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ショゴス探偵の怪奇ファイル  作者: 百面相
ファイルNo1.洋館事件
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No.7 洋館事件(造視点)【7】

 300PV&200ユニークありがとうございます!色々忙しいですが、皆様のおかげでなんとかここまでやってこれており、本当に感謝してます!

「う、うう……」

「お、起きたか」

「本当によかった……! 造くん、どこか悪いところはないか?」


 目を開けると、白い天上が広がっていた。そして、上から顔を覗き込んでくる二人の男女がいた。少し不安そうに、しかし安堵を浮かべているのは沙羅さん。そこまではいいが、もう一人の人物を認識した瞬間、僕は激しく動揺した。


「つ……創さん!? 首をねられて死んだはずじゃ……!」


 思わず起き上がって声を上げる。その人は間違いなく、シルヴィアさんが変身した怪物に殺されたはずの創さんだった。


「あー……見られてたのか。まあこうなった以上、どのみち話すつもりだったからいいか」

「く、首を刎ねられた!? それでなんともないのか!?」

「見ればわかるだろ。大丈夫だ。そこも含めて説明するから、二人とも聞いてくれ」


 慌てる沙羅さんを落ち着かせてから、創さんはゆっくり話し始めた。


「まずは造にさっき何があったのか説明してやる。おまえは紅里ちゃんの頭上から急襲してくる怪物に気付き、とっさに紅里ちゃんをかばって重傷を負った。覚えてるか?」


 創さんの質問に、頷いて答える。確かにあの時、僕は紅里をかばって重傷を負った。いや、重傷というかはっきり言って致命傷だった。なにせお腹に穴が開いてたんだから。


「で、今にも死にそうなおまえを俺が助けた」

「助けたって……、どうやってですか?」

「…………」


 無言で創さんは手を差し出す、すると、その手が黒く染まった。


「見ての通り、俺は人間じゃない。俺の正体は『ショゴス』とかいうアメーバみたいな不定形の生物だ。この身体は尋常じゃなく可塑かそ性が高く、大抵のものに変身できる上に、自分でも信じられんほどの再生能力を持ってる」


 創さんは続けて黒く染まった手を変形させる。指の数を倍に増やしたり、手のひらに目玉を生み出したり。かと思えば、刀のように変形させた左手で右手の手首から先を切り落とした。地面に落ちた右手は溶けて創さんの足元に吸い込まれて消え、一滴の血も流れていない、かまぼこのようにのっぺりとした切断面からは新しい手が生えてきた。


「そんなワケで、俺は首を落とされたくらいじゃ死なないんだよ。わかったか?」


 なんてことないように再生した手を動かしてみせる創さんの言葉に頷き、同時に納得もした。そうでもなければ創さんがここにいるなんてことはありえないだろうと。あの黒いスライムのような怪物やゾンビなんかを見た後だからか、特に抵抗もなくその事実をすんなりと受け入れることができた。


「なるほど……。だが、その……、いつから()()()()()になった? 少なくとも高校生の時には普通の――、……ええっと、まだ人間の範疇はんちゅうにいたと思うんだが?」

「なんだその含みのある言い方は……まあ、そうだな。あの頃はまだ人間だったよ。こんな身体になったのは高校を中退して、探偵を始めて少しした後だ。そんなことより、だ。死にかけのおまえをどうにかするために、俺はおまえに自分の細胞を移植した。俺もこういうことをしたのは初めてでよくわからないんだが、身体に異常があったりはしないか?」


