笑う、嗤う
俺は月曜日、また飽きもせずに学校に来ていた。
まぁ、いつもと変わらないかな。
俺はそう思うと、席に着く。
このまま時が進んでいけば、いずれ分かり切った結末へと辿り着くだろう。
それで、良い。
俺と鳴海との会話が増え、健也と加護の会話が増え、それ以外はあまり変わらずに、時間は止まる事なく、進んで行った。
そして、その分かり切った結末が形となった事を俺が知ったのは、7月24日の事である。
この世界が止まらない事は周知の事実。
いつだって地球は回っているけれど、それは知覚しづらい。いつだって時は進んでいるけれど、それは意識しづらい。いずれ、好きなモノは無くなってしまうから、だから好きにならなければ良い。いつだって自分を信じれないから、他人なんて信じる気にすらならない。
そんな思考を、俺ははね返せない。
好きと、言っては傷ついて。それは多分、弱さだ。
俺が前に加護に好きと言った後、諦めなければ、そしてそれによって最終的に付き合えたなら、傷ついた事も良き思い出になっただろうか? しかし、デメリットを考えて、そうは出来なかった。
ただ、健也は違うようだ。違って良かった。
7月24日。
友人である賢人は俺に「噂、知ってるか?」と言ってきた。
知りはしなかったので、「知らね」と返すと、その内容を冷淡な笑みと共に言った。
「健也が加護に告ってフラれたらしい」
それが、分かり切っていた結末。
好きなだけじゃ、多分ダメだ。加護は明確に「好きな人」が居る訳で、それに対抗するには加護にとって「私を好きな人」になる必要がある。いや、ならなくても良いが、なった方が有利に進める。
だから、俺は関係の進展を急かした。じっくりと関係を詰めていくより、一度、フラれた後に関係を詰めていく方が、リスクも高いがリターンを高いからだ。ストーカーとかのレッテルを張られるようなヘマをしなければ、より関係は進展していくだろう。
俺は健也に「加護を諦めるなよ」と言ったら、何故知ってるか、と散々聞かれた後に「おう」という返事を貰った。
多分、大丈夫だろう。
なのになんでだ? 鏡の中の俺は、なんで笑ってる?
――嘘を言うなよ。
鏡の中の俺は言う。
あぁ、またこれか。
俺がイメージしているのか、多重人格者なのか、俺の頭に直接語りかけるように、言葉が聞こえる時がある。
――お前は、健也にフラれて欲しかったんだろう? 同じ奴が欲しかったんだろう?
……否定はしない。でも肯定もするつもりは無い。
――それは逃げだ。逃げるって事はお前は心の中じゃ肯定してるんだ。
……。
――なにより、俺が言ってるんだ。お前が思っても無い事を俺が言う訳ないだろう。
そりゃそうだな。
――そして、お前は健也が加護を諦めずとも、最後まで幸せになって欲しくはないのだろう? 諦めず、好きと伝え続けた末に、恵まれて欲しくは無いのだろう?
……かもな。
俺は笑っていた。鏡の中だけじゃない。俺自身が、賢人と同じような、冷淡な笑みを浮かべていた。
俺はトイレから出ると、そこで人とぶつかりそうになる。
「あ、春!」
「お、おう」
ぶつかりそうになった相手は鳴海だった。
その時の俺は何故か嬉しくって、さっきとは違う笑みを浮かべていた。
――やっぱダメか。
そんな声が聞こえた。
話すだけで笑顔になれるという事がどういう事なのか?
ただ、単純で、とても重要な俺の性質があって、それを忘れてはいけない。
俺は、悪巧みをする時に、笑う。
休日になると、俺はフラフラと出歩いていた。
特に理由は無いけれど、暇なので出歩いていた。
暇ならば勉強しろよ。
そう思うかもしれないが、勉強はしたくないのだ。めんどい。
そんな事で、出歩いていると、声をかけられる。
「ねぇ?」
振り向くと、ニヤニヤと笑う賢人がいた。
「なんだ?」
正直、会話するのはめんどいなぁと思いながら歩くと、賢人は隣をついて来る。
ハァ、と声に出さず心でため息を吐くと、賢人はそれに気付かず、言う。
「ねぇ。恋バナしよーよ」
「お前は女子かよ」
俺が呆れ気味に言うが、賢人がめげる事は無い。
「まーまー。そう言わずにさぁ。男子だって、恋バナは必要だぜ」
「あっそ。で? 俺はお前の恋の悩みを聞けば良いって訳か?」
正直、コイツとは話すらする気にはならない。本心を隠していて、イラッとくる。勿論、本心を隠すのは悪い事じゃない。けど、執拗に隠すし、俺の本心は見透かそうとしてくる。そういう所が、大嫌いだ。
「気になんの? でもまぁ、そうじゃないね」
「早く本題を言えよ」
恋バナとか曖昧な言葉を使って、結局、何がしたいのか? 本題が無いというのなら、会話はやめてもらいたい。
そういう先延ばしにするのは、人をいらつかせると、多分こいつは知っているんだろう。知っていて、わざとそうしているのだろう。
「あぁ。ゴメンゴメン。本題を言うとね?」
やはりあったか。
「春は塩田さんを好きなのかなって思って」
「で?」
答える義理は無い。大体、こんな奴に本音は言わない。
「だから、好きなら告白は待てば良いと思うよ?」
「なんで?」
好き、という事で話を進めるらしい。早く終われ。
すると、賢人は冷淡な笑みを添えて言う。
「塩田さんはさ。春の事、好きだから」
俺はその発言に落ちついて返す。
「は? そう言ってたのか?」
なんでコイツが分かる?
「ううん。でも、見た感じそうだよ?」
「ふーん」
「じゃあね」
「ああ」
なんだ? あいつ。
ああ。気分が悪くなっちまった。もう良いや。帰ろう。
『塩田さんはさ。春の事、好きだから』
ああ。イライラする。
んな訳ねえだろ。
大体、そうだったとしたら、大切な気持ちだろうが。
そんなの、悟っちゃいけねえもんなんじゃねえのかよ。
「ハァ」
声に出してため息をを吐くと、後ろから声をかけられる。
「あ、言い忘れてたよ」
「あぁ?」
苛立ちを顔に出して振り向く。
その時、賢人はまたあの笑みを浮かべていた。
「加護さん。転校するってさ」
「……は?」