思惑
「仇?」
「そう、私許せないの。お兄ちゃんをこんなにボロボロにした人たちが……私たちのビデオを作る人も買う人もそれで儲ける人も許せない。」
ヒナは、はっきり言い切る。
俺は黙るしかなかった。ヒナは1人で考えてたんだ、俺はずっとヒナを守ってあげれないことを後悔していたんだ。ヒナと何とか今日を生き残ることしか考えてなかった。
でも、ヒナの気持ちなんて考えてなかったんだ。俺はーー。
「ヒナ、俺は。」
「で、ジーンはどうなの?」
デュオが口を挟む。
「うふへっ?!あ、すまん。寝てた。」
「あ、うん。そうか。」
デュオが一瞬固まった。
ごめん、ごめん。
そう言うと、口元のヨダレを拭く。
「ヒナの敵討ち、手伝うの?」
「あー、うん。その件なんだけどさ!」
悪意のある顔をするデュオ、緊張した表情を見せるヒナ、そして、無表情で見る俺ーーそんな状況でジーンは軽くこう言った。
「私の仇敵を倒すのにも協力してくれるなら、いいけどな?」
ジーンは笑う。
ヒナはうなずく、俺は黙るしかなかった。
ヒナがやりたいことが俺のやりたいことだと、そう言ったから。
ーーヒナのためにだったら何でもする。
「で、めでたく決まったわけですが。」
デュオが手を叩く。
「お前らに何が出来るわけ?」
悪意のある眼差し。でも、今は言い返せなかった。
俺たちには何もない。ただ、監禁されていただけだ。
「別に問題はないと思うけどな?」
「でも、コイツらの生活とかどうするんだよ?」
「そんなの、簡単だ。今まで通りの生活をしてもらえばいいんじゃないか?」
今までーーそれは、ヒナと監禁されていたあの生活と同じた。
「あー、確かに。でも、俺はビデオ取るための機材なんてないぞ?」
ヒナが震えている。
「違う、そうじゃないーーカルク、拷問って得意だよな?」
「は?」
俺は理解できない。
「2人が出演しているビデオを見せてもらった。お前はすごいよ、あの状況でヒナを生かせるくらいには知識と勘がある。」
震えるのが押さえられない。
「それでいて、ヒナを抱けるなんてまともな神経を持ち合わせてはいないよな。」
違う、違う。俺は。
「火傷でも怪我でも自分で手当てしてたんだよな、だから私の仕事を手伝って欲しいんだよな。」
ヒナを助けたくて、アイツらにやらせたらヒナを殺すから、だから俺が助けてあげなきゃ、俺は悪くない。俺は悪くない。
悪いのはアイツら。
でも、ヒナは泣いてる。大事にしなきゃ。大切にしてあげるから今日はもう殴らないから泣かないで。
「ーーお兄ちゃん、無理しなくていいよ。」
ヒナが俺の手に触れる。
「ジーンさん、お兄ちゃん苛めたらダメだよ?」
「……あ、すまん。すまん。お前が私の仕事を手伝うなら、お前がやるのはスナッフビデオで小銭稼ぐ悪党とか薬のために何でもする輩ばかりだけどーー手伝ってくれるよな?」
ヒナは俺の手を握りしめる。どちらでもいいってヒナなら言うだろう。でも、もし俺が断ればヒナのやりたいことだってできないのは明白だ。
「わかった、やるよ。」
俺はヒナの手を握り返す。
「ん、それじゃ決定。で、デュオはついてくるの?」
「まぁ面白そうだし、金になりそうだからな。手伝うよ。」
「わかった、先に帰ってろーー仕事してくる。」
そういうとジーンはチェスト・リグを身に付け、銃を持つ。
「どうせ後で迎えに来いっていうんだろ、いいよ。待ってるから。」
「そうか、わかった。じゃあ、行ってくる。」
ジーンは走り出した。
デュオはそろそろ10本目になるであろう煙草に火をつける。
「お兄ちゃん。」
ヒナが呼ぶ。
「どうした?」
「これからもずっと一緒だよ。」
「……ああ。」
俺はうなずいた。