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ショゴス探偵の怪奇ファイル  作者: 百面相
ファイルNo2.ゼロデイ作戦
18/64

No.17 『ショゴス探偵』 VS 『仙人尼公』

 矢継ぎ早に繰り出される斬撃を必死に躱す。

 失った左腕は再生していない。試合前にああ言った手前、ショゴスの能力をそう簡単に使うわけにはいかなかった。


「くっ! というかその刀、「認めた者を決して傷つけない」とか言ってたくせに、思いっきりぶった切られてるんだが!?」


 嘘……とは考えられない。さきほど俺は間違いなく自分の腕を切り落とすつもりで刀を振るったのに、寸前で刃が止まったからだ。


「ふふふ、ただ単に斬られた程度ではダメージにならないと判断したんじゃないか? 言っておくがこの刀はそれくらい賢いぞ」


 実質ノーダメージなら思いっきり斬ってもいいってことか? 確かにこの程度、俺にとっちゃ無傷も同然だが、なんだそりゃあ!


 とはいえ、挑発したのもシルヴィアの代わりを申し出たのも俺自身。このまま手も足も出ずにはいお終いなんて、そんな無様は見せられない。


 迫る刀身を横から裏拳で殴りつける。刃に触れてしまった部分が切れたが血は出ない。わずかに体勢を崩したところにすかさず蹴りを放つが、後ろに飛び退いて躱された。


「昔を思い出すな。真剣ではなく竹刀だったが、あの頃も創とこうして立ち会ったな。相変わらずすごい体術だよ。腕一本しかないというのに」


「そう言うおまえはだいぶ腕を上げたな。だから言ったろ、俺なんかすぐに超えていけるって」


「ふふ、その言葉はもう降参ということか? 困ったな、この程度では稽古にならないのだが」


「ぬかせ。まだまだ余裕だよ。ショゴスの力に頼らなくてもな、一泡吹かせるくらいはやってやらあ!」


 靴を脱ぎ、裸足に。叫び、沙羅に向かって駆け出す。待ち構える沙羅。


 今の俺の動体視力では沙羅の太刀筋は速すぎて見切ることができない。何より恐ろしいのはその正確さ。ただ考えなしに突っ込むだけでは手痛い反撃をくらうことは必至だ。だが、その正確さこそに隙がある。

 刀の届く範囲ギリギリで跳躍する。


(っ……逆光が……! だが、甘いぞ創!)


