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侍HOLE!!  作者: 詩音
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さんじゅう。

「桜姫、殿がお話があるそうです」

「わかりました」

 桜ちゃんとのおしゃべりをさえぎったのは、殿様に命令された龍君だった。

「寿々さん……」

 不安げな桜ちゃん。いつもより目がうるんでて不謹慎にも可愛らしく見えた。

「どうしたの?」

「いえ、ちょっと行ってきますね」

「うん、待ってる」

 あたしは小さく微笑んで、桜ちゃんを見送った。




「おい」

「……何でいるの」

 背後には久々に登場のカミサマ。相変わらず普通のおっさんみたいな格好であたしはため息を吐く。

「暇だからに決まってんだろ」

「あ、そう」

 まともな答えを求めたあたしが馬鹿だったわ。

「なぁ、桜と龍をどうしたい?」

「どうにか出来るの?」

「あぁ。お前には借りがいくつかあるんでな」

「借り?」

 この人に何か貸してたっけ? 冷たくあしらった覚えはあるけど。

「お前はもう何人かの命を救ってんだよ」

「……あたしが?」

「そう」

 火のない煙草をくわえてカミサマは言った。

「だからお前の願い叶えてやるよ」

「あたしの願いねぇ」

 考えに耽ろうとした瞬間、慌ただしい足音が近付いてきて刀を持つ。

「寿々さん!」

「さ、桜ちゃん……!」

 勢いよく入ってきた桜ちゃん。カミサマがまだいることに気付いてあたしはカミサマの前に立った。

 でも身長差で顔とかもろに見えちゃってるだろうな……。

「寿々さん? どうしたんですか?」

「や、別に?」

 早くどっかに行きなさいよとカミサマに視線を送る。

「おい寿々、この姫さんに俺は見えねぇぜ?」

 それに気付いても、いたってマイペースなカミサマ。

「何でよ」

 口を動かさず苛立ちながら尋ねるあたし。

「だってカミサマだもん」

「死ね」

 冷酷な言葉を吐けば、カミサマは隅っこで凹んでいた。いい年してだもんとか使うなっての。

 まぁとりあえずここは放置で。

「あの……寿々さん?」

 戸惑いながら桜ちゃんはあたしに話しかけた。

「あ、ごめん何?」

「今すぐ城から出てください」

「え?」

「それはさせぬ!」

 桜ちゃんのあとに続いて殿様達が息を切らしてやってきた。

 一体何が起こってるんだろう。

「私は絶対に反対です!」

「こうするしか道がないのだ!」

 あっという間に両腕を捕まれて、あたしは身動きの出来ない状態になった。

「寿々さんを離してください!」

「桜、わかってくれ」

「わかりたくありません。犠牲は私だけで充分です……!」

 とうとう桜ちゃんは泣き出してしまった。意味がわかんないけど、あたしの友達を泣かさないでほしい。

「龍」

「はい」

「桜を連れていけ。彼女と二人で話をする」

「……わかりました」

 苦しそうにあたしを一度見てから、嫌がる桜ちゃんの腕を無理矢理引いて出ていってしまった。

「手荒な真似をして申し訳ない」

「何があったんですか」

 両腕はまだ不自由だけど、気にしてる暇はなかった。

「明日、近隣の城の者達が攻めてくる」

 物騒な話に自然と眉間に皺が出来る。

「町民が一揆を起こそうと申し出たらしい。ここは落城する」

 殿様は城主なのに冷淡に物事を見てた。妙に引っ掛かるけどあたしはただ話を聞く。

「桜を傷つけるわけにはいかない。そこで、君の出番だ」

「あたし?」

「君に桜の代わりをしてもらう。戦うか逃げるかは自由だ、ただ桜が城から脱出する時間を稼げばいい」

「……敵の数は?」

「百以上だ」

 それ死ぬ確率高いじゃん。

「もしあたしが断ればどうなりますか」

「桜は死ぬだろうな」

 それでも父親なの? 簡単に娘が死ぬとか言わないでよ。

 握り拳を作って、正面を見据えた。

「やる」

 それで桜ちゃんが助かるなら。

「良い返事ありがとう。これから明日の服を貸すからついて来なさい」

「わかりました」

 桜ちゃんの部屋を出る前にあたしは足を止めた。

「ねぇ、願い事決めた」

「……何だ」

 カミサマの声が耳元で聞こえる。

「桜ちゃんと龍君に身分なんかに負けないくらいの勇気を持たせて」

「わかった」

「何か言ったか?」

「いえ、別に?」

 カミサマはあたしにしか見えないし、声も聞こえないわけね。

 殿様の問いにあたしは笑みを浮かべて首を横に振った。




 その後あたしはどの着物を着るかとか、武器はどれを使うかとかで一日を終えようとしてた。

 あれから桜ちゃんとは一度も会ってない。反対してたから怒ったのかもしれないな……。

「寿々さん」

「龍君?」

「話があるんですが……」

「入っていいよ」

 その言葉の少し後、龍君は静かに障子を開けた。

「話って何?」

「申し訳ありません」

 畳に額がくっつくくらい頭を下げていきなり土下座された。

「ちょっと待ってよ、何の話?」

 突然すぎてこっちも慌てる。

「姫の命を優先していることです。貴方は姫の友人なのに……」

「あぁ、いいよ別に」

「何故です?」

 ガバッと頭を上げてあたしを見つめる。食い入るような目付きにあたしは顔をそらした。

「友達だから、生きてほしい」

「……貴方が死ぬかもしれないんですよ?」

「死なないよ。あたしそう簡単に死ねる人間じゃないから」

 この時代に来て何回死にかけたことか。まぁ、自分の身体の頑丈さにはびっくりしたけど。

「龍君はしっかり桜ちゃんを守ってね?」

「……御意」

 複雑そうな顔してるけど、納得してもらえたみたいで良かった。

 一人伸びをする。夕日がゆっくりと沈むのが見えた。

「明日も綺麗に咲いてやろうじゃないの」








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