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Episode03/Encore. Good By Bye


 act06, Terrible Spectacle


 目を覆いたくなる光景に直面した時こそ、僕はそれから目を逸らさずに直視する道を歩んできた。

 怖いもの見たさの好奇心が旺盛だからではない。そんな惨状を演出した輩への手掛かりを見失わないようにするためだ。ましてや。

 舞台の主役を演じる俳優が知人であったのなら、殊更に背けるべき理由はなくなる。辛かろうと何だろうが、イかれた演出家へと繋がり糸口を見つけ出すため、見据える。


「実働班の方がお見えになるなんて、珍しいこともあるのね」

「……ジャックは友人だったんだ。俺――僕の数少ない」

「そう」


 処理班の女狐こと、オリビエ。男なら誰でも生唾を飲むことであろう抜群のプロポーションを誇っている彼女だが。その歯に衣着せぬ物言いを煙たがり、自ら進んで近寄ろうとする男は少ない。

 僕は今、その所以を再確認した。


「僕と彼の交友関係を知った上で聞いたんだろう?」

「確認よ。本当なら私たち処理班(クリーナー)が来る前に現場へと踏み込むのはご法度なのよ? 相応の理由があったのか否か、確認するのは当たり前のことでしょう?」

「悪かった……それで、何か分かったことは」

「そうね……切断面から見て、まず剣闘者もしくは剣能者の仕業で間違いないわね。微量な異力の反応も確認できたけど、これくらいの量なら普通に生活しているだけで浴びる可能性は十分に考えられる。くらいかしら」


 昔から嫌な予感だけは良く的中する。まったく以ってシラけた世界だ。


「異法使いの可能性は低いのか……」

「うーん。なくはないと思うけど、そんな脆弱な攻撃に抗えない程に柔な剣能者でもないんでしょう?」

「当たり前だ」

「なら自然と、剣能者――身内に敵が潜んでいると考えた方がいいわね」


 となれば、考えられる可能性は二者択一。

 単に裏切り者がいるか、異法界が剣能を拵えたか。どちらにせよ事態は最悪の中でも最も最悪。極悪な事態といえる。

 剣舞の出場者が立て続きに三人も狙われた。ここまで来れば敵の思惑に気付けない愚鈍な輩もいないだろう。


「身内が起こした謀反もあり得る。が、敵の所業だったとしてもあり得る事態だ」

「そうね、確率は二分の一。スバン……貴方はどちらにベットするのかしら?」

「生憎、昔からギャンブルは苦手だ。だからこそ、狙いとは敢えて逆にベットすることにする」

「ふーん……で、結局はどちらへ掛けるの?」


 踵を返して惨状の出口へと歩き出す。


五十対五十(フィフティフィフティ)だ」




 act07, Black! Black! Black?


 帰り支度を終えた途端にコレだよ。


「メアリー、あからさまに嫌な顔してるよー?」

「だから何よっ」

「せっかくの可愛い顔が台無しだよ、て言いたいの」


 可愛くなくなくて結構。こっちは見た目なんかどうでも良いくらいに憤ってるんだから。

 珍しく定時に上がれる、なんて淡い期待をさせといて……全ての元凶はあのマセガキにある。


「リディアナのヤツゥ……何が“残念でしたー”だ。速攻で待機命令出すとか、ホント頭イッちゃってんじゃないの?!」

「メアリー、顔がすごく怖いよ? フランケンシュタインの怪物も顔負けって感じ」

「うっさいわっ! 第一、なんでベレッカは平然としてんのよっ?」

「仕事だし、しょうがないかなーて」


 嗚呼もう。これだから社畜ってヤツはダメだ。

 組織自体がブラック過ぎて労働局へ訴えることさえ叶わない。これが本当のブラック企業ってヤツね。それで例えると、さながらベレッカは“ブラック社員”ね。


「このブラック社員……」

「それじゃ、メアリーもブラック社員じゃない?」

「私はここに染まってないわけだし、ブラックじゃ――」


 ――ピピッピピッ。


「はい、こちら処理班のメアリーです……ええ、はい……了解です。大通りの店ですね……はい、それでは」


 大通り沿いの“レンドン”でフィルマさんに合流して、そこから護衛の任務。実働班の人手が足りないカバーか。


「あっちも大変そうね……ベレッカ、仕事――」

「キッチリ染まってるように見えるけど?」

「あ……」




 act08, Betrayer


 相も変わらない太々しさそれと、隠し切れずに漂ってくる陰気くささ。堪らないわね。ここが議場の席で無いのなら、真っ先に消し炭にでもしたいくらい。


「遅れてしまって申し訳ない。我々は何かと忙しい身なのでね」

「聞き捨てならない物言いだな」

「おいおい、いきなり邪険な態度ってのも良くねえだろう。ここは罵り合いの場じゃなくて、今後の異法界の行く末を話し合う場なんだ。それに――そこのバットゥマンの言う通り、俺たちに比べたら忙しい身だろうよ、実際。な?」

「流石は新進気鋭のアフターストーカーの長。若さ故に物分りの良い柔軟な脳をお持ちのようで何よりです」


 何を偉ぶって……私のミハエルが助け舟を出さなかったら言い返せていなかっただろうに。身の程を弁えることさえ出来ないとはね。やはりそこは陰気な枯れ木風情、てところかしらね。


