さんじゅうよん。
「何か用ですか?」
後ろを見てなくても、もう感覚でわかる。
「カミサマ」
「お前の未来を決めに来た」
「……お待ちしてました」
正座をしてカミサマに向き合う。自然と微笑んでしまうのは、心に余裕でも出来たのかもしれない。
「決めた顔だな」
「勿論」
何か今、カミサマも良い人に見えてる。
先生も静さんも幸宗も、健ちゃんも相変わらずだけど、雄吉さんは少しだけ心を入れ換えて商人になるらしい。少しの変化でもあたしは嬉しかった。
「答えは?」
「ここにいたいの」
もう何も迷いはなかった。
「あたしが皆の運命を変えたんだから、このままでいたい。大切な人と一緒に生きたい」
「……素直すぎて恐ぇよ寿々」
「またボコされたいの?」
「ごめんなさい」
土下座された。カミサマに謝らせるなんて、あたしは凄いのかもなんて今更思う。
「寿々さん」
「あ、先生」
「カミサマは、もう帰りましたか?」
「あー、もう来ないらしいです……え?」
隣を見れば相変わらず微笑んでいて。
「私が貴方を連れてくるように頼んだんですよ」
「はは……」
平和になった今、どんでん返しされた気分だ。あたしは乾いた笑いを浮かべて先生をとんでもない人と判断した。
侍は真っ直ぐだ。自分を信じて運命に逆らわない。あたしにそんな真似は出来ないけど、共に生きるなら出来る。
あたしは今日も江戸の町を歩く。空に開く穴を見上げながら。