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侍HOLE!!  作者: 詩音
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にじゅうよん。

「男ばっかだな」

 高台から烏の港を見下ろして幸宗が呟いた。

 確かに数十人のいかつい男がうろうろしてるけど昼間見た人はいない。

「女王蜂はやはり巣の中ですね」

 あたしの横で先生は言った。暗くて顔はよく見えないけど、いつもより雰囲気が固いような気がした。

「昼間話した通りです。人質の命を優先、烏捕獲はその後。良いですね?」

「はい」

 空に浮かぶ三日月が雲に飲み込まれた。辺りを静けさが覆う。

「襲撃、始め!」

 加地さん以外の警察と幸宗は外で暴れてもらう。騒ぎに乗じてあたしと先生と加地さんは建物の中に侵入。それが計画内容だった。

 響くような加地さんの号令にわめき立てる警察の皆さん。血の気の多い集団らしい。

「敵襲!」

 上手く騒ぎ出してくれたお陰で難なく侵入成功。

 建物内に先生、加地さん、あたしの順で進む。健ちゃんを見た場所に近付くと暗闇から何かが振り下ろされた。

「いきなり刀を向けるなんて不作法にも程がある」

 月明りと一緒に須山の顔が出てきた。利き手には鞘のない刀、あたしを狙ったもの。

 もし加地さんが庇ってくれてなかったら、あたしは大怪我してたと思う。

「作法なんざオレには無縁な話さ」

 交えては間を取り、また交えては距離を開ける。加地さんと須山はだんだんあたし達から遠のいていった。

「寿々さん、来ますよ」

 先生の言葉で意識を戻すと足元に手裏剣が散らばってた。

「今回の烏は元くのいちのようですね。しかも中々の腕前です」

「投げただけでわかるアンタも強いね。度胸も顔も充分合格点だ。どうだい? あたいの烏に入らないかい?」

 太股には小型の手裏剣が装備されてる、戦闘準備万端の女烏。

 昼間と違う赤い牡丹の咲いた漆黒の着物姿も艶やかだった。

「そんな小娘より、あたいの方がアンタを満足させてやれるよ」

 小娘呼ばわりしないでほしいんだけど、大声で否定出来るほど自分に自信がないあたし。

「残念ですが私、五十歳以上の女性でないと魅力を感じないのです」

「……それホントですか先生」

 そうすると静さんとかストライクゾーンじゃん! ……もしかしてもう付き合ってたりしちゃうのかな。

「あ、あたしは応援しますよ」

「嘘です。断るにはこれが一番効果的なので」

 さり気なく悪入ってますよ、先生。明らかに告白され慣れてる感じです。

「私は彼女を。寿々さんは予定通りお願いします」

「はい」

 先生の援護をしながら健ちゃんを救出する手筈だったのに、邪魔が入った。

「ちょーっと待ったぁ!」

 身体が後ろに吹き飛ばされて思いっきり壁に激突。

「寿々さん!」

「痛いなぁ……いきなり何すんのよ!」

 背骨が折れるかと思ったじゃん! 怒鳴るあたしを無視して女烏はため息を吐いた。

「来るのが遅いじゃないか、銀」

「悪い悪い。遊郭の女が中々帰してくれなかったんだよ」

 へらへら笑いながら話す銀って男は丸坊主で唇にピアスみたいな硝子がはまってた。いかにもチャラそうな見た目。

「生きてるかぁ?」

「人を勝手に殺さないでくれる?」

 口の中を切ったみたいで鉄の嫌な味が広がった。銀を睨み付ければ鼻で笑われる。

「頑丈さは合格だ。もっと楽しませろよ!」

「……アンタむかつく」

 何回薙刀をぶつけても、むかつくくらい簡単に刀で止められる。

 悔しいけどあたしは腕力がないからあと一押しなんて絶対無理。

「一応稽古はやってきたみたいだな。でも所詮稽古は稽古」

 向こうから飛んでくる刀の勢いに自然と身体が下がっていく。

「殺し合いってのはな、こういうことなんだよ!」

 お腹を蹴られてあたしは仰向けに倒れた。胃液が出そうになって咳き込む。

「おいおい……もう限界か?」

「馬鹿言わないでよ」

 薙刀を杖代わりに立ち上がる。

「ここで負けたら今までやってきたもの全部失う」

 稽古してきたあたしのプライド。何より健ちゃんを助けるためにあたしはここにいるの。失う気はまったくない。

「最終手段に入るか」

「は?」

 これで駄目ならもうあたしに勝ち目ないんだけどさ。

 きょとんとする銀にあたしは唇の両端をつり上げた。

