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愛、過去

第一話

 不思議と悲しみは無かった。

 しかし、後悔はあった。あの時にもっとああしておけば良かったなぁ、とか、俺の所為で悲しい気持ちにいっぱいさせてしまったなぁ、とか。

 ただ、それでも、俺に悲しみは無かった。

 ――相沢。

 呼ばれた気がして振り向くと

「ちゃんと、全部話した?」

 なんて、心配性な友人が俺に言った。

 こいつはいつも通りか。

 そう思うと同時に友人の言葉にこう思った。

 ふざけないでくれよ。全部言ってはダメなんだ。俺が伝えたい、伝えたくてどうしようもないそんな想いがどうしようもなく、あいつを傷つけてしまう。だから、俺は。

「話して無いよ」

 俺は笑いながら真実を言う。

 すると、友人は一度眼を閉じて、そして言う。

「そっか」

 一呼吸間を置くと、続ける。

「じゃあ、せめて――」

 俺は続きを待った。

 ああ、こんな八方塞がりな状態になったのも。全ては俺の罪、因果応報なのだ。




 二ヶ月前。

 高校二年生の六月頃の時だ。

 俺はいつも通り十分前に席に着き、本を開く。

 だが、考える事はこの本の事では無い。

 俺の所属するこの――2年3組の事である。

 それも、昨日の事。


 四条健也は突然俺に

「一緒に帰らないか?」

 と切り出した。

 正直、俺は困惑した。

 健也と俺の係わりは正直、そんなに無い。一年の時にクラスは違ったし、二年になってもまだ、指で数えられる程度の回数しか会話をしていないからだ。

 だが、だからこそ俺は断らなかった、いや、断れなかった。

 そんな事で一緒に帰る事になった訳だが、健也と俺は駅までしか一緒では無い。だから、その道の途中で話をする必要があるのだ。ただ、健也は自転車を押しながら、関係の無い話をするばかりだった。

 俺が周りから人が一向にいなくならない事に――まぁ、学校の帰り道だし、そもそもいなくなるような時間帯でも無いので、当たり前なのだが――気付くと、周りに人――というか学生――がいる状況では話しづらいのかと思った。

「なぁ、話があったんじゃ無かったのか?」

 俺が言うと、健也は一瞬、驚いたような顔をした後、言う。

「――ああ。少し、いいか?」

 そこで話を始めない事で、俺はここで話せる内容では無いのだと確信すると、言う。

「場所を変えるか?」

「ああ」

 という事で俺と健也は住宅路に進んだ。二十メートルも進めば、通学路とは違う方向で人通りも少ない所だからか、周囲に人はいなくなる。

 そこで健也は止まると、唐突に言う。

「俺、好きな人がいるんだ」

 まぁ、だろうな、と思った。学生、周りに人がいると話しづらい話、とくれば大体恋の話だろうなと予測していた俺は、予測通り過ぎて驚きはしなかった。

 しかし、興味無いな。

 このまま話をやめてもらっても一向に構わないほどに興味が無い。なんで俺に話すんだよ。もっと他に友達いんだろ。

 と心の中で愚痴るが、しかし健也は話を止める事はせず、続けた。

「加護さん、なんだけど」

 そう言った時の健也は強気な眼をしていた。

 「加護」と言って、弱気では無く、その強気な眼はそう言う事か。と、俺は納得した。

 加護は俺とよく話す。とは言っても、付き合ってる訳でも無ければ、友達でも無い(多分)。だから多分こいつは、加護さんが好き、だからお前はどうなの? とか、そういう事なのだ。

 それに対しては返事は一言で十分だった。

「手伝ってやるよ」


 愚かだ。

 端的に昨日の事を振り返り、俺は一言でそうまとめた。俺が愚かなのではない、愚かなのは健也だ。

 正直、健也には悪いがそれ以外の言いようが無い。

 バカなのか?

 愛などと恋などと口に出して。

 冷静に考えたか? 考えてそれか? ならばもう笑うしかないな。

 自然と口がほころぶ。

 愛などというものに一体どれほどの価値があるというのか。

 そもそも、愛を分かっているのか?

 それすらも分からずに愛は素晴らしいなどと言うのならば——

しゅん?」

 声と共に目の前に手が現れ、それが左右に揺れる。

「ん?」

 思考を中断して俺を呼んだ方を見ると、そこには加護かごがいた。まぁ、声で分かってはいたが。

 ただいつも通り、加護に話しかけられる度に、心が小さな悲鳴をあげる。ただ、それでも俺はそれを顔に出してはならない。演じなければならないのだ、いつも通りを。

「いやぁ、ボーっとしてたからさぁ」

 なんて失礼な奴だ。相変わらず。

 こっちは考え事をしていたというのに、ボーっとしていただと?

 こいつには、こういう所がある。考え無しに話しかけて、何も考えずに言う。多分、俺は良いオモチャなんだろう。だが、こっちとしては迷惑だ。からかわれる事も迷惑だし、そもそも加護はモテる。だから、変に恨みを買いたくも無い。

 と、そんな事で、反撃しようか。

 俺は加護に言う。

「で? 何の用だ?」

 フッ、用などあるまい? 無い事を知って聞いているのだから。ほら、変な雰囲気になれ。

 そんな俺の言葉に加護が返す。

「何その笑い。きもっ」

 瞬間、俺に精神的ダメージが与えられる。

 そうか。俺は悪巧みすると変な笑いが出るんだった。

 自分の特性をすっかり忘れてしまうとは、俺とした事が。

 おかげで、反撃が無効になって更に反撃をくらってしまった。

「もういい。お前と話しても勝ち目無いし」

「何ムキになってるの? って勝ち目?」

 言いながら、加護はキョトンという顔をしていた。

 まさか、本当に分かっていないのか?

