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ショゴス探偵の怪奇ファイル  作者: 百面相
ファイルNo3.学園の七不思議
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No.34 学園生活は不安とともに

投稿日一日間違えたorz


疲れてるのかなあ……

 「おはよう造くん。昨日はよく眠れたかしら?」


 平然と朝の挨拶を寄越(よこ)してくる寮長に造は戸惑っていた。


 南雲梓。学生寮の管理人にして現役の学生。その正体は蜘蛛のグレート・オールド・ワン「アトラク=ナクア」。


 なぜ彼女が人間の学生なんてやっているのか、なぜ昨日自分たちを襲撃した上に「力がなかったら食う」とか言っていたのに何事もなかったかのように挨拶できるのか――などなど、疑問は尽きないがとりあえず挨拶を返しておく。


「ええっと……おはようございます、梓さん。昨日は戻ってきてからはすぐ眠れました」


「そう、それはよかった。紅里ちゃんと愛奈ちゃんはもう食べ始めてるから、造くんも早く食べちゃいなさい」


 この学生寮の食事はすべて寮生が担当することになっており、朝も例外ではない。

 いつもなら寮生全員――といっても四人しかいないが――で和やかな朝食となるはずだったのだが、今日は様子が違っていた。


「……」


「あうあう、いったいなにが……?」


 普段なら最も口数が多いはずの紅里は黙々と食事を口に運びながらじとーっとした警戒の視線を梓に向け、昨日何があったかなど露ほども知らない愛奈がおどおどとそれを見守っている。


 爽やかな朝にまったくふさわしくない食卓の様子に造が思わず頭を抱えそうになった時、その原因である梓がいつもの微笑を浮かべながら言った。


「そうそう、三人とも今日の授業が終わったら学長室まで来てね。学長が名指しであなたたちを呼んでるから」


「……へっ!? ちょ、梓さん、今なんて……」


「じゃあまた、学校で会いましょうね~」


 返事を待たずそのまま梓は食堂を出ていってしまう。取り残された三人は何とも言えない顔でため息をつくこととなった。




 放課後。朝言われた通りに三人は学長室へとやって来た。


「入っていいよー」


 中から聞こえてきた声は、扉が放つ重厚感とは裏腹にやけに軽いものだった。

 代表して造が扉を開けると、奥のソファに腰掛けた声の主が手を振ってそれを出迎えた。


「やっほー造くん、昨日ぶり」


「あなたは、昨日の……」


 そこにいたのは昨日造と紅里が屋上で梓に襲われた際、最後に乱入してきた謎の少女だった。


「いらっしゃい三人とも。待ってたわよ」


「梓さん……」


 ソファにはもう一人、昨日の騒動の原因である梓がお行儀よく座っており、三人に目を向けると品の良い笑みを浮かべた。


「ほらほら、三人とも座って座って」


 少女に促されるまま三人が少女と梓の対面に座ると、早速とばかりに少女が口を開いた。


「じゃあ、まずは自己紹介から始めよっか。ぼくはルイス。きみたちも知ってる『第0班』の班長を務めている者だよ」


 その言葉に三人はそれぞれ驚愕の表情を浮かべる。



 三人がこの学園に入学する前に体験した雪山での出来事、通称「洋館事件」においては私立探偵だった神崎創、そして刑事の九重沙羅。この両名がいなければ三人の命はなかった。

 そして、このうちの九重沙羅の正体こそが「未確認生命体」と呼ばれる異形の怪物たちと戦う秘密組織「第0班」の構成員だった。


 各自がそれぞれ人類の最高峰といっても差し支えないほどの実力者揃いの中で、その班長について名前を含めて何も知らされていなかった三人は、目の前の少女がそうだと知って驚きの様子を隠せない。


「あと、ここの学長でもあるね。この学園のトップはぼくだよ」


「……はい?」


 続く言葉に驚きを通り越して思考が停止した三人は、悪戯が成功した子供の笑みを浮かべたルイスが満足するまで呆けることとなった。




「……つまり、梓さんはこの学園を守ってた、ってことですか?」


 その後、再起動した三人は二人から事の経緯を聞き、その流れで改めて梓がグレート・オールド・ワン「蜘蛛神アトラク=ナクア」であり、同時に「未確認生命体第七号」でもあったことを聞かされ、特に愛奈が驚きのあまり失神しかけるなどの一波乱を乗り越え、話を聞き終わった頃には日が沈みかけ、辺りが暗くなり始めていた。