 ()()()()、頭目がけて振るわれた手刀を迎撃すべく、寸分違わぬ軌道で沙羅は刀を一閃させた。いや、させようとした。


「なっ……!?」


 沙羅の右袖を、俺は足の指で掴んでいた。迎撃は失敗。狙い通り手刀が当たる、その寸前。


 沙羅が数珠丸を手放した。空いた左手で手刀を掴みとられ、俺は盛大に地面に叩きつけられる。


「――っ!」


「わたしの勝ちだな。ひとまずは、だが」


 首筋に刀が押し当てられる。見上げる俺の視界に、微笑む沙羅の顔が映った。


「ふう……そうだな、完敗だよ。まったく、敵わねえなあ」


 その言葉を聞いて、沙羅は嬉しそうに笑った。そして――全力の一閃を放った。


 ()()()()()()。生身と刀だというのに金属音が鳴り、火花が散った。


「それが……今の創、か。ここからが本番だな」


 額に汗を滲ませつつ、沙羅は油断なく構えをとる。「人間としての神崎創」の擬態を解いた俺は立ち上がり、改めて二人は向かい合った。


「強くなったな、沙羅。『過去の俺』じゃあとても敵いそうにない。だから今度は、『今の俺』が相手をしよう」


 第0班の班員は全員が例外なく班長ルイスによってスカウトされ、番号と班員それぞれにちなんだ異名がつけられるそうだ。そしてそれは、俺も同じだった。


「第0班No.8、【ショゴス探偵】神崎創だ。本気で相手をしよう…………ニンゲン」


 お互い、少々熱の入りすぎた模擬戦が終わったのは、それからおよそ五分後のことだった。



「――――はあっ……! はあ…………わたしの……負けだ」


 肩で息をしながら、沙羅はがっくりとその場に膝をついた。傷こそないが……って、あくまで模擬戦なのだから当たり前だが、疲労困憊(こんぱい)のようだ。


「ふふ……まるで歯が立たないな。やっぱり、創は強いよ」


「……俺の強さなど種族的なものに過ぎん。おまえの方が技量ではとっくに上だろうよ」


「仮にそうだとしても、戦う上でそんなことは関係ないさ。そこも含めて創の強さだよ。正直、とても頼もしく思う。これからよろしく頼むよ」


 数珠丸を鞘に戻しながらそんなことを言う沙羅。複雑な気分だったが、ひとまず頷いておく。


「……そうか」


 望んで得た力ではなかった。むしろ、俺にとっては忌まわしいモノでしかなかったが、こうして友人の役に立てるのなら少しは気も晴れるような気がする。


「お二人とも、お疲れ様でした。素晴らしいものを見せていただきました」


 そこに、庭に降りた寂蓮さんがやってくる。後からシルヴィアもついてきた。


「お疲れ様でした。さすがは創様、人間で創様に勝てる者はいないでしょう」


 俺たちの近くまでやってきた寂蓮さんは、まだ怪人形態のままの俺を興味深そうに眺めた。


「その姿が、本来の姿なのでしょうか?」


「いえ、ショゴスは不定形の生物なので、決まった形を持ちません。俺は元人間なので、人に近い姿でいたほうが過ごしやすいだけですよ。寂蓮さん」


 過ごしやすいからなどと言ったが実際は、人の姿をとるのを止めたら自分が人間であったことを忘れてしまいそうな気がしたからだ。……未練、というやつなのかもしれない。


「まあ、そうなんですか! ……それにしても、凄まじい強さでしたね。あの沙羅さんが防戦一方とは……なんだか、わたしまでお手合わせ願いたくなってきてしまいました」


「別にいいですよ、俺は疲れと無縁なので。このまま始めてしまいますか?」


 ――来たか。

 実は、これこそ俺が沙羅の誘いに乗った理由でもある。


 第0班No.1、錫奘寂蓮。その異名は【仙人尼公】。

 信じがたいことに彼女の生い立ちは千年以上前に遡る。我が子を流産した彼女は出家して山に籠もり、ひたすら修行に明け暮れた。俗世との関係をすべて絶ち、長い長い仙人暮らしと修行の果てに彼女の身体は――――寿命を忘れてしまった。いつの間にか不老不死になっていたのだ。

 そんな彼女はある時、夢の中で御仏の啓示を受け、名前の由来となる錫杖を授かった。その翌日、山にルイスが訪れ、彼女は無辜(むこ)の人々を救うために第0班の班員になったのだという。


 友人である沙羅の悩みをなんとかしてやりたいという思い、そして、俺と同じ不老不死の存在に興味があったということが、俺が誘いを受けた理由だった。


「そうですか……? では、お言葉に甘えまして、お手合わせをお願いします」


 そして、沙羅に続いて二度目の班員同士の模擬戦が始まった。


 沙羅とシルヴィアが見守る中、対峙する二人。

 俺は二つの紅い瞳で、寂蓮さんは変わらぬ穏やかな笑みで。お互い動かぬまま、時間が流れる。

 無言で一歩、踏み出した。寂蓮さんは動かない。

 そのまま二歩、三歩と歩を進め、寂蓮さんの目の前までやってくる。それでも彼女は佇んだままだ。


「……すごい光景だな。おそらく二人とも、必殺の間合いに入っている」


「わたしにはこういった戦いというのはよくわからないのですが…………失礼ですが、あの方が創様に勝てるとは思えません」


「そうかもしれない。だが、あの人で勝てないのならわたしたちの誰も敵わないよ。あの人はまったく底が知れない。あの人こそ第0班最強なんだ」


 先に仕掛けたのは、俺の方からだった。

 無造作に拳を放つ、当たれば人間など軽く吹き飛ぶ威力。どう考えてもやりすぎだったが、なぜだろうか、絶対に当たらないという確信があった。


「なに……?」


 結論から言えば、拳は当たらなかった。そのことについて驚いたわけではない。

 拳は、()()()()()()()。躱されたのではない。まるで見当違いの場所を狙ったかのように空を切ったのだ。

 もう一度拳を放つ。やはり外れる。同時に胸と頭部に衝撃。


「あらあら、弱点無しですか? すごい身体ですね」


「……狐に化かされたような気分だ。なにかの術か?」


 奇妙な感覚に戸惑っていると、寂蓮さんは意外にも答えを教えてくれた。


「修行の中で、わたしは一つの悟りを得ました。それは、わたしという存在もまた、世界の一部であるということです。そのことに気がつくとともに、わたしは自らの『気』を周囲と同化させることができるようになりました。なにもない、自然そのものの空間にわたしたちが違和感を抱かないように、相手はわたしの存在を感じ取ることができなくなるのです。これは、そこにあえてわたしの気配の濃い場所を残すことで相手にわたしの位置を錯覚させる、れっきとした技ですよ」


「……マジかよ。聞いたこともないぞそんな技」


 どんな修行をしたらそんなことができるようになるんだ? 悟り一つでそこまでできるようになるとか信じられん。

 しかも恐ろしいのは、この技は俺の視覚のみならず、他の感覚にも引っかからないのだ。昨日の会議の時よりもさらに感覚を強化しているのに、である。

 聴覚を例にとれば、おそらく微かだが音は拾えているのだと思う。だが、それを肝心の俺が認識できていない。

 俺に脳はないが、俺の細胞はそれ自体が脳の役割を果たしている。細胞一つ一つがいかようにも形を変えられる。究極の万能細胞と言ってもいい。それが無数に集まって、一つの意思のもと行動しているのが俺なのだ。

 少々話が逸れたが、そうやって再現している五感の情報を、俺自身が寂蓮さんによるものと認識できていないということだろう。人間業じゃないな、まったく。


 意識を集中してみても、やはりわからない。腕を伸ばして適当に周囲をなぎ払ってみたが、それも無駄。

 そんな人間離れした技が使えるのだ。本人の技量もまた、極まっていた。

 攻撃のたびに的確なカウンターをもらっている。俺だからノーダメージなだけで、常人なら一発でもくらえば戦闘不能間違いナシだ。


「――うーん、これでは決着がつきませんね」


 困ったように寂蓮さんがそう言った。その言葉に俺も同意し、元の姿に戻る。


「片や攻撃を当てられず、片や相手に対して有効な攻撃を持たない。確かに、これじゃ決着はつかないな。引き分けですかね?」


 戦闘の意思をなくした俺に、寂蓮さんは手を合わせて頭を下げた。


「そうですね、引き分けということにいたしましょう。久しぶりに刺激のある修行をさせていただきました。創さん、ありがとうございます」


 こうして、人間離れした班員たちと本物の人外な新入りとの模擬戦は終了した。この翌日、俺は学生たちの見舞いをかねて病院に行き、そこで俺がただのショゴスでないことを知ることになる。

 はい、またぶっとんだ人がでてきましたね。

 ちなみにわたしもぶっとんでますよ。表現力とか、誤字とか。ダメダメですね。

 次回は病院でのお話。頑張ってなるべく早く更新しますので、どうかお待ちください。ではまたー。

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