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June Bride

作者:

 


 ――昔話でもしようか、と君は言った。



 “June Bride”



 そもそもとして、“6月の花嫁は幸せになれる”なんて言い出したのはどこの誰だったか。

 もともとはヨーロッパの言い伝えらしいけれど、日本においてそれが浸透したのは某バレンタインデーと同じ理屈。つまりは企業戦略だ。

 ヨーロッパにおいて6月は雨も少なく景観もいい、式を挙げるのに適した季節だという。一方日本は梅雨真っ盛り。こんな時期に“結婚式を挙げます”と言ったところで、新郎新婦も招待客も億劫なだけである。結果式場の方は閑古鳥が鳴くわけで。

 そこで目を付けたのがジューンブライド、というわけだ。“6月に結婚式を挙げた花嫁は幸せになれるそうですよ”と囁けば、そのロマンチックさに新婦はときめき、新郎は彼女のために式の日取りを6月に定めるという寸法である。

「まったく、よく考えるよな」

 実によくできた戦略。売り上げの落ちる閑散月をなんとかしたい、という涙ぐましい努力がうかがえる。

『そんなこと言って、(あおい)だってそれに乗っかろうとしたくせに』

 俺は携帯電話を左手に持ち替えた。

樹乃(じゅの)の誕生日が6月だったからだろ。それだけだよ」

『えー、本当に?』

「そうだよ」

 6月の女神、JUNO(ユーノー)。そのアメリカ読みであるジュノーは彼女の名前の由来であり、願いだ。幸せな女性になってほしいという、両親からの想いだ。だから俺は彼女の誕生日、6月30日に合わせて式を挙げようと意気込んで、準備した。

「……なんていうか、ごめんな」

『いきなりどうしたの?』

「ジューンブライドにしてやれなくて」

 樹乃は少し黙って、それからふふっと笑った。

『いいよ、別に。もう終わったことでしょ』

「……ああ」

 彼女と別れたのは忘れもしない、結婚式の前日だった。終わったことと言えばまあそうなんだろうけれど、俺はまだなんとなく整理をつけられずにいる。

『マリッジブルーなんて、私には関係ないと思ってたんだけどなぁ』

 あれを乗り越えちゃうんだから、夫婦ってすごいよね、と樹乃は溜息を漏らした。

「まあ一生を左右する問題だからな。神経質にもなるよ」

 本当に目の前の相手に一生を捧げる覚悟があるか真剣に考えなくてはいけない時期で、お互い過敏になって。

 そして些細なことで大喧嘩になって、それで何もかもが終わってしまった。冷静になってから後悔したけれど、もう過去は戻らない。

『ねえ』

 戻らないのならば、せめて。


『――昔話でも、しよっか』


 彼女の提案に、俺はゆっくりと頷いた。



 ○○○○○○○○○○



『――初めて会ったのは幼稚園の時だっけ?』

「ああ。同じゆり組だった」

『葵を私が守ってあげたんだよね』

 得意げに言う樹乃に俺は呻く。

「そのことまで蒸し返すなよ……」


 ――“こらー、アオイをいじめるなーッ!”


 ちびで、人見知りで。そんな情けない俺は同じ組の悪ガキにしょっちゅういじめられていた。それを見かけては追い払っていたのが、樹乃。

『あの頃はあんなに可愛かったのにねぇ。今じゃでっかくなっちゃって』

「仕方ないだろ。男なんだから」

 目線を下げれば、骨ばった大きな手がそこにはある。

『でも、でっかい葵も好きだったよ』


 ――呼吸が止まるかと思った。


『なーんて』

 思わせぶりなこと言ってごめんね、と樹乃は笑う。

「……別に。今更なんとも思わねーよ」

『なんだ、冷たいの』

 樹乃はむくれたが俺は無視を決め込んだ。



 ○○○○○○○○○○



『小学校に入ったらクラスが分かれちゃってさ、葵すっごい泣いてたよね』

「……そうだっけ?」

『こら、とぼけるんじゃないの。一緒じゃないと学校行きたくないって泣きついてきたのはどこの誰よ』

 間違いなく俺である。

『行き帰りは一緒だし休み時間になったら会いに行くからとか言ってなんとか宥めてさ。私も葵のお母さんも大変だったんだからね?』

「へーへー、すいませんね」

 なんだか俺の笑い話ばかりのような気がする。不公平だ。

 何か樹乃を負かせれられるような恥ずかしいエピソードはなかったかな、と辿りかけて、やめた。別に奴を気遣ったわけじゃない、そんなことをしたら俺の恥ずかしい過去がその10倍語られるであろうことが容易に想像出来たからだ。樹乃に口で敵わないのは今までの経験からとうに学習済みである。

