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Episode02/Encore. The Savior


 act07, Fast Pace


 嬉しい誤算と言って差し支えないはないことだが。それは同時に、こちらの落ち度とも言えてしまうのが難点だ。


「月波郁刃、君が紛らわしい行動ばかり起こすのがそもそもの原因だ」


 取り敢えず、日本からのことも含めて八つ当たっておく。


「そもそも、異法とか知らないってーの。違法なら分かるけどさ」

「性悪女、決着は剣舞の場で果たしますわよっ」

「おいマルコメ、このホルスタインはなんて言ってんのよ?」

「決着は剣舞で果たす、だ。それと……通じないとは言え、そろそろ本当に言葉を慎め」

「真っ先にその無駄にデカい乳共々ぶっ潰してやるわよ。ほら、訳す」


 日も暮れて来た所為か、ドッと疲れが押し寄せてきたな。主にこの女に対しての気苦労なのが解せないところだが。


「オクターヴィ嬢。そこの阿呆が受けて立つ、と申してます」


 意味合い的には間違った訳ではない。


「ふんっ……いい度胸ですわ」

「アンタ今、鼻で笑ったでしょ? もういいや、斬る――」

「待て待て、早まるなっ」


 この年頃の女性はどうしてこう、血気盛んなんだよまったく。キャシーの垢を煎じて飲ましてやりたいくらいだ。

 と、忘れるところだった。ポケットからスマホを取り出し、クレアへと繋ぐ。


『スバン様、月波郁刃の身柄はっ?』

「心配はいらない。彼女は白だ」

『え?』

「いやいや、下着の色ではないぞ」

『スバン様、上司に向かって吐いて良い言葉ではないことを承知して申し上げます――些かも笑えない冗談なんてかましてないで、とっとと説明しろ』

「……ジョークについては謝罪するが、今のはリディアナのカンペか?」

『そーですよぉ……で、早いところ説明してくれる?』


 やはりそうだったか。

 クレアがあんなセリフを考えるとは思えないしな。


「結論から言って、月波郁刃は異法使いではなかった。それどころか、彼女は連中の存在すら知らなかったそうだ」

『……はぁ』


 あのリディアナが溜息か。まあ無理もない。

 珍しく凝らした頭で捻り出した推理が間違ってたとあらば誰だって溜息の一つや二つ、吐きたくなるのが普通だ。ましてや相手はあのリディアナだ。


『ふりだしに戻っちゃったよぉ』

「全ての原因はあの女の紛らわしさにある。そんなに肩を落とすな」

『もういいや、切るよ――』

「その前に、今後の月波郁刃の処遇は?」

『好きにすればいいじゃん……浮気とか』

「冗談でもよしてくれ」

『さっきは自分で冗談を言ってたのに? まったく、どの口が言えたんだかぁ』

「切るぞ」


 ――ブツッ。


 最後に余計な言葉を吐き捨てやがって。この僕が浮気だと……それも月波郁刃と。天地が逆転しようともそんなことがある筈がない。


「……て、アイツは?」

「急にあちらの方へ走って行ってしまいましたわ」

「何っ?!」


 ただでさえ暗くなって来たというのに……あの女はジッとしてると死んでしまう奇病でも患っているのか。



 act08, Shut Down


 知り合った年月はまだ浅いけど、こんなにショボくれた様子のリディアナは初めて目にする。先刻、部下に買わせに行ったドーナツを落としてしまったも気付かないなんて。


「リディアナ、仕方ないわよ。また考えましょう?」

「……クレア、少しだけでいいからさ」

「ちょっ――リディアナ?!」

「間違っちゃった……ごめんなさい、エドワルド」


 急に抱き付いて来たからビックリしらけど、考えてもみればそうね。まだリディアナは十五歳の女の子なんだもんね。


「大丈夫よ」

「うっ……ううっ」


 こうしてると普通の女の子よね、本当に。

 クリーニングしたばかりのスーツだけど、このまま泣かせてあげましょう。気の済むまで、ね。


「男みたいな胸だよぉ」

「……はやく離れろ」



 act09, Arrival Savior


 今日は早々に引き上げ、ゴールディアの巨漢を討ち取った手柄をツマミに、俺が主賓の細やかな宴でも開こうとも考えていたのだが……どうやら今日の宴は盛大なものになりそうだ。


