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ショゴス探偵の怪奇ファイル  作者: 百面相
ファイルNo1.洋館事件
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No.2 洋館事件(造視点)【2】

初めて感想をいただきましたヒャッホー!


「ちょっとヘンな人だったけど、優しい人だったわね」

「はい! 格好の方はその、ちょっと不気味でしたけれど、とっても良い人でした!」


 紅里と愛奈がさきほどの人について話している。ぼくは窓から外の景色を眺めていた。

 ゲレンデに来た時は雲一つない晴天だったのに、どうしたことか、今は少し吹雪いてきていた。


「うわあ……。二人とも、ちょっと窓の外見てみて」

「ええっ、なにこれ!? なんでちょっと吹雪いてるのよ!」

「ここに来た時には晴れだったのに、おかしいですね。山の天気は変わりやすい、ということなんでしょうか」

「うーん。とにかく、着いてみないとなんとも言えないわね」

「そうだね。どうするか、着いてから考えようか」


 悩んでいてもしょうがない。まだ時間がありそうだったので、もらった饅頭とお茶で一服しながらぼくたちは到着を待った。


 そして、ゴンドラは目的地に到着した。……のだが、そこは山のどこかもわからない場所だった。しかも、相変わらずの吹雪の上に近くに人の気配は皆無。帰り道すらわからず、ぼくらは困り果ててしまった。


「ど、どうしよう……。これじゃ滑るどころじゃないよ」

「そもそもなんでこっちの発着所には誰もいないのよ!? おかしいじゃないの!」

「さ、寒いです……!」


 その時、吹雪の向こうにうっすらと誰かのシルエットが見えた。よく見えないが、たぶん二人。


 人影はまっすぐにぼくらの方へ向かってきた。顔が見えるかどうかというところまで近づいたところで、人影の片方が声を発した。


「おい、こんなとこで何してんだ。遭難か?」


 人影が姿を現す。それは、十代後半から二十代前半くらいの若い男の人だった。荷物でパンパンになった大きなリュックサックを背負っており、ゲレンデの利用客ではなさそうだった。


「参ったな。降りようにも、この吹雪ではそれも難しいだろう」


 続けて現れたのは、男性と同年代くらいの若い女の人だった。女性ではあるが、堂々とした態度からは男性顔負けの凛々しさを感じさせる。こちらも荷物を持ってはいるが、横に立つ男の人ほどではない。


「見たとこ滑りに来た学生かなんかだろうが、どうやってここまで来た?」

「え? 普通にゲレンデからゴンドラで来ましたけど」

「バカ言え。こんなとこまでロープが走ってるわけねえだろ。そもそもここはコースの外も外。遭難でもしなきゃスキー客はこねえよ」

「いやいや、ぼくらの後ろを見てくださいよ。あれでここまで来たんです」

「どれだよ? なんもねえぞ」


 言われてぼくたちが振り返ると、そこには一面真っ白の雪景色が広がるだけだった。


「……あ、あれ?」

「うそ……確かにわたしたち――」

「……まあ、こんな吹雪の中で問答してても仕方ねえ。ついてこい」


 そう言うと男性は歩き出した。その後ろに女性が続く。ぼくたちも慌ててその後に続いた。


「俺の名前は神崎創だ」

「私は九重沙羅ここのえさらだ。よろしく」

「小鳥遊造です。一応、まだ中学三年生です。こっちは紅里で、ぼくの幼馴染です。で、こっちは愛奈。三人とも同級生で、ここには卒業旅行で来ました」

「なるほどな……。俺らはあれだ、山登りだ」

「そうなんですか。お二人はどういった関係なんですか?」


 ぼくがそう聞くと、沙羅さんが答えた。


「ああ、私と創は高校の同級生だ」

「俺は色々あって中退したけどな」


 前を向いたまま、創さんが話を続ける。


「この先で洋館を見つけたんだ。吹雪が止むまで避難させてもらおうと思ったところで声が聞こえて、それでこっちに来たってわけだ」

「じゃあ、創さんたちに見つけてもらえなかったらわたしたち本当に遭難してたかもしれなかったのね……」


 吹雪でわかりにくいが、顔を青褪あおざめさせて紅里が言った。


「そうですね。創さんと造くん、読みも同じだし、合わせて『創造』になることといい、なんだか縁を感じますね」


 どことなく嬉しそうにそんなことを言う愛奈。




 なんてことを話している内に、件の洋館が見えてきた。

 二階建ての館の全容は吹雪で見えないものの、宿泊施設としても申し分ないほどの広さがあることが一目でわかる。


 インターホンの類はない。創さんが何度か強めに玄関の扉を叩く。ほどなくして扉が開き、一人の女性が扉の隙間から顔を覗かせた。


「どちら様でしょうか?」

「ああ、俺たちは登山客と近くのゲレンデのスキー客なんだが、この吹雪で帰り道がわからなくなっちまってな。すまないが吹雪が止むまで中に避難させてもらえないだろうか」

「お待ちください。ただいまご主人様に聞いてまいります」


 そう言って女性は扉を閉めようとする。が、その背後から声がかかった。


「かまわないとも。シルヴィア、入ってもらいなさい」


 黒いタキシードに身を包んだ初老の男性が女性の背後に現れ、こちらに微笑んだ。杖を突き、見るからに高価な腕時計をしている。いかにもヨーロッパあたりの上流階級の人間といった出で立ちだ。


「かしこまりました。どうぞみなさま、お入りください」


 男性に一礼してから、シルヴィアと呼ばれた女性は扉を開け、中へと促した。


 ぼくたちは口々に礼を言いつつ、創さんを先頭に中へと入っていく。最後にぼくが館へと足を踏み入れた時、ごうごうと唸る吹雪に乗せてどこからか声が聞こえた気がした。




 ――幸運を祈っていますよ――――。

 次回から徐々にクトゥルフっぽくなります。

 いまさら過ぎますがこのお話はクトゥルフ神話TRPG基本ルールブック収録シナリオ「悪霊の家」のネタバレを多分に含みますので、ご注意ください。とはいえ、多少オリジナル要素も入れる予定ですので、話の筋をなんとなく知りたいという方は基本ルールブックを買おう!(露骨な宣伝)

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