街 サウナンド
ー街 サウナンド
あれから3日ばかりかけて村の南の方にある街 サウナンドに2人は到着した。
エミリアは尻尾を隠すため薄いマントを羽織っている。
目の前にそびえ立つ高さ5メートルほどの壁。かなりの年月が経っているように思える。モンスターによるものか、ところどころ凹んだり傷ついている。
そして一つ問題がある。
街に入るには身分証明と500タラン必要だ。
1タラン=1円
1タリン=千円
1タルン=一万円
1タレン=一千万円
1タロン=一億
子供でも稼げる程度なのだが、地球から来た春大は1タランももっていない。もちろん村の外れで暮らしていたエミリアも持っていない。
困ったなぁ
目の前に並んでる列がどんどん少なくなっていく。
門の近くでは何人かの兵士が分担して列をさばいている。
ほとんどがむさ苦しいおっさんたちである。
『はい、次の方ー』
春大達の番である。
もしかしたら、入れないんじゃないか?そんな不安が胸をよぎる。
よりにもよって、一番強面なおっさんのとこに当たってしまった。
こええよ、このおっさん。いきなり怒鳴ったりしないだろうな。
少し緊張しながらお金がない旨を伝えようとする。
『あのー、ギルドに入りに来たんですけど。・・・お金ないんです・・』
『あぁ、そうか。んじゃあ名前を教えてくれ。あと、ギルドに入ったらギルドカードを持ってまたもどってきてくれ。』
あっさりとなんの問題もなく街に入るには許可がおり、少し肩の力が抜ける。
『おれが春大で、こっちがエミリアだ』
春大の言葉に合わせ、エミリアがおじぎをする。
そんなエミリアの様子を見て急に真顔になるおっさん。
("忌み子"てのがばれたか?)
春大とエミリアに緊張が走る。
おっさんが春大に視線を戻し、重々しく口を開く。
『おまえ、誘拐したんじゃないだろうな?』
『そんなわけあるか!このクソジジイ!!』
何を言いだすかとひやひやとしていた春大だが、そんな不名誉なことを言われる筋合いはない。思わず怒鳴り返す。
よく見るとこのおっさん繋いでる手をちらちらとみている。
その会話が聞こえていた周りの奴らがどよめき出す。『誘拐?』『あいつか?あーゆう一見普通に見えるやつがそーゆーことやるんだよな』
などと勝手にほざき始める。とくに最後のやつ。顔は覚えたから覚悟しとけ。
『んじゃあ、なんだその子は?どう見ても兄妹には見えんぞ』
やじに気を取られていた春大は、そのおっさんの声で意識をそちらに戻す。
『え、んー、あー』
『・・・・・・おい』
うまい言い訳がでなくしどろもどろになる春大に、より低くなった声でおっさんがこちらを理解睨む。
や、やばい。うまい言い訳がでてこない。
そんな春大に助け舟をだすエミリア。
『わたしと、はるとさんは・・恋人です』
顔を赤らめながらそんなことを言うエミリア。
・・・え、えみりあさん?
その場にいた全員が固まる。
ヒュー
乾いた風の音が聞こえた。
ガチャリ、と金属通しがぶつかったような重量感のある硬質な音が春大の耳に届く。
発生源は、目の前のおっさんの腰の辺り。詳しく言うと、腰につけている剣からである。
『ロリコン成敗!!』
勢いよく抜刀し、そのまま一刀両断と言わんばかりの恐ろしい形相で春大の頭を狙う。
は、はええ!
恐ろしいスピードで頭上から襲いかかる剣に驚く。
腕に絡みついたままのエミリアを抱え、その煌めく狂刃をサイドステップで避ける。
完全に避けきれなかったのだろう。服の一部がはらりと落ちる。
このままでは殺人が起きる。そう感じたおっさんの同僚のおっさん達がおっさん(怒)を止めようとする。
『おい!ガンドおちつーー』
その同僚の静止の言葉が届くより早く、突如現れた火の玉が猛スピードでガンドー切りかかってきたおっさんに被弾した。
「ふごっ」
豚のような断末魔をあげ思っくそぶっ飛び。地面に2、3バウンドする。
・・・起き上がってこない。
死んだか?