「異法を斬る剣能など聞いたことはなかったが……お前、剣界では相当に名の通る剣能者か?」

「……なに喋ってんだかわかんねえっつーの」


 日本語、か。やはり日本人のようだな。

 だが。この女が如何に優れた剣能者だろうとも、俺の異法の前では無力だ。


「まあいい。悲鳴だけは万国共通……いい声で鳴けよ、剣能者っ!」


 異法――刑の十二、銃刑。

 執行人は十、経口は中、命中精度重視。

 終わりだ、麗しい剣能者。この十本の閃光に貫かれ、後ろのゴールディアの巨漢諸共、蜂の巣になれ。


「その面、気に食わないわね……」

「な――っ」


 執行人の銃弾でもある閃光は直撃した筈。なのにどうして平然と立っている……まさか。あの高速の弾丸を、十発全て斬り伏せたとでも言うのか。


「そんなのあり得る訳が――」

「あり得ないって顔してんじゃん。言葉はわかんなけど、こっちの人間って表情に出易くて助かるわ」


 何を言っているのかは分からない。分からないが、ヤバい。あんな所業をやってのけて尚、この平然とした笑みを浮かべられる。

 こいつは間違いない――化け物だ。俺なんかの手に負える輩じゃない。


「くそっ」


 逃げるしかない。幸い、ゴールディアの巨漢は下したんだ。それで戦果は充分。これは戦略的撤退だ。

 異法――刑の二、斬首刑。

 執行人は三、執行具は斧、持続重視。

 路地の通路で三つの斧が振り子のようにして道を分断する。これで足止めは出来る。今の内に――



 act10, Misty Senses


 幻覚か、それとも最後の夢か。

 目の前の女はフィルマなのか。


「あんた、大丈夫なの?」


 これは日本語か。なら、フィルマではないな。

 クソ……視界が霞んで良く見えねえ。


「おい、おっさんしっかりしろよ! 目の前で死なれでもしたら、私の目覚めが悪くなるっつーのっ」


 必死に呼び掛けてくれているが、悪いな。その声に応えられそうにも、ない。

 寒くて死にそうだ……いや、もう瀕死か。笑えないな、まったく。


「月波郁刃、見つけたぞっ」

「おいマルコメ、このおっさんが!」

「なっ――グレン、グレンさんじゃないかっ」


 何だこの声――スバンが来たのか?


「グレンさん、しっかりして下さい! すぐに医療班を呼びますから!」

「それ、より……フィルマが、あいつは今――」


 ――ゴフォッゴフォッ。


 不味い咳の仕方だな、こりゃ。

 これ以上喋ったら本当に不味いだろうな。だが、これだけは伝えねえとダメだよな。


「スバ、ン……」

「もう喋らないで下さいっ」


 そんな訳にはいかないんだよ。


「テラスで、あいつが……待ってるん、だよ……」

「グレンさんっ!」


 不味いな。眠たくなってきたぞ。


「月波郁刃、こんな時にどこへ――くそ、また勝手に」


 へっ。スバンの野郎、相変わらず女の尻ばっか追いかけてんだな……可哀想に、な。


「グレンさん、目を閉じちゃダメだっ! グレンさ――」


 悪いフィルマ……お前の師匠の言う通り、俺は情けない男だったぜ。

 もし次に会えるようなことがあったら、その時はもう少しだけまともな男になってるからよ……じゃあな。



 act09/Encore, Moonlight Dancer


 追ってくる様子もないし、ここまで来ればもう大丈夫か。


「しっかしまあ、この俺がここまで焦らされるとはな。あんな剣能者、二度と会いたくないってもんだぜ」


 本部まではまだこの森の道を歩くことにはなるが、さすがにこんな場所までは追ってこないだろう。第一、この森は不可視の結界が張られている。

 同じ異法使いなら未だしも、剣能者風情が見破るなんてことは出来やしない。何せあいつらの頭ん中は剣のことばかりだからな。


「剣脳者、なんつってな」


 ――はっはっはっ。


 独りで俺は何を笑ってるんだろうな。


「――その不愉快な笑い声に加え、さっきの不愉快な光景まで見せられた……斬り刻む理由としては充分よね」


 嘘、だろ?


「どうしてここが――」


 異法――刑の十二、銃刑。

 執行人は二十、口径は最大、威力重視。

 振り向き様に一斉射してやる。これなら幾らんでも防ぎようはない筈。

 俺の旋回と同時に、執行人の銃弾が放出される。先とは比べ物にならない程の太さの閃光が、森の暗がりを瞬く間にライトアップさせる。これで一安心だ。


「蜂の巣どころの騒ぎじゃねえな、これ――」


 ――スッ。


 銃刑の轟音に紛れて今、風切り音が耳元でしたが。何の音だ?


「あんた、見かけ通りの鈍さね」

「な、に――」


 いつの間に後ろへ……あの音、こいつの着地する音だったのか。クソ。

 もう一度、振り向き様に――


「痛っ――ぐあああああっ!?」


 左肩が熱――違う。どうなってる、左腕の感覚が……。


「う、うでがあああ――」

「うっせえよ」


 このアマが――は?

 俺の、体?

 え、どうなって……。



 act/Bonus, Report


 どーせ改竄――もとい。手直しが入るとは思うので、適当な書きっぷりにしますよ。


 十月七日の晩に起きた二つの事件についてですが。


 まず一つ、グレン・アッピス・ゴールディアが異法使いの何者かと交戦した件について。

 彼は医療班の到着後、適切な処置を受けて一命を取り留めました。後遺症として歩行が不可能になる恐れがあるとのことです。まあ、あの人なら気合で何とかなるんじゃないでしょうかー。


 はい次。問題児の月波郁刃と、グレン・アッピス・ゴールディアと交戦した異法使いと同一人物と思われる男との交戦もとい、虐殺劇の件について。

 彼女は異法使いたちの張った結界を何らかの方法で感知、それを破壊しました。

 その後、異法使いたちの一派“シャドーカースト”の元本拠地があった場所に続く森の中の道にて。同男性を原型が分からなくなるまで何度も斬り刻み、殺害もとい、惨殺しました。

 尚。この事実に関して彼女は否定しておらず、むしろ問い質したスバンに対して事細かに、それはもう雄弁に語り聞かせたそうです。常軌を逸してますねーホント。


 これら二軒に関しては他の一般人に目撃された心配は要らない物と見ます。ですので、改竄班の出番はありませーん。残念でしたねーメアリー。ざまみろ。


 以上で二軒に関しての報告は終了しまーす。

 報告者、リディアナ・デ=クレッシェン・コーディ。

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