『6年生になった頃だっけ、葵に初めて好きな人が出来たの』

「そうだったか?」

『そうだよ、新任の松永先生。確か部活の副顧問だったんだっけ?』

「……覚えてないな」

 好きな人いないの、と樹乃にしつこく聞かれたから苦し紛れに名前を出したような気はするが。

『えー、ウソだー。男の子って初恋の人は絶対忘れないんじゃないの?』

「まあ女は上書き保存、男は名前を付けて保存、とはよく言うけどな」

 だから今でもお前のことを忘れられないんだろうが、なんて言葉は胸に仕舞っておく。

「……だからって決めつけるなよ。そんなの人それぞれだろ」

『そうかなぁ』

「そうだよ」

 俺もいつか忘れられてしまうんだろうか。そして俺にも別の彼女が出来て、そのまま結婚したりして――そうしたら、きっとこんな風に会話をすることももうなくなるのだろう。

『でもフラれちゃったんだよね』

「フラれてない。お前が勝手に突っ走ったんだ」

 確か翌日のことだったと思う。“葵が先生のこと好きだって教えてあげたんだけどさ、婚約者がいるから無理だって言ってたよ”なんて唐突に報告された時は卒倒するかと思った。あのあとも先生は前と変わらない態度で接してくれたのでまあ良かったが、どこからか噂を仕入れてきた同級生たちからは随分と生温かい目で見られたものだ。

『――ああ、あれね、実はウソなんだ』

「なにが?」

『婚約者がいるっていうの』

「そりゃそうだろ。あんなの諦めさせるためのウソにきまって――」

『じゃなくて、私が先生に言ったっていうの』

 樹乃は平然と語ってのける。

「初耳なんだが……」

『だって初めて言ったもん。ちなみに先生とは話したことすらないよ。てへぺろ』

「てへぺろじゃねぇ」

 俺の小学校最後の一年を返せ。“へぇ、あいつ先生が好きなんだ……へぇ……ぷっ”と後ろ指を指され続けた俺の一年を今すぐ返せ。

『まあまあそんなに怒んないでよ、可愛いやきもちじゃん。葵を取られたくないっていう』

「……そうなのか?」

『今にして思えばね。あの頃は全然気づいてなかったけど』

「……やきもち、ねぇ」

 そう言われると悪い気はしないあたり、俺も単純だ。

『葵はさ』

「うん?」

『いつから私のこと好きだった?』

 唐突な質問に俺はぐっと詰まった。

「いつからって……覚えてねーよ、そんなの」

 少なくとも初恋騒動の時点で樹乃が好きだったのは事実だけれど、それがいつからかと問われるとはっきりしない。覚えていないくらいには昔ということで、そうすると出会ったころから好きだった、という線が濃厚ではある。恥ずかしいから言わないけれど。

『じゃあさ』

 樹乃はいつも通りの淡々とした口調で言う。

『好きだって気付いたのは、いつ?』

「……それは」

 はっきりと覚えている。15年前のあの日のことは。



 ○○○○○○○○○○



 梅雨だっていうのに天気がころころ変わる妙な日が続いていて、その日も急な夕立に遭った。

「天気予報じゃ20%だったのになぁ」

「20%の確率で降るんだから当たってるだろ」

「80%降らないって言われたら普通傘要らないなって思うでしょ?」

「思わない」

 見慣れた朝の気象予報士は“降水確率は低いですが急な雨の可能性があります”とも言っていた。ちゃんと聞いてないこいつが悪い。

「ま、いいけどね。葵と相合傘出来るしぃ~」

 樹乃がおどけた調子で傘を持つ左腕にしなだれかかる。

「寄るな、歩きづらい」

 濡れた右手で押し返してやると眉をきゅっと寄せてぶんむくれた。

「葵冷たい。いろんな意味で」

「傘に入れてやってる時点で冷たくないだろ。そして右手が冷たいのはお前のせいだ」

 初めて袖を通した中学の夏服がこんな形で濡れるとは思いもしなかった。やはり標準サイズの傘に2人で入るというのは最初から無理があるのだ。相合傘してるってだけで周囲――主に男子――からの目線が冷たいんだからこれ以上いちゃつくと多分殺される。もちろん社会的に。

