とある決意
「お風呂あったかーい!タオルでクラゲ作ったの、ほら!」
多分、2日ぶりの風呂だった。
ジーンが上がったあと、デュオに言われた通り風呂に浸かる。
ヒナがここまで機嫌がいいのも珍しい。
俺達に酷いことをした奴らは死んだ、あまりにもあっさりと。
そして、今こうやって生きている。
「お兄ちゃん、よしよし。」
突然ヒナに頭を撫でられる。
「どうした?」
ヒナは自分の額を俺の額に当てる。
「私はね、お兄ちゃん大好きだから。」
ヒナは笑ってる、傷だらけの体で。
俺を気遣った笑顔をしながら。
「お兄ちゃん、今まで頑張ってたんだよね。もういいんだよ。」
「……ヒナ。」
「私、わかってるよ。首を締めるときも、殴るときも、体に火をつけたライターを押し当てるときさえもお兄ちゃんは泣きそうになってたよね、辛かったね。私のことは気にしなくてもいいんだよ。」
「……。」
俺は黙る。泣きたくないのに涙が出てくる。
「これからどうしようか、美味しいご飯でも食べる?私といっぱいお話する?それともーーもっといいことする?」
誘惑するような眼差し。
「……。」
俺は黙る。
ヒナが俺を抱き締める。
ヒナに自分を誘惑させるように仕向けたのは、紛れもない俺じゃないか。
ヒナを大事にするつもりが、俺がヒナを傷つけている。今はただ1人の、俺がヒナを傷つけてる。
「上がろっか、あの2人が待ってる。ね?」
ヒナが声をかける。ヒナは優しい。
ヒナは悪くないのに、どうしてこんな目に合わなきゃいけないんだ。そう思うと、また泣いた。
風呂から上がるとジーンとデュオが片付けを終えていた。
2人とも珈琲を飲んでいる。
もう、アルコールの匂いはせず、2人の遺体もない。
「さぁて、もう少し仕事するか。」
「そうだな、お前まだ動けるのか?」
「私なら大丈夫、元気だから。」
ジーンは、そういうと俺達に鍵を渡した。
「君らにも手伝ってもらう、それはポケットにでも入れておいてくれ。ーー手錠の鍵だ。」
「どういうことだ?」
俺は鍵をポケットに入れる。
「そのまんまの意味!君たちには『商品』を演じてもらうよ。デュオ、向こうの返答は?」
「是非ともだとよ、さっそく今日からやってもらいたいって言っていた、機材はすべて用意してくれる。」
話が見えない。
「とりあえず、ほら。」
「……は?」
俺は手錠をされていた。
「トラック、荷台に乗ってもらう。」
「……。」
ヒナも手錠をされている。ジーンに連れられて俺は外に出ると、トラックの荷台に乗せられる。
「ほら、君も乗れよ。」
ジーンがヒナもトラックに乗せようとすると、
「お姉さん、お願いがあるの。」
「ん?」
「あのねーー。」
ジーンは耳を傾ける。その話し声は聞こえない。
「ーーそうかぁ、なるほど。少し考えさせてくれ。」
「うん、いいよ。できればのお願いだから。」
「できれば叶えてやりたいね。」
ヒナはうなずくと、トラックの荷台に乗る。
「なあ、何を頼んだんだ?」
「内緒、お兄ちゃんには。」
ヒナは俺にくっつくと、何か考え込み始めた。
「ーー私のこと、好き?」
「……ああ、とても。心から。」
「そっか。」
ヒナはそういうと何か決心したような顔をしていた。
それが怖かった。