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ショゴス探偵の怪奇ファイル  作者: 百面相
ファイルNo5.林間学校の怪
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No.56 予期せぬ遭遇

 夕日が差し込む放課後の理事長室。


 理事長アン・シャトレ―ヌは神妙な面持ちでその名を口にした。


 その名に反応したのは創。

 ぴくりと眉を上げ、かすかに低くなった声で言葉を発する。


「クトゥルフだと……? またずいぶんと大物の名前が出たな」


「あら創くん、知っているのね」


「まあ前にちょっとな……。海底に沈む古代都市、ルルイエに封印されているという伝説の旧支配者。人間、あるいは()()()()()()含め複数のカルトが崇拝する強大な存在だ。それが封じられていると?」


 創曰く、以前に探偵として依頼を受け、クトゥルフを信仰するカルトの一つと関わったことがあるらしい。造たちが詳細を聞こうとすると彼は眉根を寄せて渋面を作った。


「詳しく聞くのは止めといた方がいい。経験則から言わせてもらうが、カルト絡みで気分のいい話はないぞ」


「そうね。彼らは信仰対象のためという大義名分さえあればなんだってやるから。そして、そんなカルトから生徒たちを守るためにあなたたちが必要なの」


 そう言うとアンは頭を下げた。理事長室にしばし沈黙が流れる。


「……わたしは、反対です」


 沈黙を破ったのは愛奈だった。申し訳なさそうに、しかし強い意思を滲ませながら言葉を続ける。


「正直、まだ全然話についていけてませんが、理事長のお話が冗談ではないことくらいはわかります。でも力があるなんて言われてもよくわかりませんし、わたしたちはついこの間まで普通の中学生だったんです。戦うことなんてできません」


「愛奈の言う通りね。造もわたしも実際に不思議な力があるということは体験してるけど、だからって率先して戦う理由はないわ。この学園が危ない場所だってわかった以上、早いところ他の学校に転校しちゃいましょ。ね、造?」


 紅里も愛奈の言葉を支持し、同意を求めて造を見やる。


 しかし、造の考えは違った。


「確かに、ぼくらはこの前まで普通の学生だったし。戦いの経験なんてものがあるわけもない……。でも、創さんや沙羅さんたちのようにみんなのために戦っている人たちがいて、ぼくに何かできることがあるとわかったからには、見ないフリをして背を向けるなんてできない。二人には悪いけど、ぼく一人でもやるよ」


 創の『S細胞』を移植されたことにより常識外れの再生能力を手に入れ、加えて正体不明の存在アウトサイダーから秘術『魂神契約』を伝授されたことにより戦う力を手にした造。


 力があるからといって戦わなければならないなんてことはない。しかし力があるとわかった以上はたとえ危険が待ち構えていたとしても見て見ぬフリはできない、それが小鳥遊造という少年だった。


 造のその言葉を聞いた愛奈と紅里は顔を見合わせ、やがて仕方ないとでも言いたげに頷いて笑った。


「まったく、人には危ないからなんて言っておいて自分は一人だけ残るなんて、そんなのはいそうですか、なんて言えるワケないじゃないの」


「一人で抱え込もうとするのは造くんの悪いところですよ。そんなこと言われたら、わたしたちだけ逃げ出すなんて言えないじゃないですか」


 決心した様子の二人にアンは礼を述べ、それを創は眩しいものを見るような目で眺めていたが、おもむろに茶を飲み干すと口を開いた。


「それなら、明日は休日だろ? 俺は林間学校に使う予定のキャンプ地の下見に行くつもりだから、お前らも一緒に来い。色々と教えてやるよ」




 翌日、学生寮まで迎えに来た創の車に乗り、一行は一時間程度かけて近場の山の中腹にあるキャンプ場までやって来た。


「この三竹山キャンプ場はキャンプ地としての立地はほぼ理想的と言っていい。その気になれば徒歩でも三十分ほどで街まで降りていけるし、敷地内には川もある。煮沸消毒すれば飲料水にできるし川遊びもできる」


「川遊び……」


 実際に連れてこられた川は水深が深い所でも腰あたりまでしかなく、澄んでいて流れも緩く遊ぶにはうってつけと言えた。心なしキラキラした瞳で川を見つめる紅里を横目に創は説明を続ける。