「無駄なお喋りは止めにしましょう。こうしてる今だって、あの忌々しい剣界の連中がこの世界を自由に闊歩してるかと思うだけで――うう、背筋がむず痒くて仕方ないもの」


 ――はっはっはっは。


 枯れ木風情が笑うんじゃないわよ。飛散した唾液が着いたらどうするのよ。


「ご安心下さいな、麗しき副長さん。今宵、二名の剣能者の命を絶ちましたから」


 何を今更、そんなに誇らし気に語るような成果でもないでしょうに。アフターストーカーが殺して来た剣能者なんて、二桁程度では済まないというのに。


「雄弁に語っておられるところ申し訳ないのだけれど、その程度で――」

「副長さん。量より質、というお言葉をご存知かな?」

「なっ……?!」


 言うに事欠いて……この枯れ木風情が。


「おいおい。幾らバットゥマンだからって、その言葉は聞き捨てられる許容量を超えてんぜ?」

「……剣舞。剣界の連中が十五年に一度開く祭典があるのはご存知かな?」

「それくらい――前置きは結構よ。早いところ、その胡散臭い自信の根拠を示してもらおうじゃない」


 もし出来なかったら……その干からびた幹、木炭になり変わる程度で済むと思わないことね。


「我々が伏せた両者、剣舞の出場者だったのだよ」


 それがどうしたっていうの?


「聡明な皆さんがお分かりになられないと? これは意外ですね」

「……剣舞に出場する剣能者は皆、剣界で今最も力のある連中が選出される。そう言いたいんだろう?」

「流石はリーガル氏、その通りです。その一角――いや、両翼を剥いだのですよ我々、デッドクライシスは」


 成る程ね。しかしまあ。

 それでここまで横柄な態度を取ろうとは、見当違いの域を脱し切れてはいないじゃない。


「あっちの内情に付け入った点は評価に値できるものもあるけれど、まさか。それだけってことはないでしょう?」

「ふむ――」


 まだそんな余裕な態度を取れるの……いえ。きっと内心では焦ってるに違いないわ。

 さあ。焦燥に駆られてどんな愚言を吐き出すか、聞かせてもらおうじゃない。


「見限られたものですね」

「何ですって?」

「ここまでの遅刻をしておいて、手土産が剣能者二人の命では割に合わないことなどは承知の上です」

「あのよー。勿体ぶってないでさ、さっさと話してくれよ。それとカイラ、お前もいちいち突っかかるな。話が進まなくて困るんだよ」

「……すみません」


 この枯れ木、後で必ず殺す。


「では、お聞かせしよう――」




 act09, Sad Terrace


 待ち惚けをくらって、期待を裏切られ、その果てに聞かされたのがこれ、ね。


「フィルマさん。ご自宅までの護衛を務めさせて頂きます、メアリーです」

「同じくベレッカでーす」

「そう。こんな遅くにごめんなさいね」

「いえ、これが仕事ですので」

「ブラック社員まっしぐらじゃない、メアリー」

「うっさい」

「ふふ――仲が良いのね。羨ましい」

「す、すみません」

「いいのよ」


 少しは気も紛れるし。

 結局、私は何をしに来たのかしらね。こんなめかし込んで、料理の一つも頼まないで、バカみたい。


「フィルマ、さん?」

「え、何かしら?」

「もうメアリー、察しなきゃダメだってっ」

「あ、すみません」


 どうして謝るの?


「あ……」


 泣いてるのか私……バカみたい。




 act10, No Concern Of Mine


「早くスバンさん、帰ってこないかな」


 この男、これで何回目だ。

 俺がここに来てからずっとうわ言のように同じことばかり繰り返してるが、どういう意図で吐いてるんだ。


「なあ、さっきから何を――」


 ――バァンッ!


 後ろから……護衛対象の部屋か!


「どうかしましたか!」


 急いで身を翻し、対象の安全を確認――


「あれ、マルコメの奴は?」

「は?」

「は、じゃないってーの。あいつはどこ行ったの?」


 この女は何を言ってるんだ。


「スバンさんなら現在、出払っていますよ。それで、今度は何用でしょう?」

「いないならいいわよ」


 ――バタンッ。


 何だ、何なんだ。


「おい、これはいったい?」

「なあお前。これが単なる護衛任務だと思い違ってるんだったら、早いところ自分はベビーシッターへ転職したんだと、そう思い込むことを勧めるぜ」

「はあ?」


 ベビーシッター?

 こいつは本当に何を言ってやがるんだ。


「いいか。この豪勢なベビールームに居座る大きな赤子はな、一度泣き出したらそりゃ大変だ。手当たり次第に斬り刻まれるぞ……あの異法使いのようにな」


 まさか……いや、そんなバカな。


「あれが月波郁刃か?」

「今になって気付いたのか?」

「お、俺は日本からのビップだとしか聞いてなくてな……」

「まあいい。これで分かったろう?」

「ああ。全てを悟った」


 確かにこの赤子を泣かせてはいけないな。それこそ正に死活問題だ。

 嗚呼。早くスバンさん、帰ってこないかな。

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