「でもさ」

「なんだよ?」

「『出てけ』とは言わないんだよね」

「言ってほしいのか?」

「違うってば。何だかんだ昔からそういうとこあるよねってこと」

「……なんだそりゃ」

 詳しく尋ねようかとも思ったけれど、樹乃にはっきり言う気がなさそうなのでやめた。そもそも、なんとなく察しはついている。

「追い出されたくなかったら大人しくしてろ」

「何それ、なんか人質とった強盗みたい」

 樹乃は可笑しそうに噴き出す。

「返事は」

「はいはい。黙ってればいいんでしょ」

 別にそこまでは言ってないのだが、面倒くさいので訂正せずにおいた。

 ぱらぱらと響く雨音をBGMに黙々と歩く。そういえばこんな風に無言でいるのは初めてかもしれない。何せ放っておけば樹乃がいつも何かしらべらべら喋っているから。

 まっすぐ前を向いて歩く樹乃の表情は見えなくて、ここ数か月で開いた身長差が急に恨めしくなる。前までは少し横を向けば見えたはずなのに、今はただ、歩調に合わせて揺れるポニーテールとその下からのぞくうなじが視界の端で踊るだけだ。

 “黙っていれば美人”なんていうのがこいつに対する世間一般の評価だけれど、それはきっと正しい。でなければ少しうなじがのぞいたくらいでこんなにどぎまぎしたりはしない――はず。

 ただひとつ、間違いなく言えることは――俺はこうして樹乃とふたり歩く時間が、決して嫌いじゃないってことだ。

 それがどういうことなのかは、なんとなく考えないようにしてきたけれど。

「葵、着いたよ」

「ん?ああ……」

 気が付けばもうそこは見慣れた樹乃の家で。それを少し残念に思っている自分を見つけた。

「うわー、左側びしょびしょ」

 家の中に入るなり、樹乃は濡れて張り付いたシャツを気持ち悪そうにつまんでみせた。

「俺だって右側びしょびしょだっつの。そもそもお前がちゃんと傘を持ってきてれば――」

「あーはいはい、ごめんって。次からちゃんと気をつけますよ」

 全く反省していない風に言う樹乃に、俺は溜息を吐いた。

「そのセリフ聞くの何回目だろうな」

 そしてこのセリフを返すのも何回目だろうな、と愚痴を零すのには耳を貸さず、樹乃はローファーとソックスを脱ぎ捨てて家に上がる。

「ちょっとそこで待ってて、タオル持ってくるから。あと――」


「……いつもありがと」


 初めて耳にした言葉に俺はがばっと顔を上げて、しかしそのセリフを放った張本人はすでにこちらに背を向け、いつもより少し早足で廊下をぺたぺた突き進んでいた。けれど後ろから見える耳が真っ赤になっていることに気付いて――そうしたらもう、なんだかすべてがどうでもよくなった。


「――好きだ」


 余計な意地を張ったり変に飾ったりすることなくただ何も考えずに放ったその言葉は、決してカッコいいものではなかったけれど。でもだからこそ、俺自身すら気付いていなかった俺の気持ちをストレートに表していたように思う。

