答えてよ、笑ってくれよ
賢人が言っていた噂は本当のようで、アイツは盗み聞きで知ったらしい。
教えてもらった二日後、加護が俺に言ってきた。
転校は今から三日後らしい。
親の転勤が理由らしく、とにかく急に決まった事のようだ。
加護は、いつもと変わりはしなかった。
伝えようと思えば、もっと早く伝えられたのだろう。
だけど、ここまで伝えなかった。その理由はなんとなくだけど、今、教室を見れば分かる気がする。
いつもと、雰囲気が違った。
何処か不自然で、明るい者もいつもと違って薄っぺらい、演じている様な感じで。どう見たって暗い人間だっている。
皆、俺みたいだ、と思った。
加護と話す時、いつもの自分を演じる俺みたいだと。
二日後。
俺がしてきた事は、全て意味を失った。
フラれてからの方が好意を持たれやすい? バカか? 転校するんじゃ意味無いだろう。
ああ、俺はバカだ。
悲しいか? そう問われればそれは違う、そう答えるだろう。
悲しくてはダメだ。
加護が転校して、そして新しい道へ進む。俺のした事は意味が無くなった。
それだけだ。後悔はしても、悲しくは無い。
俺は教室の変な空気にとけまぬようにと黙っていた。
そんな俺に、奏は話しかける。
「加護さん。転校しちゃうんだってね」
「ああ」
大して大きくも無い声で返事をすると、奏はまた言う。
「でも、春は良い事したんじゃない?」
「え?」
良い事? そんな事を俺はしていない。実際、今、一つも思い浮かばない。
戸惑う俺に、奏は小さい声で続ける。
「健也は加護さんが転校する前に告白出来たんだし」
小さい声で言ったのは、周りに聞かれないように、という配慮だろうか?
そんな事を考えるほどに、奏の言葉が俺の心を動かす事は無かった。
「俺は何もしてないよ」
奏は俺を見ていない。そんな気がするんだ。
俺と会話しているように見えて、他の何かと話しをしているような、そんな気がする。
「そうかな? 協力はしてたじゃない」
「全然、してねぇよ」
俺の言葉に、奏は少し俯き、言う。
「……そっか。ねぇ、春」
「なんだ?」
「ちょっと、廊下に出ようか」
「ああ」
まるで、これから説教されるみたいだな。そんな事を想いながら、廊下に出た。
すると、奏は言う。
「春は、加護さんの事、好きなの?」
俺が……好き?
そんな事、考えもしなかった。
好きとかは全部否定してきたから、その思考すら無かった。
もしかしたら、考えないようにしてきたのかもしれない。
ただ、そんな事を急に考えても、すぐに答えは出ず。
「わかんない」
そんな情けない答えを言っていた。
そんな俺に、奏は「そっか」と言った。
俺は、誰が好きなのか?
鳴海か? 加護か?
候補はその二人だけでは無いだろう。
では、誰も好きではないのか?
好きかどうかの判断の方法はいくらでもある。話すと楽しい、ドキドキする、とか。
でも、そういう事なのだろうか?
もし、そういう事なら、鳴海が好きという事になる。鳴海と話すと楽しいし、胸が高鳴るから。
じゃあ、今の現状を悲しくないと思い込んで、決めつけて、それ以外を否定して。それでも訴えてくるこの気持ちは、何だ?
奏は言う。
「伝えたい事はちゃんと伝えとかないと、後悔するよね」
「ああ」
「ちゃんと話した?」
その問いが、俺の心を揺さぶる。
「ちゃんと話した?」という奏の言葉は、加護が転校する前に、話すべき事を話したか? という事だろう。
「伝えたい事はちゃんと伝えとかないと、後悔するよね」という言葉は、俺が後悔しないように気を遣っての言葉だろう。
ただ、話してはダメだ。今から遠くへ行く奴に、そんな事を言ったら傷つけてしまう。
「好きだ」なんて言って、わざわざ俺をもう一度ふるなんて事をさせては、傷つけてしまう。
きっと、そういうすれ違いは、起こさずに済む方が良い。
奏は健也は加護が転校する前に告白出来たのだから、良い事をした、そう俺に言った。
確かに、そうかもしれない。
健也にとって、告白せずに心残りを作るのと、告白してふられるのではどちらが良いのかは分からないが、後者なら、俺は良い事をしたのかもしれない。
でも、俺は違う。
告白せずに心残りを作る方が、傷つくよりマシだ。そして、告白をして、加護を傷つくなんて事は、最悪だ。
まぁ、傷つかないかもしれないが。
「話して無いよ」
「そっか」
「じゃあ、せめて、後悔はしないようにしてね!」
「ああ」
ああ。後悔は、しないさ。
俺は奏の言うとおり、今までの礼を、加護へ言う事にした。
加護を廊下で見かけると、話しかける。
「加護。今までサンキューな」
「うん」
唐突に、加護は聞く。
「春って、好きな人はいるの?」
胸がドキッとしたが、冷静に答える。
「さーな」
「ねぇ。もし鳴海があんたに告ったら、どうする?」
「……わかんない」
正直、本当に分からない。
自分でも情けないと思うが、加護は好きで、でも鳴海だって好きなのだ。
「なにそれ?」
「いきなり言われたって」
「まぁ、そうかもね」
そんなおかしな、いつもとは違う雰囲気での会話を切り上げて、俺は教室へ戻った。
今日はもう、授業は終わった。後は帰るだけだ。
放課後になると、俺は鞄を持って教室を出る。
すると、鳴海が俺に言う。
「春、ちょっと良い?」
そう言う鳴海の顔は赤くて、今日加護に言われた鳴海が告白してきたら、どうする、という問いを思い出して、一つの仮定をしていまう。それを振り払うように「ああ」と言った。
夕暮れの差す廊下で、鳴海は止まる。自然、俺も止まる。
そして鳴海は振り返り、勢いよく言う。
「春。好きっ!」
「俺は……」
断ったら、加護は悲しむかな? 鳴海は悲しむかな? それは嫌だな。後悔するな。
『せめて、後悔しないようにしてね!』
ああ。結局、俺には人の言葉を使って、責任を押しつけて、人を理由に自分の気持ちを決める事しか出来ないんだろう。
なにより、ただ、告白されて嬉しかった。
「俺も、鳴海を好きだ」
そんな言葉は真実で、本心で、本音で、本物だ。
時は巡る。
分かりきっている事だけど、今という時間は二度と来ない。
後悔はしても意味が無い。失敗を未来へ生かすのなら、後悔をするべきじゃない。ただ事実、原因を考え、次の時には修正するべきなんだ。
きっと俺に、恋というものは分からない。
きっと誰も完璧に分かっている訳では無いんだろう。なんとなく、分かっているんだろうけど、明確には分からない。
ただ、それでも言える事がある。信じれる人がいる。強い想いがある。
――俺は鳴海が好きだ。
恋なんて、分かんなくて良い。
鳴海の事を、全部理解しなくたって良い。たとえ、分からない事があっても俺は、信じれるだろうから。
ただ例えば、そんな事はありはしないだろうが、加護が俺の事を好きだったとしたら? そうしたら俺は加護を傷つけてしまった事にならないだろうか?
そんな予測に、寒気がした。
投稿遅くなってすみません。
当初の予定と物語が変更させてしまいまして、それで遅れました。
当初はここで終わっても良い感じさせようとしたのですが、これでは終われませんね。