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ショゴス探偵の怪奇ファイル  作者: 百面相
ファイルNo1.洋館事件
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No.13 洋館事件(創視点)【5】

「ありがとうございます。おかげでお腹が膨れました。なんてお礼を言ったらいいか……」


 動ける程度には満たされたのだろう。司はそう言うと深々とお辞儀をした。サイズ大きめの白い布を一枚まとっているだけなのでその際に色々と見えそうになり、慌てて目を逸らす。いくら性欲が希薄あるいはもうないとしても、そのあたりの気遣いまで無くしたらいよいよお終いのような気がする。


「気にするな。俺がしたくてしたことだ。早いとこあいつら回収してこんなところからおさらばするぞ。ついて来い」


「はい、創さん!」


「おーおー、懐かれたねぇ。こんな可愛らしいのに懐かれるとは羨ましい限りだ」


 皮肉っぽく言うマリーにも司は深々と頭を下げた。


「ローゼマリーさんもありがとうございます。自分の分の食べ物をボクに渡して自らは何も口にしないなんて、辛くはありませんでしたか?」


「……マリーでいい。別に、わたしは慣れてるからこれくらい平気だ。さっさと行くぞ」


 ぶっきらぼうにそう返事をしてすたすたと歩いていくマリーに、内心で溜め息を吐く。


(やれやれ、素直じゃないやつめ。まるでアイツみたいだ――……)


 ふと脳裏にある人物が浮かびかけたが、頭を振ってその影を振り払う。そいつのことを考えると、あまり思い出したくない出来事を同時に思い出してしまうからだ。


「で、神崎さんよ。これからどうする? コービットをこのまま野放しにはできないぜ」


「あいつは死んだよ。詳しくは知らないが、おそらく死因は毒によるものだ」


「……何だと? それはマズいな……」


 顔に焦りを滲ませて言うマリーにその理由を問いかける。


「何がだ?」


「あの野郎、もし自分が死んだらこの屋敷は爆発するとか言ってやがった。事実ならやばいぞ」


 確かに、それが事実なら尚更脱出を急がねばなるまい。が、それにしてはこいつ、やけに落ち着いてないか?


「……の割に、あまり動揺してないように見えるが?」


 聞くと、マリーは露骨に嫌そうな顔をした。


「……まあ、わたしには奥の手があるからな。ただ詮索はよしてくれ。わたし自身、あまり気分のいいものじゃないんだ」


 その奥の手とやらに興味はあるが、本人はあまり使いたくないようだし言う通り余計な詮索はなしにしよう。時間もないことだしな。


 第三実験室を出た俺たち三人は、さっそく三体のゾンビに襲われた。司を背に隠し、マリーと二人で前に出る。実年齢がどうかは知らんが司は見た目まだ幼さの残る女の子だ。あまり刺激の強い光景は見せない方がいいだろう。

 そんな配慮のもと、二体のゾンビの頭を片手でそれぞれ鷲掴みにしてそのまま横にねじった。当然こんなことは人間の頃はできなかったが、今では朝飯前だ。

 正直なところ、この身体の限界がどこにあるのかは俺自身わかっていない。はっきりとわかっていることはただ一つ、俺は限りなく不死身に近いということだ。感謝したことは一度もない。むしろこれは俺への呪いだと思ってる。


 鈍い音を立てて首が折れ、ゾンビ達が倒れる。マリーの方はと言えば、流れるようにゾンビの背後をとり、関節技で同じく首をへし折っていた。


「ほう、関節技(サブミッション)か。素人の動きじゃねえな」


「これでも元軍人だからな。言っとくが戦闘力で言えばわたしは第0班(ウチ)の中ではほぼ最弱だぞ? というかこっち見るな。さもないとお前も変態の仲間入りだ」


 とまあそんなやりとりを交えつつ通路を進んでいくと、特別薬品の匂いを強く感じる部屋が現れた。どうやら実験用の備品を保管しておく場所らしい。中を物色していたマリーが声をあげた。


「お、あったぞ! わたしの服だ!」


「はいはい、見張っててやるから着替えてこい。司も一緒に行ってろ」


「は、はい!」


 喜々として物陰に消えていったマリー。女同士気兼ねもないだろうし、司もそちらへやってしばし待つ。


「ああ、落ち着いた。コート一枚で真冬の雪山とか、色々な意味で絶対にお断りだからな」


 戻ってきたマリーは黒いコート、というか、マント? に軍帽を被った、なんというかかなり独特な格好をしていた。


「お前、その格好……私服、なのか?」


「私服だよ! いいじゃないか、好きなもん着たって!」


 なるほど。こいつ、若干中二病入ってやがるな。まあ個人の趣味だし、別にいいか。

 などとやっていると、携帯に着信が入った。


(変だな。さっき確認した時は圏外だったはずだが……)