 背を向けたままぴたりと立ち止まっていた樹乃はくるりと踵を返し、うつむいたまま大股でずんずんとこちらへ戻ってきて――がばっ、と俺の首にしがみついた。

「……樹乃?」

 濡れたシャツ同士がひっついて正直気持ち悪かったけれど、その奥の肩の熱さに気付いてしまえばそんなものは些細なことでしかなくて。


 俺たちはただ無言で、そのままじっと抱き合っていた。



 ○○○○○○○○○○



『――あのあと二人とも風邪引いて3日くらい寝込んだよね』

「若気の至りってやつだな」

 ただ、素直に気持ちを伝えることがひどく苦手な俺たちにはあれで良かったのかもしれない。

『っていうか』

「ん?」

『まさか自覚したのが告白の直前だったなんて……』

「安心しろ、俺も我ながらドン引きしてるとこだ」

 どちらかというと直前ではなく直後と言った方が正しいくらいだ。無性に好きだと言いたくなって、そこで初めて俺は樹乃への気持ちに気付いたんだから。

「――ところで」

『なに?』

「お前はいつだったんだ?」

『なんのことでしょう』

 ……こいつ分かっててとぼけてやがるな。

「人に言わせといて自分は知らんぷりかよ?」

『なんのことだか分かりませーん』

「この……」

 相変わらず可愛くないやつだなんて思っていたらぽつり、と樹乃が呟きを漏らした。

『……相合傘したときかな』

「え?」

『だから、その……葵が告白してきた日』

「別に相合傘なんてあの日が初めてでもないだろ」

 樹乃が傘を忘れてくるなんて日常茶飯事だったはずだが。

『中学生になって周りの目が厳しくなってからもこうやって相合傘してくれるんだなーって思ったら、改めて実感したんだよ』

「“なんだかんだ私には甘いとこあるよね”ってか?」

 そう尋ねると樹乃がううん、と首を振る気配がした。

『口で色々文句言ってても本当は優しいんだよなぁって』

「人をツンデレみたいに言うな」

『それ以外の何だっていうのよ。で、気が付いたら身長も伸びてるし、ワイシャツ着ると大人びてカッコいいし。っていうかさ、多分自覚ないだろうから教えといてあげるけど、葵あの頃結構モテてたんだよ?』

「……は?」

『そこそこ気も回るし、何よりイケメンだしね。……ま、フラグは私が事前に全部折っといたけど』

 今さらっと怖いセリフが聞こえたが、ツッコむのはやめておこう。小6の頃といい、こいつの嫉妬は決して“可愛いやきもち”で済ませられるレベルじゃない気がする。

『まあ何が言いたいかっていうとさ――』

 樹乃は、僅かに声を詰まらせて言った。



『――私は、本当に……葵のことが好きだったんだよ』



 俺は頷く。

「分かってる、分かってるから」

 語らなくてはならない。昔話の続きを――最後まで。



 ○○○○○○○○○○



 “結婚しよう”などという確かな言葉もないまま、俺たちは式の前日を迎えていた。

 大事なことを言葉にしたがらない俺たちはそれでもうまくやっていたのだけれど、それは互いに分かり合おうとする意識が根底にあって初めて成り立つ、きわめて不安定なものでもあった。


 喧嘩の発端は本当に他愛もないことだったと思う。

「ねえ、似合う?」

 樹乃のウェディングドレス姿を初めて目にして、なんとなく気恥ずかしくなった俺はいつものように悪態をついてしまったんだ。普通だとか、予想通りだとか、とにかくそんな感じで。俺の言い方も悪かったけれど、いつもの樹乃だったらそれを照れ隠しだと分かってくれるはずだった。けれどそのときの樹乃にそんな余裕はなくて。

 訳も分からず罵詈雑言をぶつけ合って、その果てに樹乃は式場から出ていった。“葵なんて大嫌い、もう顔も見たくない”という言葉を残して。


 その直後だった。


 ――甲高いブレーキ音と、何かが倒れたようなものすごい音が聞こえた。

「何だ!?」

 急いで外へ出て音のした方へ向かうと、


 まず見えたのは、炎に覆われた道路だった。そしてそこからもくもくと上がる黒い煙、横転したトラック、潰れた軽乗用車、それに突っ込まれて半壊した個人商店、漏れ出したガソリン――そして、ジリジリ燃えていくシルクの切れ端。


「樹乃ッ!」

 駆け寄ろうとした俺を周辺のやつらが羽交い絞めにする。

「おいやめろ!お前まで巻き込まれるぞ!」

「放せ!あそこに……あそこに俺の、俺の――」


 ――妻になるはずだった女が、いるんだよ。


「目ェ覚ませ!この状況で助かるとでも思ってるのか!」

 もう助からない――そうはっきりと理解した瞬間、全身から力が抜けた。

「あ……あぁ……」

 こんなはずじゃなかったんだ。あいつのことだ、きっと何時間かしたらひょっこり戻ってきて、いつもみたいに仲直りして、それから何事もなかったように式を迎えるはずだったんだ。きっとそうに違いない。そうでなくちゃいけなかった。なのに、どうして。

「樹乃……ッ」

 どうして俺はいつもこうなんだ。本当の気持ちが言えなくて、冷たい態度ばかりとって、すべて察してくれる樹乃に甘えて――いつもいつもいつも……!