「そう。この学園の下に存在する龍脈に他の者を寄せ付けないのがわたしの役目よ。龍脈というのは簡単に言えばわたしたちのような者にとって非常に都合のいいエネルギーが溢れ出す泉のようなもの。好き勝手に使われると個人的にかなり嫌なことが起こるの」


 曰く、元々この学園は龍脈と呼ばれる霊的なエネルギーが湧き出す場所を他の未確認生命体たちに利用させないために建てられたとのことで、梓はその番人をしているのだという。


「じゃあ廊下で何か大きな影を見たとか鏡の中の自分が見つめてくるとか、『学園の七不思議』って梓さんがやってたってこと?」


 紅里の質問に一瞬首を傾げるも、梓は首肯してそれに答えた。


「鏡は知らないけど、大きな影はきっと眷属の蜘蛛たちのことね。二人も見たでしょう? わたし一人だと手が回らないから、蜘蛛たちに校内を巡回させているのよ。それにしても、夜に侵入してきた生徒たちを怖がらせて追い払っていたらいつの間にか七不思議なんて言われてますます人が来るようになるなんて思わなかったわ。人間の考えることはよくわからないわね」


 嘆息する梓に紅里は追撃するように質問を加える。


「それで、力を試すとか言ってわたしと造に襲いかかってきたのはなんでなのよ?」


「その件についてはぼくが話そうか」


 その時ルイスが割って入り、梓の後を引き継ぐ形になった。


「この前の『洋館事件』できみたちに電話をよこしてきた謎の人物についてなんだけどさ、ぼくら第0班の調べでわかったんだけど、どうもきみたち三人、そいつに目をつけられちゃったみたいなんだよね」


 直前まで圏外だったはずの紅里の携帯から電話してきた謎の人物、その人物はどうやら造たち三人に狙いをつけたのだという。おそらくは近いうちに何らかの形で向こうからの介入があるだろうとルイスは語った。


「ぼくたち第0班は精鋭揃いだけど生憎と手が足りなくてね。班員をきみたちの護衛につけるのはなかなか難しいのさ。もちろん手は尽くすけど、最低限自分の身を守れるだけの力を身につけてほしいとぼくは考えたんだ。で、梓に頼んで一芝居打ってもらったわけ」


「ちょっと待ってください。ぼくたちは元々ただの一般人だったんですよ? そんな急に――」


 造の反論をルイスは手で制し、うんうんと頷きながら言葉を返した。


「造くんの言うことはもっとも。でもね、きみたち三人はもうこっち側の人間なんだ。造くんと――あと紅里ちゃんはもうわかってると思うけどさ」


 その言葉に造は思わず紅里の顔を凝視する。対する紅里はどことなく気まずそうに目を逸らした。


「まさか紅里、昨日の――」


「造くん、紅里ちゃん、いったいどういうことですか?」


 ルイスの言葉の意味が分からず、首を傾げる愛奈にルイスは笑って言った。


「寮に戻ったら教えてもらうといいよ。――さて、もう遅いし、今日はここまでにしよっか。ぼくはあんまり学園にはいないけど、いる時なら話に付き合ってあげてもいいからさ」



 そのままの流れで解散となり、まだ明るいものの徐々に薄暗さを増してきた廊下を歩きながら、造は昨日の出来事とこれからの学園での日々を思い、ため息をこぼした。


(はあ……これからどうなるんだろ。憂鬱だなあ……)


 そんなことを考えたその時、ふと違和感を覚えて造は足を止めた。


(ん……?)


 造から見て右手側、廊下の壁際に誰かが置いたのか大きな鏡が立て掛けられていた。

 通り過ぎる際、そこに映った自身の顔が正面ではなくこちらを向いていた気がして思わず足を止めてしまったが、何度見ても鏡に映る自分は完璧な鏡像だった。


(……だよね。あはは、色々あって疲れてるのかなあ……早く帰ろう)


 そう思い直し、造は先を行く三人の後を追いかけて歩き出す。あとには沈みゆく窓の外の夕焼けを映す鏡だけが残された。

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