表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

カラオケ、すれ違い

第二話

 少し早く着いてしまったか。

 俺はケータイを見て、今が四時四十分だと確認すると、そう思った。

 俺はカラオケ店の前にいた。約束の時間は五時で、そこから一時間のみ遊ぶ予定だ。

 因みに俺が二十分も早くに来ているのは、楽しみだから、ではない。ただ、歩くペースを間違えただけだ。

 と、そういうことで待っていると、そこから五分後に塩田さんが来た。

 塩田さんは俺を見ると、ハッとした顔になり、駆け足で近づいてきた。

「そんな急がなくても」

 俺が言うと、

「う、うん。真実加は?」

 と、塩田さんは恥ずかしいのか、慌てて話題を変えた。

 今更まだ駆け足で近づいて来た事をからかう気にもならなかったので、俺は普通に返事をする。

「そろそろじゃないか?」

「う、うん。そうだね」

 その塩田さんの返事で沈黙が訪れた。

 まぁ、もう話すべき事は無いし、いいけどな。

 俺は今のこの沈黙は嫌いじゃなかった。このまま続いたって構わない。

 俺の横にいたのが健也だったなら、俺は無理に話そうとして自爆していたかもしれない。俺の横にいたのが加護だったなら、演じる事に夢中になりすぎて、焦ってしまうかもしれない。

 ただ、塩田さんといると、焦りも何も無かった。なんというか、居心地が良い。

 しかし塩田さんはそうではないらしく、俯きながら手をもじもじとさせていた。

 まぁ、そのまま放っておいても良かったのだが、少し興味も湧いてきたので、質問をする事にした。

「なぁ、なんで俺は誘われたんだ?」

 その質問に塩田さんは驚いて体を震わせると、

「それは……」

 と言いよどんだ。

 俺は別にどうしても解答が欲しい、という訳でもないので、問い詰める事はしない事にした。

「まぁ、言いたくないなら良いよ」

「うん」

 そしてまた訪れた沈黙は、何故か前とは違い、居心地が良くは無かった。

 そこでタイミング良く、加護が現れる。

「あ、来たね」

「ああ」

 と塩田さんとそんな会話をした所で、加護は俺らの近くまで来た。

「こんばんわ~」

「こんばんわ」

「ああ」

 と、加護の挨拶に塩田さんと俺が返すと、加護が言う。

「じゃあ、入りましょう?」

「うん」

「いや、待て」

 俺が言うと、加護は首をかしげる。

「ん?」

「もう一人、誘ったんだ」

「……え?」

 塩田さんはただ驚いていたが、加護は見るからに怒っていた。いや、なんでだよ。

「ほら、男子一人は辛いからな」

 何故か俺が必死に補足説明すると、

「あ、そう」

 と加護が返事をする。

 ちょうどその時、誘ってたもう一人の姿が見えた。

「お、来たぞ」

「よっ、春」

「よぉ、健也」

 そして、四人はカラオケ店に入る事にした。


 五時三五分。

 俺らは普通にカラオケをしていたが、加護はずっと怒っているようだし、塩田さんはそれを申し訳なさそうにしているし、健也は気まずそうにしているし、とあまり良い雰囲気では無かった。

 なんで怒っているのか、それが俺にはよく分かっていなかった。それに、俺を一人で呼んだ理由も。

 塩田さんに聞いても言い淀んだし、そんなに言いにくい事なのだろうか?

 考えられる事としては、俺一人が良いのであれば、加護が俺の事を好き、というのは考えられるが、それは確実に違うだろう。俺はフラれたし、好きならば塩田さんは連れて来ないだろうし、誘う時にあんな過去を持ちだす事も無いだろうし。

 という事は、塩田さんが俺を好きという事だろうか? いやしかし、それも考え辛い。そこまで会話した事も無いのだから。

 つまり俺はよく分からない理由で、加護を怒らせ、健也から「なんで加護さんは怒ってるの?」という眼で見られ、塩田さんは何故か自分が悪いと思っているのか俯いているので、それも罪悪感になり、とよく分からない状況になっていた。

 俺は席を立つと、

「ジュース入れてくるわ」

 と言って席を立った。健也の「おう」という返事と塩田さんの「うん」という返事を背で聞きつつドアを開ける。

 次は健也が歌うから、部屋から出て俺に「何故加護が怒っているのか」を聞く事はないだろう。

 すると、後ろから「うちも」という声が聞こえた。

 だが、振り返る事はしなかった。誰かは分かっているし、今振り返って健也に睨まれたら嫌だし。

 俺は部屋から出ると、振り返った。

 俺の後ろには加護がいた。

「お前、怒ってるのか」

「別に」

 加護はそう短く返事をすると、俺の横を通る。

「加護」

 俺が言うと、加護は背を向けたまま止まる。

「俺の所為か?」

 聞くが、加護は返事をせずに行ってしまう。

 なんで怒ってるのか、全く分からない。

 とりあえず俺もジュースを入れる為について行く。

 そうこうして、二十五分が経ち、カラオケは終わった。


 俺は家に帰ると、ケータイを見る。

 そこには健也からの「なんで今日、加護さんは怒っていたんだ?」というメッセージが表示されたので、「知らん」と返しておいた。

 すると、「俺の所為か?」という返答が来たので、「俺は本当に知らない。お前の所為かもしれないし、俺の所為かもしれない」と返しておいた。

 しかし、塩田さんには悪い事をしてしまったなぁ。

 せめて、謝るか。


 カラオケから一日が経ち。

 俺は学校に着くと、クラスには半分くらいの人がいて、塩田さんと加護と健也もいた。

 正直、健也と加護にはいて欲しくなかったが、しょうがない。

 俺は俺の席より後ろの塩田さんの席に向かった。

 塩田さんの席の周りには何人かの女子がいたが、まぁ、気にしてはいられない。

 という事で俺は塩田さんに「ちょっと良い?」というと、「うん」という返事が返ってきたので、廊下へ向かう。塩田さんの周りの女子は俺を凝視していたが、気にしない事にした。

 俺が廊下へ行くと、少し遅れて塩田さんも来る。

「昨日はゴメン。加護が怒ったのは多分、俺の所為だ。悪かった」

 いや、俺の所為かは分からないが、塩田さんの所為では無いと思うので、その認識だけは避けて欲しかった。

「ううん、私の所為だよ」

 塩田さんは言いきる。

「怒った理由、知ってるのか?」

「う、ううん。知らないよ」

「そっか。用はこれだけなんだ。じゃあね」

「うん、またね」

 加護さんは席に着くと、周りの女子に質問責めに遭っていた。

 可哀想に。

 因みに俺が席に着くと、周りは変な雰囲気になっていた。


 今日は、健也と加護とは会話をしなかった。


今回は短いですが、ご勘弁を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