 画面を見ると、そこには文字化けした意味不明な記号の羅列がずらっと並んでいた。


「うげっ、気味悪いな。人のこと言えないじゃないか」


「俺の趣味なワケあるか! よくわからんが、出るぞ。……あー、もしもし?」


 すると、電話の向こうからノイズまみれの男とも女ともとれない声がした。


『うふふ、はじめましてー。……では、ないんですけど。覚えてますか?』


「知らん。こんなノイズだらけの声に覚えはない」


 なぜだろうか、この声を聞いているととてつもなく不愉快な気分になってくる。この声に覚えはないはずだが……。


『ですよねー。むしろ、あなた相手だと普通に見破られそうで内心ドキドキしてました。わからないなら一安心です』


 なんというか、こいつとは絶対に相容れない気がする。それと勘だが、こいつ女だな。


 実は以前、俺は一度だけ街で占ってもらったことがあった。その時に言われたのはただ一言、「可哀相なほどの女難の相が見える」だった。

 どうにかする方法はないらしく、同情した占い師がお代をタダにするほど酷かったようだ。実際つい最近会ったルイスをはじめ、俺の周囲には癖のある女性や女性絡みのトラブルが多いような気がする。いったい俺が何をしたというのか。

 そんなわけで、俺は十中八九こいつは女だと予想した。


「……で、なんの用だ?」


 気を取り直して話しかけると、盛大に癪に障る返答が返ってきた。


『おっと失礼。一言で言うとですね、わたしは貴方、いえ、貴方がたに興味津々なんですよ。中でも創さん、貴方はわたし史上ぶっちぎりのお気に入りランキング一位です。アイラブユー』


「切るぞ」


 こいつウゼェ……正直言って今すぐ切りたい。切っちゃダメか?


『はい、では余計なおしゃべりはこれくらいにして。貴方がたに一つ有益な情報をあげます』


「なんだってそんなことを?」


『それはもちろん、その方が面白そうだからですよ? わたし、面白いことが何より好きなんです』


 こいつ絶対ロクでもないやつだ。賭けてもいい。


『貴方がたが気にしている爆弾ですけどね、爆発まではまだ少し余裕がありますよ。すぐにお仲間を回収して脱出すれば間に合うでしょう。よかったですね?』


「おい神崎、コイツ怪しすぎるぜ。とても信用できねえよ」


 横からマリーが小声でそう言うと、上っ面だけは悲しそうな声が返ってきた。


『そんな、マリーさん。あなたとも知らない仲ではないというのに……、わたしは悲しいです……』


「よし切れ。今すぐにだ」


『あっはっは! とにかく、伝えることは伝えましたので、あとはポップコーン片手に貴方がたの華麗な脱出劇を鑑賞させてもらいますよ。それでは創さん、次はぜひ直接お会いしましょうね~!』


 言うだけ言って電話は切れた。マリーの言う通りあいつの話は信用ならんが、時間がないのも事実だ。


「まあ急ぐことには変わりないんだ。早く沙羅たちと合流してここから出よう」


「それもそうだな。行くぞ司、置いてかれんなよ!」


「はい! 足には少しだけ自信がありますから、頑張ってついていきます!」


 そして俺たちは沙羅たちがいる方、つまりはコービットの書斎につながる梯子を目指して走り出した。

 同時に俺の強化された感覚が、百メートルほど離れた場所にいる沙羅たちの状況を伝えてきた。


「――造ッ! すまん二人とも、先に行くぞ!」


 返事を待たず、矢のような速さで白い通路を駆け抜ける。数秒で目的地にたどり着くと、沙羅に襲いかかっていたシルヴィアを乱打で再び穴だらけにし、撤退させた。そして邪魔なゾンビを手当たり次第に破壊して造の元に向かう。


「造! おい! 意識はあるか!?」


 呼びかけるが、返答はない。腹部に大穴が空いており、大量に出血している。今にも死んでしまいそうだ。

 普通ならどう考えても助からない。だがこの俺の――ほぼ不死の細胞ならばあるいは……!

 その考えが頭をよぎったが、次いで望まぬ形で怪物(ショゴス)となった俺の苦難の日々が思い浮かんだ。

 そもそも細胞を他人に移植するなどやったことはない。どうなるか俺自身にもわからないのだ。迷う俺の前に、震える弱々しい手が伸ばされた。


「……生きたい。……死にたく、ないよ……!」


「……!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は決断した。


 そして俺は伸ばされた手をとり、右手を造の腹部に突っ込んだ。

終わりませんでしたー!なんというかまあ、ホントにダメなやつだな自分……。出来る限り急いで続き書きますので、もう少し待っててください!重ねてご迷惑おかけしてすみません。

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