「で、さっき見たように調理場も完備だ。だから当日の流れとしては朝ここへ来てからテント設営。各班がテントを張り終えたことを確認したら昼まで自由時間。昼食はこっちで用意するから気にしなくていい。それから再度夕方まで自由時間の後、夕飯を作って夕食を食べて就寝。そして朝になったらテントを畳んで学園に戻り、そこで現地解散になる。わかったか?」


「はい。こう言ってはなんですけど、一般的な課外授業って感じですね」


「そりゃあな。で、その間学園は襲撃に備えて万全の警備状態を敷くってわけだ。ちなみに二年と三年はそれぞれ街で同様に過ごすそうだ。当然引率の教員たちを含めた街の人間にも荒事に対処可能な警備の人間が紛れてるらしい」


「す、すごいですね……! わかってはいたつもりだったけど、創さんたちの組織って大きな力を持ってるんですね」


 感心する造。横に立つ愛奈も想像以上の警備の規模に目を白黒させていた。


「これでも第0班(うち)は国の組織じゃないらしいけどな。むしろだからこそ権力とかそういった話とは無縁でいられるんだと。っと、じゃあせっかく来たんだし、少し遊んでいくか? 紅里ちゃんとか今にも川に向かって駆け出しそうだし」


「やった-! ほら二人とも、一緒に遊びましょ!」


 言うが早いか一目散に川へと駆け出した紅里の姿に苦笑しつつ、造と愛奈もその後を追う。

 年頃の少年少女と変わらないその姿を遠巻きに確認しながら、創は優しげな視線を送るのだった。




 川でひとしきり遊んだ後、特にびしょ濡れになった紅里を乾かすために一行は調理場に行って火をおこし、暖をとっていた。


 へっくしょん、とベタなくしゃみをする紅里と濡れたことで若干衣服が透け、下着が見えそうになっている紅里と愛奈から赤面して目を逸らす造にしばらく暖まってろと言い残し、創は現在山道を登っていた。


(さて、昨日連絡しておいたとはいえ、いちおう顔を出しておかないとな。チビッ子たちにも「いつ来るの?」なんてせがまれたし)


 実はこの山には、以前創が探偵業で関わった孤児院があった。


 現代日本で孤児院、しかも街から近いとはいえ山の中にあるなどかなり特殊な施設であることは間違いないが、実際にこの孤児院には極めて特殊な境遇の子どもたちが暮らしている。キャンプ場はそんな孤児院が管理する場所でもあり、創はその挨拶もかねて久しぶりに顔を出そうと登山中というわけである。


(なんだかんだ長いこと顔出してなかったな。この身体になってからは初めてか。特にどういうわけかチビッ子たちにはやたらと懐かれてたから、きっと文句言われるだろうな。まああいつら単純だし、菓子も大量に買ってきたから機嫌をとるのはそう難しくは……)


 そこでふと創は足を止めた。目的の孤児院まではあと十分ほどといったたころで、場所はすでに山頂に近い。


(……四人か。かなり急いでるようだが、ここは山の中。あの孤児院は一般には存在すら知られてない上にこの山は登山じゃなくキャンプがメインだから観光客という線も薄い)


 後方からこちらに向かってやってくる複数人の足音をとらえた創。意識を集中して耳を澄ますと、さらに詳細な情報が判明した。


(歩き方が若いな。これは……全員女、か? どっちにしろ、一般人じゃなさそうだが――)


 立ち止まったまま、創は足音の持ち主たちを待ち構える。やがて、山道の向こうから四人の人影が現れた。


「あそこ、誰かいるよ? クリス姉さんじゃないみたいだけど、誰だろ?」


「登山客の方じゃないですかあ? 少ないとはいえゼロではないでしょう?」


「……ちょっと待って。あの顔、見たことがある」


「全員止まりなさい。わたしが指示するまで絶対に動いてはいけません」


 現れたのは四人の少女たち。いずれも創には会った覚えがない者ばかりだったが、彼女らの会話の中に引っかかる部分があり、次いで一人の顔に見覚えがあったことで創は彼女たちの正体に気がつく。


「伊織星良……おまえら、『シルク・ドゥ・ナイアル』だな?」


 第0班メンバーを裏の顔に持つ探偵の男と暗殺者を裏の顔に持つ聖歌隊の少女たち。何の因果か両者は意図せず山中で出くわしたのだった。

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