 どうして――“綺麗だ”っていうたった一言さえ、言えなかったんだよ。



 ○○○○○○○○○○



 あれからちょうど1年。

 左手の中の樹乃は純白のドレスに紫陽花のブーケを抱き、幸福そうに微笑んでいた。事故の後、衣装選びの時の写真を樹乃の母さんが送ってくれたものだ。

 写真フォルダを辿っていた指を止め、俺は携帯電話をテーブルに置いた。

「なあ、樹乃」

『なに?』


 ――“知ってるか?紫陽花の花言葉って‘移り気’とか‘浮気’とかが有名だけど、いい意味もあるんだ”


「もしあのまま俺と結婚してたら……後悔したと思うか?」

 紫陽花の花言葉は“移り気”“浮気”“高慢”“冷淡”。

『したかもしれないし、しないかもしれない。それは分からないけど』

 一方で“辛抱強い愛情”“元気な女性”という言葉もある。そして――

『しないように頑張ったと思うよ――みんなで』


 ――“紫陽花って小さな花がたくさん集まってるだろ?だから‘家族団欒’って花言葉が付いたんだってさ”


 あんな風にみんなひとつになって頑張れる家族になれたらいいよなと俺は言って、樹乃はそれに微笑んで頷いた。口下手な俺の、精一杯のプロポーズだった。

『少なくとも、葵と結婚したこと自体を後悔することは絶対ない』

「……そうか」

 振り返ればそこには――あの日の、純白のドレスを纏った彼女が立っていて。


『――ねえ、似合う?』


 人生で一番、輝いていた瞬間の彼女が立っていて。そんなの――


「……ああ。すごく似合ってる」



 ――世界で一番綺麗に、決まってるじゃないか。



『……ありがと』


 そう呟くと、樹乃は満足そうに微笑んで――消えた。



「――めでたし、めでたし」



 これで昔話は――俺と樹乃の物語はおしまいだ。もう俺の隣に樹乃はいないけれど、それでもなんとか頑張って生きていくから。

 けれど今だけは――6月が終わるまでは、少しだけ泣くのを許してくれ。






 6月の女神よ――どうか、彼女に穏やかで幸福な眠りを。






 END






最後まで拙作にお付き合いいただきありがとうございます。


今回『過去』をテーマに恋愛モノを書くにあたり、最初に思いついたのはタイムスリップ系でした。でも絶対誰かと被るだろうなぁとしばし思案し、最終的に選択肢を2つに絞りました。


1、過去を語る

2、過去と語る


思いついたのは2の方でした。

過去→過去の女→元カノ という風にとらえたわけですね。


もう少し“過去”要素を増やしたかったので、そこからさらに妄想を膨らませます。

過去→過去の人→故人 こんな風にとらえてみました。幽霊になった元カノと会話、これならいけそうな気がします。



さて、その日の晩いつものようにPIXIVを巡回していたところ、ある素敵なイラスト(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43923658)に出逢いました。


そうか、そういえば6月といえばジューンブライドがあったな。元カノと結婚寸前までいったっていう設定にしてみようかな。



これらの安易な発想から物語を書き始めました。

ですがというかだからというか、今回びっくりするほど筆がのらなかったおかげでとても残念なクオリティに仕上がっております。ごめんなさい。



葵も樹乃も、素直に気持ちを伝えることが本当に苦手です。

照れ隠しが過ぎて突き放すような態度をとってしまう葵と、はぐらかしてばかりで大事なことを言わない樹乃と。一見正反対なようでいて根っこのところは似ています。

お互い本音をあまり表に出さないタイプだからこそ、相手の隠された想いがなんとなく予想できるわけで。そういう意味では二人はすごく相性が良かったのではないかなと思いますね。




しかしまあ……改めて読み返してみると本当に雑ですね。いくらなんでもちょっとひどすぎやしないかこれは。

後日修正を加えて再投稿するかもしれません……すみません本当に。

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして! えっと、感想言うのがヘタなので、率直に言います。 泣きました。そりゃあもう、ぼろっぼろに。 一つ一つの思い出におもいをはせて。 すっと胸に入ってきて、色々思い出しちゃいました…
[一言] まるで、しとやかな音楽を聞いている印象の物語でした。物語の流れがメロディになっているような繊細な切なさが言葉として紡(つむ)がれていました。不本意な別れ方をした悲しい雰囲気がよく表現されてい…
[一言] 初めまして。凜と申します。 お名前は時々目にしておりましたが、作品は初めて拝読いたしました。 素晴らしいと思います。 時間軸の使い方から衝撃のラスト。映画にできるのではないかと思いました。 …
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