に行けますわよ?」
「いいから、待っていろ。」
「...わかりました。」
なんでだろうと凛さんと目を見合わせていると、要に手を引かれずんずんと進み始めた。
凛さんは動くつもりがないのか私に手を振ったので私も手を振ってわかれた。
「要?どこに行くんですか?」
「美咲の席だ。お前の席は一応俺から1番近いところになっている。」
私の席は中央にあるステージから1番前の席で、裏から出てくる人達が使うであろうドアの一番近くだった。
私の手を引いてその席に座らせると私の頭を一撫でし、バッグを膝においてドアから出ていった。
いやいやいやいや、頭を撫でる必要あったの?!またときめいちゃったじゃない!
「仲がよろしいんですね。」
「え?」
私にそう声をかけたのは私の隣に座っていた女の子だった。
はちみつ色の髪と目をした可愛い女の子だった。
「えぇ、、まぁ。」
今のところは一応婚約者ですからね。
「...。おかしいわね。二人の仲は最悪なはずなのに...。」
「え?」
今なんて言った?
小声であんまり聞き取れなかったけど今...、
「なんでもな、」
「貴方!!転生者ですか?!」
「!!!!!!」
お互いに目をめいいっぱい見開いて固まった。