「遊郭の女しか相手してくれないなんて可哀相だなぁと思って」

「何……?」

「案外寂しい人なんだね、アンタ」

「うるせぇ!」

 煽られた銀があたしにまた襲いかかってきた。刀を受け止めて跳ね返す。

「あれ、さっきまでの勢いはどうしたの?」

「黙れって言ってんだろ!」

「単純だな……」

 口先で馬鹿にしたり動揺させて弱くさせるのがあたしの最後の砦。

 でも効果はあったみたい。今なら太刀筋が簡単に読める。

「言ってたよね、所詮稽古は稽古」

 銀の刀を弾いて薙刀を首元へ向ける。

「実戦の方が経験になるのはわかる。だけど稽古で得られるものも大きいんじゃないの」

 少なくともあたしはそう思ってやってきたんだ。

「現に今、アンタあたしに負けてるし」

「ちっ……おい烏!」

 短く舌打ちした銀が声を張り上げた。あたしは距離が近いから鼓膜破れそうになって耳をふさぐ。

「何だよ今手が離せないんだ!」

 余裕が戻ったあたしは銀に意識を向けながら辺りを確認する。

 女烏は先生に押され気味だった。短刀を構える姿に疲れが見える。

「俺はこの事件から降りるぜ」

「は?」

「銀、急に何言ってんだい!」

 あたしの耳は正常だった。とんでもない台詞を吐いたヤツはあたしが隙を作った一瞬で高さのある窓に跳んだ。

「負け戦にいつまでもいるわけにゃいかねぇんだよ」

「逃げる気?」

「馬鹿言うな、本番に持ち越しだ」

 世間一般ではそれを逃げるって言うんだけど。

「お前ら絶対俺が殺すかんな!」

「最低の捨て台詞だわ」

 雇われてたなら中途半端なまま逃げちゃ駄目でしょ。

 まぁ、これで人数減ったから問題ないけどね。

「助っ人に来ました」

 加地さんの方も片付いたらしい。目の周りに青痣が出来てるのが気になるけどあえて無視しょう。

「どいつもこいつも……っ!」

「詰所まで来てもらおうか」

「それ以上寄るんじゃないよ!」

 烏は意識のない健ちゃんに刃を向けた。先生達の顔がこわ張る。

「この子の命を助けたいなら武器を捨てな」

「卑怯だぞ!」

「ふん、何とでも言いな。早くしないと怪我じゃ済まないよ」

 健ちゃんの首筋に当たる短刀に加地さんは額から汗を垂らした。

「先生……」

「仕方がありません。健太にはもう少し痛い思いをしていただきましょうか」

 刀を握り直したところをみると、先生に武器を手放す気はさらさらないらしい。

 烏も加地さんもギョッとする。

「ほ、本気ですか?」

「嘘です」

 にっこりと笑う先生と目が合った。

 突撃の合図。

「後ろ隙だらけですよ、お姉さん」

 薙刀の棒の部分を烏の後頭部に叩き付けた。頭を手で押さえて体勢を崩した烏を加地さんが取り押さえる。

「くそ……っ」

 地面に顔をつけて悪態をつく烏。

 あたしは大役を無事果たしてほっと息を吐き出した。

「お見事でした寿々さん」

「先生、あたしが烏の後ろに回らなかったらどうしたんですか?」

「考えてません」

 ……何とも先生らしい答えだ。呆れながらも妙に納得してしまった。




「一人残らず連れて行け」

 外もほとんど片付いてた。逃げられたのはほんの数人で、顔はわかってるからすぐに捕まるって加地さんは言ってた。

 幸宗も警察の人も、怪我だけで済んだ。

 先生と幸宗は加地さんから色々話を聞かれるらしい。あたしは健ちゃんの付き添い役でそれを免れた。

「出血はあるけど、傷はそこまで深くない。大丈夫だ」

「ありがとうございます」

 警察が連れてきたお医者さんが診てくれた。診療台の上に寝てる健ちゃんが弱々しく見える。

「……悪い」

 かすれた声に息を吐いた。

「侍なんでしょ。簡単に捕まらないでよ」

 普通逆じゃん。か弱い女の子を助けるために男の子が頑張るみたいな。あたしか弱くはないけどね。

「あたしを女扱いしてくれるなら、こんなことさせないで」

「……ごめんな」

 健ちゃんの手があたしの手に触れた。びっくりして逃げようとしたけどぎゅっと握られる。

「健ちゃん……」

「ほら、お嬢さんの方が酷い怪我なんだから早く座って!」

 がっしり肩をつかまれて引きずられてお医者さんは怒鳴る。

「え、いや大丈夫」

「早くしなさい!」

 消毒は怪我したときよりも、かなり痛かった。








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