ピクピクしているからまだ大丈夫だろう。
春大がそんなことを考えている時、となりから怒りを理性で無理やりに抑えようとしている声が聞こえる。
『ハルトさんに、何してるんですか?』
顔は笑顔だが、目は笑っていない。完全にその目から光が消え、背後には般若が見える。
かなり、ご立腹のようだ。
さきほどの火の玉はエミリアの魔法による攻撃のようだ。かなり威力があった。
・・・今日こそステータスを聞こう。
だがそこで、おわりではない。エミリアの近くにさらに火の玉が現れる。
『まだ、ですよ?』
氷のような美しく、そして限りなく冷たいどこか威圧感のある笑みを浮かべながら宣言するエミリア。
これに焦ったのは周りの人々。
『まてまてまてまてまて!エミリアまてぇい!』
必死に止めようとする春大。
光のない目でのこちらを見ながら、きょとんと首をかしげなからエミリアは恐ろしいことを言う。
『でも、あの人。ハルトさんに傷つけましたよ?なら、殺さないと危険です。なるべくいたぶってから・・・』
普段は心優しいが、このように春大が怪我をすると人が変わる。
この前なんかウサギを全滅させようと家を飛び出していったこともあった。必死に止めたが。
そんな時はとりあえず頭を撫でる。
『大丈夫。おれは大丈夫だ』
少し撫でていると、目に光がもどり、とろーんとなる。
そんなどこかピンク色の雰囲気を出すエミリア。
そこに唐突に声がかかる。ガンドを止めようとしていたおっさんその一だ。
『あー、ちょっといいかな?とりあえず正当防衛なのはわかってるけどちょっと来てくれる?』
そうして、気絶したガンドを引きずるおっさん達と共に取り調べ室に連行された。
とりあえず正当防衛。ガンドは気を失っているが無事。そのような理由からすぐに解放された。
いろいろと注意は受けたが。
あとはギルドに入ったらこちらに戻ってくるということも念押しされた。
ギルドの場所はおっさんその一に聞いた為、迷わず向かう。
ー ギルド
扉を開け中に入ると、むさいおっさん達がたくさんいるなどということはなく。パラパラとイスに座ってい、談笑しているもの。依頼を見ているもの。いろいろいるが予想より閑散としている。
『意外と人がいませんね・・・』
同じようなことを思っているのか周りをキョロキョロと見回しているエミリア。
そんな風に周りを見ていたからだろう。正面の受付から声がかかる。ギルドの制服なのだろう。スーツのようなものを着た綺麗なお姉さん。
『新規の方ですか?』
『あぁはいはいそうです』
『では、こちらへどうぞ・・・仲がいいのですね』
繋ぎっぱなしの手に気づいたのだろう。春大が何か言う前に、エミリアが嬉しそう笑う。
「うふふ」
いろいろ諦めた春大。
2人で勧められたイスに座り話を聞く。
『では、この紙に名前と自己アピール、何ができるかを書いてください。あんまり詳しく書く必要はありません』
『意外と簡単だな』
『強い人は自然と情報が集まってきますので』
笑いながら言う受付のお姉さん。弱いお前の情報なんているかと言われたような気分になる春大。
とりあえず春大は名前と一応拳士と書いておく。剣がなかった為、剣の練習をできなかったからだ。
自分のを書き終えた春大はちらっとエミリアのを見る。彼女は魔法使いと書いたようだ。
あぁ、そうだ、と心配していたことを思い出し受付の人に尋ねる。
『ギルドに入るのに何か条件はあるのか?』
『・・・というと?』
『例えば・・"忌み子"でも入ることはできるのか?』
エミリアは大丈夫と言っていたが確認することに越したことはない。
となりで、エミリアがピクッとなったのを感じた。
『あぁ、そういうことですか。あとで詳しく話しますが、犯罪者でなければ基本なれます。・・・"忌み子"でも奴隷でも』
やはりこの世界には奴隷がいるのか、と軽く驚く春大。
そして受付のお姉さんは意味深にエミリアの方を見る。
『それに"忌み子"はステータスが高いのでむしろ歓迎されますよ。それに今は"忌み子"からSランクも出てますからね』
母親が子供を安心させるように、柔らかく微笑んだ。
その後、いろいろとギルドの決まりを聞いた後、宿の確保のためクエストを探す。
初めということもあり簡単なのしか受けれない。
とりあえず目についたものを取ってみる。
『これにするか』
それは ゴブリン討伐×10 期限なし 報酬500タラン 討伐証明部位 角。
詳しく話を聞くと初心者救済措置のようなもの。数は持ってきただけ買い取ってくれるらしい。
一泊2人で1600タラン。食事込みで2500といったところだろう。
あまり強そうではないし、スキルもある。
よって春大はこのクエストを受注した。




