No.1 洋館事件(造視点)【1】
さて、最初の話はある学生たちが巻き込まれた、とある洋館が舞台の話だ。
あいつらも運が悪かったな。せっかくの卒業旅行だったのに、それがあんなことになっちまうとは……。
ともかく、これが俺とあいつらとの出会い、そして未確認生命体と俺たち「第0班」の戦いの始まりの話でもある。「第0班」って何かって? おいおい出てくるからまずは読むんだ。
というワケで、次のページから話が始まる。主な視点は小鳥遊造。学生たちの一人で、ある意味今回の事件の一番の被害者だ。仕方なかったとはいえ、あいつには悪いことをした……。ともあれ、起きたことはどうしようもない。あいつがさほど気にしてなさそうなのも救いだ。気を取り直して、話を続けよう。
キーワードは【洋館】、【絵画】、そして【未確認生命体】。
「あ、造! 遅かったじゃない!」
赤毛のツインテールに気の強そうな顔立ちをした女の子がぼくに手を振る。
「ごめん紅里。ちょっと準備に手間取っちゃってさ」
「おはようございます造くん。今日も冷えますね」
マリンブルーのロングストレートに人形のように整った顔立ちの女の子が微笑んで挨拶してくる。彼女の髪色は珍しくはあるが、染めているわけではなく、これでも地毛だ。たまにこういう人もいるので、学校でも地毛だと認められれば彼女のような髪色の人でも問題なく生活できる。
「おはよう愛奈。もう二月も終わりとはいえ、まだまだ寒いね」
「ほら、電車来ちゃうわよ! 二人とも急いで!」
これが、朝の出来事。ぼく、小鳥遊造と幼馴染みの上原紅里、ぼくら二人の小学生の頃からの友人である水無月愛奈の三人は、今年の三月で中学校を卒業することになっており、それを記念して近くの山に日帰りで滑りに行くことになっていた。
「へえ。初めて来たけど、なかなかよさそうな所じゃない!」
未だ雪の残るゲレンデを見回して、紅里が言った。早く滑りたくて仕方ないといった様子だ。彼女はぼくたちの中で一番体を動かすのが好きで、運動能力も一番だ。ちなみに、ぼくはおおむね平均といったところで、愛奈は運動があまり得意ではない。
「いつも遊びに行くゲレンデはもう雪が満足に残ってなかったですもんね」
「そうだね。さて、初心者コースはどこかな?」
「うう、ごめんなさい。わたしのせいで……」
ぼくは中級者コースくらいは普通に滑れるし、紅里に至っては上級者コースですら余裕だ。愛奈が自分のせいでぼくらが思うように滑れないと謝る。が、そんなことを気にするぼくと紅里ではない。
「何言ってるの。別にわたしたちは無理してるわけじゃないわよ」
紅里が腰に手をやり、やれやれといった感じでそう言った。ぼくもそれに同意する。
「そうだよ。みんなで滑るのが楽しいんだから、愛奈が気にすることないよ」
ぼくら二人に言われて、愛奈も納得したように笑った。
「はい! みんなでたくさん楽しみましょう!」
スキー場に来ると、毎回のようにぼくらはこんなやりとりをしていた。人に気を遣いすぎるのが愛奈の悪いところだ。まあ、いいところでもあるのだけれど。
それはともかく、できたばかりだからかゲレンデはお客さんで一杯だった。各コースへ向かうリフト乗り場の前には長蛇の列ができている。
「うわ、すごい行列だね」
「もう! 早く滑りたいのにー!」
「……あれ? 見てください。あそこにもリフトがありますよ」
愛奈が指差す先、ゲレンデの端のあたりに、確かにリフト乗り場があった。不思議と、そこには他のお客さんの姿はなかった。
「ほんとだ。でもなんでお客さんがいないんだろ?」
「故障して動いてないとかでしょうか?」
「目立たないところにあるし、気付かれてないだけかも! とにかく行ってみましょ!」
人気のないリフト乗り場にやって来ると、そこには誰もいなかった。
「……誰もいないわね」
「やっぱり故障中なのかな?」
「おや、お客様とは珍しい」
「「わひゃあっ!?」」
突然背後から声をかけられ、素っ頓狂な声を上げる紅里と愛奈。彼女たちはビックリ系やホラー的なものが大の苦手だ。紅里は頑なに否定するけどね。
ともかく、後ろを振り返る。そこには、狐の面で顔を隠した人が立っていた。背は高く、声は少し低いが、おそらくは女性。黒い外套を着ており、はっきり言って怪しさ満点だ。どう考えても従業員には見えない。
「おや、驚かせてしまいましたか。これは失礼。わたくし、ここでお客様をしかるべき場所へとお連れする仕事をしております」
「ええっと……、従業員さんってことですか? その、失礼ですが、とてもそうは見えないんですけれど……」
「まあまあ、細かいことはお気になさらず。お客様方は上に行きたいのでしょう? さあ、これにお乗りくださいませ」
そう言って動いていないゴンドラに乗るよう勧める従業員(?)の人。
「あの、リフト券とかはいいんですか……?」
「はい。特にそのようなものはいただいておりませんね。この場所を見つけたということだけで十分でございます」
「なんだかよくわからないけどラッキーってことかしら? まあいいわ、早く乗りましょう!」
「ああお客様。少しお待ちを。手をお出しください」
言われるまま差し出された紅里の手の甲に従業員(?)さんは判子を押した。続けて愛奈の手の甲にも判が押される。が、なぜかぼくだけは必要ないと言われた。謎だ。
「あ、これ知ってるわ! イベント会場とかの入り口で押されるヤツでしょ! ライトで光るアレ!」
「ええ、そんなところです。それと、到着まで少し時間がかかりますので、待っている間これでもどうぞ」
そう言って従業員(?)さんはぼくたち一人一人に温かいお茶と饅頭を手渡してくれた。礼を言ってから、ぼくたちはゴンドラに乗り込んだ。間もなく、ゴンドラが動き出す。振り返ると、従業員(?)さんが手を振ってくれていた。
なんとなくだが、仮面の下の顔は笑っている、ような気がした。