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ショゴス探偵の怪奇ファイル  作者: 百面相
ファイルNo1.洋館事件
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No.9 洋館事件(創視点)【1】

 創編開始。それに伴い、各話に誰の視点かを明記するように変更しました。

 それと、あらすじでの沙羅の名前が初期案のままでしたので修正しました。

「……いいぜ。その依頼、受けてやるよ」


 椅子に座った俺は、正面に座る女性にそう言った。対する女性は自身の座る椅子をくるくると回して遊びながら、けらけらと笑った。


「さすが、決断が速いね。でもいいのかな? まだ報酬の話とか何もしてないけど」


「公でないとはいえ、おたくらは国の組織なんだろ? だったらそれなりの報酬は約束されたようなもんだろ。それともなんだ、こんな小さな規模の私立探偵に支払う金もないのか?」


「あはは、まさか。むしろ君にはとびきり報酬を用意しないといけないと思ってるんだよ? ねえ、『ショゴス探偵』さん?」


 何がおかしいのか、出会ってから終始笑みを絶やさない彼女に眉をひそめつつ、俺はこれまでの経緯を振り返るのだった――。




 朝八時。いつもの時間に俺は店に足を踏み入れた。


「おはよう創くん。早速だけど、お客さんが来てるわよ?」


 カウンターで食器を洗っていた女性が、にこやかに朝の挨拶をしてくる。


 黄色いエプロンがトレードマークのこの人は蓮華れんげさん。詳しい年齢は聞いたことがないが、非常に若々しい容姿をしつつもどこか大人びた妖艶な雰囲気を身に纏ったこの女性は、喫茶「アルデバラン」の店主であるとともに、そこの二階にある俺が所長を務める「神崎探偵事務所」のオーナーでもある。


 数年前、高校を中退して働き口に困っていた俺を誘い、探偵事務所の場所を提供してくれた彼女はいわば俺の恩人である。自分から口にはしないが、彼女には多大な恩義を感じている。だからこそ、依頼がない時なんかは臨時の店員として一人で店を切り盛りしている彼女の手伝いなんかやっていたりするわけだが……。


 それはともかく、こんな時間から依頼人とは珍しい。というか依頼自体が久々のことだ。この探偵事務所は少々特殊な部分があり、依頼も特殊なものが多い。ゆえに依頼はほとんどやってこない……。


 現状を再確認して少し悲しくなったが、気を取り直して依頼人を観察する。


 腰まで届くさらさらの金髪、ぱっちりとした緑の瞳、そして魅力溢れる笑顔。


 そこらへんに疎い俺でさえその美貌の前では男のみならず同性の女性でさえ魅了されること間違いなしと確信できる。幼女趣味ロリコンだったらなおさらだろうな。



 どう見ても十歳前後の少女だった。妹と同じくらいだ。少女というか幼女と言って差しつかえないかもしれない。


 その幼女は満面の笑みでオムライスにパクつきながら幸せそうにしている。


 幼女らしくないところがあるとすれば、既にそれは二皿目であり、食べ終わった皿を今まさに蓮華さんが洗っているということくらいだ。幼女どころか一般人が朝っぱらから食う量じゃないと思う。まあ、俺もたいがい人のことは言えないのだが。


「はいこれ、創くんの分ね」


 礼を言って、蓮華さんからオムライスを受け取る。その大きさ、通常の五倍。つまり五人前である。俺のためだけに用意された大皿には、山と見まがうほどのオムライスが鎮座している。いつも思うが、女性ながらそんなものを重そうな顔一つせず持ち運ぶ蓮華さんの腕力はどれほどのものなのだろうか。疑問に思うが、女性にそんなことを聞くほど気配りができないわけではない――と言いたいが、それを口に出さないのは以前別の女子にそんなことを言って怒らせた経験があるからだ。今も昔も俺は女心に疎い。



 下手に揺らして邪魔をしないよう、幼女とは別のテーブルについて食べ始める。


 実はこの前にも自宅で妹と一緒に朝食を食べてきているのだが、この身体はそんなことはおかまいなしだ。底なしのブラックホールのごとくいくらでも入る。ちなみに自宅での食事の量はいたって普通。色々あって妹にはこのフードファイターみたいな姿を見られたくはないのだ。


 黙々と山を掘削していると、不意に幼女がやってきた。そのまま俺の対面に座ったかと思うと、俺の前にスプーンが差し出される。


「……なんだ?」


「幸せのおすそ分け。おいしい食事は親しい人と分け合ってこそでしょ?」


 ニコニコしているのが逆に得体の知れなさを感じさせてしょうがない。馬鹿げた量のオムライスにもまったく動じてないし。オムライスでこう思うのも何だが、やはり只者ではなさそうだ。


 というか、こいつは間接キスとかそういうのは気にしないのだろうか。ちなみに俺はまったく気にしない。食えればどれも変わらないし、そもそも味だって同じだ。量さえあれば味は気にしないと言っているのだが、蓮華さんは自分の料理に妥協はしない質らしい。


 とまあ、そんなことを考えはしたが、実のところその意見には全面的に賛成である。美味い食事が活力を与えてくれるのは確かだし、親しい人と分け合えば不思議と腹だけでなくどこか満たされた気がするものだ。まあ、腹が満たされたことなど久しくないし、分け合う相手も妹くらいしかいないのだが。


