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侍HOLE!!  作者: 詩音
5/34

ご。

「たぶん、仕事に行ったんやろう」

 いつもあたしより先に起きてるはずの先生がいなくて、様子を見に行ったら布団はきちんと畳まれてて先生はどこにもいない。

 慌てて静さんにそれを言えば簡単に答えが返ってきた。

「仕事って……雄吉さんの?」

「他にいないだろう?」

「いつの間に……」

 何も気付かなかった。昨日はいつもと同じ先生だったのに。

「昨日の夜だろうねぇ」

「もう何でそんなに冷静なんですかぁ!」

 呑気にお茶をすすってる静さんに脱力。

「いつものことだからね」

「そんな……何も言わずに行っちゃうなんて」

「アンタが気にする必要は何もない。すぐに戻ってくるさ」

 先生がいなくなると、稽古もしばらく休みになるらしい。静さんがそう教えてくれた。

「事前に手紙をそれぞれの家に置いていくんだ。きっと神社にゃ誰もいないよ」

「いいの、自主練習だから」

 あたしは木刀を片手に、一人で神社に向かった。

 先生を止められなかった。もしも傷だらけで帰ってきたら、なんて悪い考えがよぎってマイナス思考な自分が嫌になる。

「やっぱこういうときは動くに限るよね」

「はぁっ!」

「え?」

 そんな中、聞き覚えのある声が神社の境内から聞こえた。

「幸宗」

「ん? うわっ!」

 あたしに気付いた幸宗は、顔を真っ赤にして木刀を後ろに隠した。

「特訓?」

「ちっ、違うわい!」

 焦る幸宗が何だか凄く可愛い。

 バレたらきっと怒るから小さく笑ってあたしも木刀を取り出した。

「じゃあ折角木刀持ってるんだし、相手してよ。あたしのさ」

「良いよ」

「んじゃ、行くよ?」

「来いっ!」

 お互い足を踏み切って飛び出す。木刀はぶつかり合って音をたてた。

「どうしたの、終わり?」

「まだまだ!」

 あたしと幸宗の稽古は、もう数えきれないくらいやった。だからこそ、お互いの強みも弱点もわかる。

 幸宗は純粋に木刀で戦っている。緩急のある突き方なんて結構凄い。

「でも、負けたくない」

「俺だって」

 あたしは武士のことなんかさっぱりわかんない。だから自己流でいく。

「うわっ!?」

 木刀で戦うちょっとした隙に、あたしは足で幸宗の足を払った。

 引っ掛かった幸宗は地面に倒れてあたしを見上げる。

「六十七勝六十七敗。これでやっとアンタに追い付いた」

 自然と笑顔になるあたし。ちょっと汚いやり方だけど、勝つのはやっぱり嬉しいから。

「くそっ……」

 本気で悔しそうな幸宗はゆっくり立ち上がった。黙って着物をはたく幸宗に声をかける。

「大丈夫?」

「……お前、強くなった」

「ホント?」

「俺は嘘つかねぇよ!」

 そっぽを向いた幸宗だけど、赤く染まる頬が見えて、照れ隠ししたのがわかる。

「ありがとね」

 こんな弟ほしいかもしれない。

「……次は絶対勝つ」

「あたしだって負けないよー?」

 お互いの拳をぶつけて、二人で笑った。

 もう一度やろうかと話がまとまってすぐに予定は破談になる。

「楽しそうですね」

「雄吉さん……」

 良い空気をぶち壊して神社の鳥居の影から雄吉さんは現れた。

「今度は先生をどこにやったんだ!」

 幸宗も雄吉さんを知ってるみたいで、いきなり食ってかかる。

「嫌だなぁ、あっしは何もしてませんぜ? 仕事の依頼を受けたのは先生ご本人だ」

「……どんな仕事なんですか」

 ホントは見たくも話したくもない。でも目の前にいるこの人しか先生の行方を知らないから不可抗力ってやつだ。

「おや寿々さん。怒ると可愛らしい顔が台無しですぜ?」

 あたしの顔に触ろうとする雄吉さんの手を幸宗が木刀で叩き落とした。

「小さな護衛がいるんですねぇ」

「幸宗やめて」

 アンタには余計なことに関わってほしくない。

 あたしに止められて幸宗は一瞬唇を噛む。でもすぐに雄吉さんに吠えた。

「お前何しに来たんだ!」

「寿々さんにお話があって参りやした」

「あたしに?」

「先生のこと、知りたいでしょう?」

 幸宗に聞こえない配慮からか、あたしの耳元で小さく囁く雄吉さん。

「……話を伺います。ここが嫌なら家に行きますか?」

「そうしてくださるとありがてぇです」

「わかりました。幸宗、また今度ね」

「寿々!」

 不安にさせないようにあたしは笑って手を振った。じゃないと幸宗はついてくる気がしたから。

「護衛はよろしいんですか?」

「ちょっと黙ってください」

 今は先生の行方を聞き出す。先生は必ず連れ戻すんだから。




「先生は今どこにいるんですか」

「その前に……喉渇きません?」

「あたしは全く平気です。第一貴方に出すお茶なんてありませんし?」

 笑顔浮かべて言ってやった。あたしだって怒るときは怒る。

「話進めてください」

「っ……、こことは逆方向の町はずれを知っていやすか」

「知りません」

 まだ来て日が浅いんだよあたしは。

「先生はそこで賭博の片付けをしてるんでさぁ」

「賭博の片付け?」

「寿々さん……アンタ一体どこから来たんです?賭博も知らないなんざ、よっぽど物知らずなのか金持ちなのか……」

 賭博も知らない馬鹿だって言いたいのか。何とも言えない微妙な表情で雄吉さんはあたしを見る。

「賭博はわかります。片付けってどういう意味ですか?」

「賭博場ってのは裏でいろんな人間が動いてる。それを全部消し去るのが先生の仕事でございやす」

「それ、殺すってこと?」

 先生が人殺しなんて有り得ないし想像出来ない。っていうか絶対嫌だ。

「あの男はいつも警察に渡すんで殺しはしやせん。契約違反だと何度も言ってるのに……」

 自分勝手な雄吉さんをあたしは睨み付けた。

「す、すんません」

「それで先生は?」

「予想以上に相手の人数が多かったらしくて……今捕えられてます」

 捕えられてる?先生が?

「どこに?」

「町はずれの廃れた屋敷に。殺されるかもしれやせん」

「あたしはどうすればいいの?」

 話があってペラペラ先生のことしゃべったんだから、何かやってほしいんじゃないの?

「あっしにゃわかりません」

「はぁ?」

 駄目だこの人、意味わかんない。

「で、ですが命の恩人なら助けるべきでしょう!」

 何だそれ。口調がバラバラだよ、まぁあたしも人のこと言えないけど。

「……雄吉さん」

「はいっ!」

 あれ、あたし完全に怖がられてる。

「町はずれまで、案内してくれません?」

「え……」

「良いですよね?」

「えっと」

「良いですよね?」

「……はい」

 でもこれはこれで便利かもしれない。

 あたしは小さく笑みを浮かべて木刀を手に取った。








読んでくださってありがとうございます。


さて、今回も人物紹介でもしたいと思います。

まずは幸宗。いやー、はっきり言って彼は悪戯坊主ですね。でも刀の腕は良いです。

次に雄吉さんですが、まぁ悪役に片足突っ込んだ状態にいますかねぇ。彼については特に何も考えてません。


えー、こんなもんですね。次回もお楽しみに!!


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