 言われて僕は、傷を確認する。服のお腹の部分には盛大に穴が開いていたが、腹部を貫通していたはずの傷は痕すら残さず消えていた。


「すごい、絶対に助からないと思ったのに、傷が消えてる……」

「それだけか? 自分で言っちゃなんだが、こんな得体の知れんバケモンの細胞を移植されてるんだぞ? 本当に平気なのか?」


 立ち上がって背伸びをしたり、飛び跳ねたりしてみたが、身体にこれといった異常は感じられなかった。むしろすこぶる調子がいいくらいだ。


「そうか……。ま、何もないならそれでいいんだ。さっさとここから脱出しようぜ」

「……あ! そういえば、紅里と愛奈は!?」


 僕がそう言うと、創さんは僕の後ろを指差した。そちらに目を向けると、床に寝かされた紅里と愛奈の姿が目に入った。


「造くんがあの怪物にやられたのを見て、気を失ってしまってな。創が助けに来なかったら危なかった」


 ふと、横たわる二人のそばに佇む、二人の人物に気がついた。片方は創さんが着ていたコートを着て、軍帽を被った金髪碧眼の女の人。もう片方は袖の短い白衣を着た茶髪の女の子で、今更驚きはしないが、頭の上にイヌミミが生えていた。


「話は終わったか? じゃあ、とっとと行くぞ」

「ま、マリーさん。まずは自己紹介しないと……。えっと、ボクは犬井(つかさ)っていいます……」


 腕組みしてこちらを伺っていた金髪女性がつっけんどんにそう言うのに対し、茶髪の女の子は少しオドオドしながらも、ペコリと頭を下げて挨拶した。頭のイヌミミも自信なさげにペタリと伏せている。


「ふん……、ローゼマリー・ヴェステンフルスだ。覚えなくていいぜ。どうせ会うのは今回限りだろうからな」


 ローゼマリーさん――長いので心の中ではマリーさんと呼ぶことにしよう――はそれだけ言うと腕組みしたままそっぽを向いてしまった。初対面のはずだが、僕は何か彼女に嫌われるようなことをしたのだろうか……。


「すまないな造くん。マリーは根は決して悪い人間ではないんだが、初対面の相手には人見知りするんだ」

「人を年頃の少年みたいに言うな。わたしは単に必要以上に話す必要がないと思っただけだ」


 言い合う沙羅さんとマリーさんの間には確かに気安い雰囲気があり、それだけで長い付き合いを感じさせるものだった。


「人見知り云々は後にして、まずはここを脱出しないとだろ。造には言い忘れたが、ここは一階に上がる梯子の手前の部屋で。状況としちゃあ、奥から来た俺とローゼマリーと司がゾンビに囲まれ、シルヴィアに襲われるおまえらを助けて、この部屋に逃げ込んだってとこだ。で、外ではシルヴィアが俺らが出てくるのを待ち構えてる。ドアをぶち破って入ってこないのは、俺を警戒してるからだな」


 助けに入った時、しこたま殴ってやったしな、と創さんは笑った。


「そんなワケで、シルヴィアは俺に任せて、おまえらはこの館から脱出しろ。ローゼマリーと司がいた区画でコービットの言う爆弾を見つけたが、爆発まであと五分かそこらってとこだ。今から全力で急げばまだ間に合うかもしれん。俺なら爆発に巻き込まれてもなんとかなるから、気にせず走れよ」



 そして、気絶した紅里を僕が、愛奈を沙羅さんが背負うことになり、最後の脱出作戦が決行されることになった。


「よし、開けるぞ。三・二・一……GO!」


 創さんがドアを蹴り飛ばす。途端に触手が伸びてきたが、創さんはそれを難なく掴むと、手刀であっさりと斬り落とした。


「さあ行け! 止まるなよ!」


 触手と格闘する創さんを置いて僕たちは部屋を飛び出し、全力で一階へと続く梯子へ向けて走りだした。背後からは創さんとシルヴィアさんの激しい戦闘音とともに、創さんの声が聞こえてきた。



「ファイナルラウンドだ。決着をつけてやるよ――シルヴィア・『ショゴス』・コービット!」

 次回でこの章は終わりの予定、なのですが……その次からは、別の人物の視点でもう一度事件を振り返りたいと思います。描写が少なかった部分や造視点では触れられなかった部分についても明らかになる予定ですので、どうか今一度お付き合いお願いします。

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