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ショゴス探偵の怪奇ファイル  作者: 百面相
ファイルNo1.洋館事件
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No.8 洋館事件(造視点)【8】

 激しくぶつかり合う創さんとシルヴィアさんを尻目に、僕たちは一目散に梯子に向かう。背負った紅里が落ちないよう、しっかりベルトで固定してから梯子を登る。

 無事に全員が地下から書斎まで上がってくると、僕らは全力で出口を目指した。ゾンビは全て地下にいたようで、邪魔されることもなく僕らは玄関を抜けて外に飛び出した。あれほど激しかった吹雪は鳴りを潜め、不気味なほどの静寂が夜の雪山を包んでいた。


「爆発まであと18秒! できるだけ遠くへ走れ!」


マリーさんが腕の時計を見て叫ぶ。雪に足をとられつつ、僕はそれまでの人生で一番必死に足を動かした。



そして、凄まじい爆音とともに館が爆発した。あとほんの少し遅れていたら今ごろ僕たちも館とともに吹き飛んでいたことだろう。


「つ、創さんは……?」

「十中八九、爆発に巻き込まれただろうな」


 腕組みしてマリーさんがそう答える。


「そんなあ……、助けてもらったのに……」


 今にも泣きそうな表情の司くん。


「……創なら大丈夫だ。本人も心配ないと言っていただろう。それを信じて、わたしたちは迎えを待とう」


 沙羅さんだけが創さんの無事を信じているといった様子で、背中の愛奈に自分の上着を着せた。


「だ、大丈夫ですか? そんなに薄着で……」


 ワイシャツにスラックス姿となった沙羅さん。いくら吹雪がおさまったとはいえ、夜の雪山は相当に寒い。こんな薄着では心配するのも当然だと思う。


「寒いのには慣れてるから平気だ。造くんたちこそスキーウェアなんかもみんな部屋に置いてきてしまって、部屋着のまま外に飛び出して。寒くはないか?」


 寒くないと言えば嘘になるが、ゾンビだのなんだのといった怪物に追われるよりはよっぽどマシだろう。夜が明けるまでまだ時間はあるが、なんとか耐えてみんなで帰ろう――そう思ったとき、微かな揺れを感じた。揺れは徐々に大きくなり、しまいには大気の振動が感じられるまでになった。同時に、腹の底から響いてくるような重厚な音までがどこからか鳴り響いてきた。


「まさか……」


 確信に近い予感を持って振り返ると、山頂からこちらへ向けて大量の雪が白い壁となって押し寄せてくるのがはっきりと確認できた。



 雪崩である。



「死にたくなければ全員わたしの近くに寄れ!!」


 マリーさんの叫びに、僕は反射的に彼女のもとに飛び込んだ。そして、僕たちは雪崩に飲み込まれた。




「――くそっ、使うつもりはなかったんだけどな。でもまあ、仕方ないか」


 そして、僕たちはマリーさんを中心に広がるドーム状のエリアによって『隔離』されていた。半径五メートルほどにわたって灰色の薄い膜に包まれた空間は外側の世界の一切から遮断され、雪がまるでそこだけを避けるように流れていった。


「これが、マリーさんの力……!」

「正確には沙羅のつけてる腕輪の力だけどな。わたしのは自分自身にしか効果ないし、イヤな副作用もあるし」


 見れば、沙羅さんの腕輪が灰色の輝きを放っていた。あまり長く使えないということだったが、結局雪崩がおさまるまでなんとか持ってくれた。せっかく爆発から助かったのに雪の下に生き埋めなんてシャレにならないところだったので、助かった。



「――さて、あとはわたしたちが凍死する前に迎えが来ることを祈るだけだが――」


 マリーさんがそう言った時、遠くからヘリの飛行音が聞こえてきた。


「――予定よりずいぶん早いな。なんかあったのか?」

「……なにかあったかと言われれば仲間が捕らわれるという大事件があったが」


 沙羅さんのツッコミにマリーさんはバツが悪そうに頬をかいた。


「あー……、その、悪かったよ。自分の能力を過信してた。今度からは隊長の言う通り、最低二人組で行動するから、許してくれ」


 そんなやりとりを聞きながら、僕は倒壊した館をぼうっと眺めていた。

 たった一日で、今までの常識を根こそぎ壊していくようなことがたくさんあった。人気のないリフト乗り場にいた謎の人物。幻のように消えてしまったリフト乗り場。怪物ひしめく館からの脱出劇。二度も助けてもらった創さん――。


「創さん……」


 呟いた言葉が届いたのかはわからない。しかし視線の先、瓦礫の一部が崩れ、中から傷一つない創さんと、その横に並び立つシルヴィアさんの姿が現れた。



「う、んん……。あれ……、造? なにがあったの……?」


 僕に背負われていた紅里が目を覚まして、そう聞いてきた。


「そうだね……色々あったんだ。ほんとうに、色々なことが――」



 そう答えつつ、僕は創さんを見ていた。創さんも、まっすぐに僕を見ていた。




 これがのちに「洋館事件」と呼ばれる、僕が出会った最初の事件である。この時からシルヴィアさんは、自身の名を「シルヴィア・ショゴス・コービット」から「シルヴィア・ショゴス・神崎」に改名。創さんの従者として生涯を捧げることを誓ったのだった。

 一か月近くかかりましたが、なんとかパソコンが復活しました!やっぱり使い慣れたものが一番ですよね。打ち込む速度が段違いだあ!


 次回から神崎創視点での物語が始まります。相変わらず更新遅いですがお付き合い願います。

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