オーディエンス
突然入ってきた左耳にピアスをした男に、俺は唖然とする。
「落ち着けよ、ほら。外してやったぞ」
男は俺にほとんど興味ないようだった。そして、ジーンの手錠を男は外した。
「助かった、デュオ。――服は?」
ジーンは男に渡された濡れタオルで体を軽く拭く
「男物しかなかった。脱衣場に置いてある」
「それで十分だ、さて」
タオルを投げ捨て、ジーンは俺を見る。
「ハハハ……」
思わず笑いがこみ上げた。俺はどうでもいいがヒナは大丈夫だろうか?
「連れていくんだろ、コイツら」
「まぁな、来るだろ?ヒナだっけ、あの子も一緒に」
俺は驚く。俺とヒナを助けてくれるのか?
「……あぁ、しかしなぜ俺らを?」
今さっき出会った相手を助けるのか?
「後から説明する、中々地下室にしては快適だったな」
ジーンは来ていたシャツを脱ぎ捨て上裸になる。褐色の肌は綺麗で無駄のない体つきだった。触ったときは男みたいに硬いと思ったのに。
「風呂入ってくる、片付けよろしくね。」
そう言うとジーンは地下室を出た。
「お兄ちゃん、どうするの?」
「……ヒナ。」
俺はヒナの手をしっかり握る。
「事情はわからないがここから出られるみたいだ、行こう。」
「うん」
俺はヒナと共に地下室に出た。頭から血を流して倒れている男2人がいた。左耳にピアスをした男がいた、人を殺した後のわりにはニコニコと笑っている。
「お前らも後で風呂入れ、それまでそこにいろ。俺は荷物まとめてくる――そうそう、俺のことはフレンドリーにデュオとでも呼んでくれよ」
デュオはそう言って笑う、そして他の部屋に出ていった。
俺とヒナは残される。
「死んじゃったね、あの人達。」
俺がヒナを殺しかけるまで殴らせたり、無理やりライターを押し当てて火傷を負わせるのを撮り続けた、あの2人はもういない。
だが、手の震えが止まらない。アイツがさっきまで飲んでいたであろう酒のアルコールの匂いが耐えられない。気持ち悪い。アイツから血が出ている。
あぁそうだ、いつだかヒナを切り裂くハメになったことがあって、その傷口に消毒液の代わりに酒をかけたんだっけ?
ヒナの服を無理矢理脱がせていたぶって……最後に酒飲ませて乱暴したこともあった。
酒の入ったビンでヒナを殴って、そのあと顔を水に沈めた。
アイツらの言うことを聞かなければ殺されてただろう、だがヒナをボロボロにしてしまった。ヒナは1回も俺に対して不満をもらしたことはない。
俺はなんてことをしてしまったんだろう、それなのにヒナを抱いたのだ。ヒナを慰めるつもりが、本当は自分を慰めたかっただけじゃないか。俺はヒナを殺そうとした。ヒナを傷つけた、全部俺が悪い。俺がいなければ良かった。
「……お兄ちゃん、お兄ちゃん!!!!!」
はっとする。気がつくと俺はソファーにヒナと寝転んでいた。 ヒナは涙目だった。
「お兄ちゃん、辛そうだった。」
ヒナは俺を抱き締める。
「ご、ごめん。しばらく隣にいてくれ。」
「いいよ、ずっといるよ。」
ヒナは優しい。俺は泣いた。