 つまり、俺への精神的ダメージは意識せずに与えたものだと言うのか?

 クッ。どこまでも恐ろしい奴だ。ってか、やっぱこいつバカだ。

「あお、そうそう、用事ね」

「あるの!?」

 俺は驚いて聞き返してしまう。

 ――しまった。

 だが気付くには遅く、加護が反応する。

「え、ええ。てかなに? さっきから」

 俺は落ち着く。

 加護にあいつと同じテンションで返してしまうと、会話が弾んでしまう。すると自然、会話が長くなる+恨みを買う(特に健也に)という事が起きてしまうからだ。

 とにかく、すぐに会話を終わらせよう。

 落ち着くと俺は加護に訊く。

「すまん、取り乱した。で? 何?」

「えーとね。カラオケ行かない?」

「行かない」

「即答!? メンバーも聞かないの?」

 加護は驚いているが、正直この会話はもうやめたかった。その為の即答だと言うのに。

 幸い、健也と俺の席は遠いから会話は聞こえないだろうが、周りに聞かれ、噂になんてなったら最悪だ。後ろから視線を感じて振り向くと、健也がこちらを見ていた。だが、俺はそれより塩田さんがこちらを見ていた事の方が印象に残った。なぜなら、何かを訴えるかのようにこちらを見続ける健也とは対称的に俺が振り向くと「俺って、嫌われてんの?」と思うくらいすぐに目を逸らしたからだ。

 とりあえず加護の方に向き直ると、加護は何故か塩田さんの方を向いていたが、すぐに俺の方へ向く。

 とりあえず、早く会話をやめなきゃな。

「聞いたって結果は変わんないからな」

 適当に返すと、加護は何故か会話を続ける。

「まあまあ。そう言わないでよ。メンバーは今の所、うちと鳴海なるみとあんたなんだけど」

 こいつ、俺の話聞いてたのか?

 ただ、それと同時に塩田さんがこちらを見ていた理由も納得した。

 メンバーが俺、塩田さん、加護ならそりゃあ、こっちを見る……ん?

「っておい。なんで俺がメンバーに加えられてんだよ」

「え? いいじゃん。なんでダメなの?」

 「なんで」と聞かれると、最初に健也が思い浮かぶが、しかしそれを言う訳にもいかず、適当に返す。

「歌、上手くねぇんだよ。大体、メンバーに男が俺しかいねぇじゃねぇか」

「へ~、そうなんだ~。そういえばアンタ、中学の頃にうちに言ったよね?」

 加護が言うと同時、俺はある光景が目に浮かんだ。


 夕暮れ、人のいない加護の住んでるマンションの駐輪場、俺と加護。

 全体的にオレンジ色の風景の中、俺は空気にとけこんでしまわぬようにと振り絞るようにそれを口にしようとする。

 一つの可能性、加護が俺の事を好きなのではないか?

 そんな可能性が俺の体を熱くさせていき、もう耐えられない、という所で口に出す。

「好きです。もし良かったら付き合って下さい」

 高揚した俺の体。驚いた加護の眼。

 俺は何かに気付いた気がして、慌てて頭をからっぽにする。

 まだ、待つんだ。

 そう自分に言って、加護の返事を待つ。

「それはマジのやつ?」

「マジ」

 真剣に俺は返すと、加護は小さく「そっか」と言った。

 ――もう分かったでしょ?

 なんて思ったって、そんな事無いと、再度頭をからっぽにした。

「嬉しいよ、ありがとう」

 加護のその言葉に俺の体はまだ熱くなる。

 その時風が吹き、紅葉したもみじが切なげに揺れた。

「――でも、ゴメンね。うちには好きな人がいるから」

 その言葉に「――なんで」と思ったけれど、しかし理由は今言われた通り。

 体が急速冷めていく、秋の体が俺の体を冷やす。

 そこからの記憶はあまり無い。

 ただ、無理に笑った事と、ぎこちない空気を頑張っていつも通りに、と取り繕った事、そして、友人としての関係を無理に保とうとした事だけは未だに、覚えていた。


「待て。それは言うな」

 鮮明に思い出した光景を見て、最後を言う前に俺が言った。

「じゃ、来てくれる?」

「わかった」

 ため息をつきたい気持ちを抑えて言うと、手を振りながら加護は言う。

「オーケー。じゃ、後でね~」

「ああ」

 予想通り、手を振ったその行為は「バイバイ」という事らしく席へ戻る為に前へと進む、その最中に加護が「ゴメンね」と言った気がした。

 俺は手元にある本を手に取ったが、やはりそれを読む事はせずに考え事をした。

 あいつ、何があったんだ? 加護はそもそもあの告白を口に出した事は無く、「演じて」いた俺としても、それを崩すには最高の一言で、正直最初の精神的ダメージなどものともしないくらいのダメージだった。

 そして、最後の――。いや、あれは聞き間違いか。

 加護は塩田さんと話していた。

 すると、やはり健也は俺に近付いてくる。

 正直、今、人と話すのはキツイが仕方ない。

「何の話をしてたんだ?」

 出た。協力要請だ。

 とにかく俺がするべき事は一つ。

「今日お前、空いてるか?」


主人公は相沢 春。春が中学生の時に告白したのが加護 真実加。春に加護が好きだと言ったのは四条 健也。カラオケメンバーに春、加護とは別に加わっているのが、塩田 鳴海、です。

わかりにくくてすみません。

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