 しかしだ。これは分け合うとかそういうレベルを通り越した、いわゆる「あーん」というやつなのではないだろうか。


 さらに言うと、この幼女とは今日が初対面のはずだ。断じて親しい相手ではない。が、意見自体には賛成なので、釈然としないものを感じながらも甘んじてそれを受け入れる。お返しとばかりに口を開けてきたので、自分の皿からオムライスをすくい取り、口まで運んでやった。すると、幼女はますます幸せそうに笑顔を浮かべて、再び自分の分を食べ始めるのだった。




「……で、用件は? オムライス食いにきただけじゃないよな?」


 食後のドリンクまで飲んでから、幼女を上の事務所に案内してやる。机と椅子とテーブルくらいしかない部屋のどこが面白いのか、幼女は楽しそうにキョロキョロと部屋を見回している。


「もちろん。ご飯は目的の五割くらい。あとの五割は依頼のためだよ。でもさ、ボクみたいな子供が依頼なんてとか、ヘンに思ったりはしないのかい?」


 半分飯目的だったのかよ……と思ったが、突っ込んだらキリがなさそうなので口にはしない。


「そりゃ思ってるさ。でもこう見えて色々経験しててね。人の見た目をそのまま信用しないようにしてるんだ」


「あっはっは! それはいい心がけだね!」


 ひとしきり笑うと、幼女は名刺を取り出して机に置いた。名刺には、「未確認生命体対策班班長ルイス」とある。


「なんだか聞いたことのない単語があるな」


「ルイスはボクの名前だよ」


「そっちじゃねえ」


「冗談冗談。未確認生命体っていうのはね、そのままの意味で、まだよくわかってない未知の存在のことさ」


 つまりUMA(ユーマ)みたいなものか。しかし対策とはどういう意味だ?


「うんうん、ユーマとかクリプティッドとか呼ばれる生き物と似てはいるかな。でも未確認生命体にはそれらと決定的に違うところがあるんだ」


 さらっと人の思考を読みながら、ルイスは話を続けた。


「実在する可能性が極めて高く、かつ人類にとって危険度が高いと判断されたもの。それが未確認生命体さ」


 そして、変わらぬ笑顔のまま俺を指差して言った。


「ちなみにきみは第一号ね」



 ……今、こいつはなんと言った?


 俺がその「未確認生命体」とかいうやつだと、そう言ってるのか?


 普通なら一笑に付すところだが、悲しいかな俺には心当たりがあった。


 しかしそうなると、この得体の知れない幼女は俺の「正体」に気がついているということになる。はっきり言ってかなりマズい。今までそのことを知っているのは蓮華さんを含めてほんの数人しかいなかったはずなのに、どこから漏れたんだ?


「ああ、心配しなくて大丈夫だよ。このことを知ってるのはウチでは今のところボクだけだから。ということは、この国の上層部でも知ってるのはボクだけってことになるね。もちろん、他の人に話したりはしないさ。約束するよ」


 ここにきて、俺はこの幼女に対してあれこれ考えることを放棄した。完全に己の感覚を信じることにしたのだ。そして俺の勘では、それは嘘ではないのだろうと思えた。誠実そうに見えたとかそういうのでは決してない。こいつは事実でもって人をからかうタイプだと、そう思ったからだ。


「……国の組織なのか」


「非公式だけどね。表向きは存在しないことになってる」


「……で、俺に何を依頼しようってんだ」


「話が速くていいね。実は今、ボクたち第0班は発足してから最初の案件に当たっていてね。ところが、現地に調査に向かったメンバーがそれっきり戻らないのさ。それで、きみにはその子を助けに行ってもらって、できれば証拠も押さえてきてほしいんだ。きみなら簡単でしょ?」


 そう言って、ルイスは不敵な笑みを浮かべるのだった――。




 そして、冒頭に戻る。


「……『ショゴス探偵』ってのは、俺のことか」


「だってきみ『ショゴス』で『探偵』なんでしょ? いいと思うけどなー」



 ルイスの言う「ショゴス」とはなんなのか。一言で言えば、ショゴスとは俺の正体のことである。


 数年前、俺はある出来事によって人間からこの不定形の粘体生物に変異してしまった。そのため、今の姿は正確には人間だった頃の姿の擬態である。この身体は常軌を逸した可塑性と再生能力を持ち、加えて極めて高度な変身能力も備えている。ルイスの無茶振りもあながち不可能ではないのだ。


「じゃあ言うこと言ったし、そろそろ帰るね。前金は置いとくから。そうそう、現地には第0班(うち)から一人同行することになってるから、その子のこともよろしく頼むね。もう少しで来ると思うから」


 そう言うとルイスは事務所のドアを開けて外に出た。


「おい待て、置いとくってどこへ――」


 追いかけてドアを開けるとそこにルイスの姿はなく、代わりに金の詰まったアタッシュケースが置いてあった。蓮華さんに聞いたが、ルイスが店を出るところは確認できなかったそうだ。



 謎の幼女ルイスと俺との出会いは、だいたいこんな感じだった。

 新キャラ、蓮華さんとルイスが登場しました。今後もこんな感じで別の人の視点が入ると思います。


 今年中にこのパート終わるかなあ……。終わればいいな……。

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