表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ショゴス探偵の怪奇ファイル  作者: 百面相
ファイルNo1.洋館事件
6/64

No.5 洋館事件(造視点)【5】

 食堂を飛び出したぼくたちは、向かいの部屋、つまりは書斎に飛び込んだ。大きな本棚には隙間なく本が詰め込まれており、机の上にはいくつかの書類と本が積まれていた。


 誰も言葉を発さない。謎の電話に、理解の及ばぬ怪物。現実離れした数々の出来事に頭の処理が追いつかないのだ。


「……造くん。顔色が悪いが、大丈夫か?」


 沙羅さんが声をかけてくれるが、その顔は蒼白だった。きっとぼくの顔色も同じく真っ白なのだろう。


「沙羅さんこそ、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。創と約束したからな。君たちのことは、この命に代えても守り抜いてみせる」


 先ほど目にした光景が蘇る。体が勝手に震えだす。人が死ぬところを見るのは当然初めてだ。それも知り合いなのだから、なおさらショックは大きかった。正直、まだ正気を保てているのが不思議なくらいだ。


 その時、食堂から大きな音がした。あの真っ黒で巨大なスライムのような怪物が暴れているのだろう。ここに来るのも時間の問題かもしれない。


「時間がない……! 創によれば、この部屋から地下の実験施設に行けるそうだが……」

「地下って、時限爆弾が仕掛けられてるんじゃないんですか?」


 紅里が疑問を口にする。確かに、コービットさんは自分が死ねば地下の実験施設に仕掛けられている時限爆弾が作動すると言っていた。そこを目指すなんて、自分から死にに行くようなものだ。


「……君たちにはすべて話すつもりだ。しかし、今は時間がない。どうかわたしを信じて、この部屋を探すのを手伝ってくれないか。頼む!」


 頭を下げる沙羅さん。ぼくらは顔を見合わせる。外は猛吹雪。中には怪物。選択肢はなかった。


 四人で手分けして書斎を探し回る。その間も音はひっきりなしに鳴り続ける。焦りを抱きつつ怪しげなところはないか探していると、紅里と愛奈が同時に声を上げた。


「なにかしら、これ」

「なんでしょうか、これは……」

「二人とも、何か見つけた?」


 二人はそれぞれ手に一冊の本を持っていた。どちらも大きめの洋書で、何かの動物の皮で装丁されていた。タイトルはぼくの知らない外国語で書かれていて読めない。それ以外に特に目立ったところはないはずだが、見ているとなんとなく嫌な気分になるような、不吉な感じが漂っていた。


「どうしたの? 何か気になるところでもあった?」

「そうなのよね。なんか、目が離せないというか……」

「はい、なんだか引き寄せられるような、そんな感じがします……」

「三人とも、来てくれ。隠しスイッチを見つけたぞ」


 呼ばれてぼくらは、沙羅さんの元へ向かう。紅里と愛奈は本をそれぞれ持っていくことにしたようだ。


 部屋に飾ってある大きな絵、その裏にスイッチが隠されていた。


「ずいぶん手がこんだ仕掛けですね」

「それだけ見られたくないものがあるということなんだろう。では、押すぞ」


 沙羅さんがスイッチを押すと、本棚が動き、扉が現れた。その奥には小部屋があり、そこには地下へと降りる梯子はしごがポツンとあるだけだった。ぼくたちがその部屋へと足を踏み入れようとしたその時、一際大きな音が部屋の外から響き、館全体が揺れた。


「行こう! 何が待ち受けていようとも、君たちはこの九重沙羅が守ると約束する」


 そしてぼくたちは梯子をつたって、地下へと降りていくのだった――――。




「コービットめ、これだけの規模の実験施設を持っていたとは……」


 地下に降りたぼくたちは、白い通路を進んでいた。先頭を行く沙羅さんが苦々しげに呟く。


「……沙羅さん。その、色々と聞きたいことがあるんですが……」

「……そうだな。わたしの素性、わたしと創がここに来た目的。そして、ここがどういう場所か。すべて話そう」


 沙羅は警戒の姿勢を崩さぬまま、静かに語り始めた。


「……既に話した通り、わたしは刑事だ。だが、それは表の顔であり、わたしの正体は『第0班』の一員だ」

「その『第0班』というのは?」

「……公ではない、国の組織だ。未確認生命体対策班、通称『第0班』。UMAのようなものだが、君たちも見た、あの真っ黒なスライムに似た怪物のように、そんな生命体たちの中でもとりわけ人類にとって脅威と判断されたものたちに対抗するための組織だ。メンバーは多くはないが、いずれも特殊で飛びぬけた能力を持っている。わたしは剣の腕と正義感を買われて加入しただけで、あまり大したことはないが」


 そう沙羅さんは言うが、先に見せた剣術は誰がどう見ても達人のそれだった。あの境地に至るためには、比類ない才能と努力の両方が求められるはずである。言い換えれば、そういう人たちでなければその未確認生命体には対抗できないということか。


「実はこの場所は、前々から謎の失踪事件が起こっていて、ある組織の実験施設がどこかにあるのではという疑いがあった。そこでわたしの仲間、つまり『第0班』の一人が調査に向かったのだが、途中で捕まってしまい、わたしは上司に言われて、一緒にこの館を調べてくれるよう創に依頼をしたんだ。……創も色々あって、多少の荒事はものともしないほど強かったからだったが、彼を巻き込むべきではなかった」


 そう言って沙羅さんは沈痛な表情で顔を伏せた。確か、創さんとは幼馴染だと言っていた。そんな人が自分の身代わりに死んだのだ。彼女の悲しみと後悔はどれほどのものだろう。


「……我々は体内に信号を発する機械が埋め込まれている。そのおかげで、その仲間がこの地下のどこかでまだ生きているのはわかっている。彼女さえいれば、この絶望的な状況からも脱出できるはずだ」

「そんなにすごい人なんですか?」

「彼女は元軍人で、白兵戦闘の技術は確かに高い。だが、彼女が『第0班』にいる最大の理由は、彼女自身の特殊な能力のせいなんだ」

「……確か、コービットさんは『透明人間』って言ってましたけど」

「そうだな。間違ってない。冗談のように聞こえるだろうが、どうか笑わないで聞いてほしい」


 そう前振りしてから、沙羅さんは言った。



「――【ノーウェアマン】ローゼマリー・ヴェステンフルス。彼女はこの世界と『自分以外誰もいない世界』の二つの世界を行き来できる異能力者なんだ」

 ここらへんから元のシナリオが影も形もなくなってきましたね。

 沙羅の所属する『第0班』は対未確認生命体、いわば対神話生物組織です。能力的、性格的にも個性的すぎるメンバーが集う集団なので、早く登場させたいですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