表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侍HOLE!!  作者: 詩音
20/34

にじゅう。

「何なんだろ、この人……」

 買い出しの帰り道で見つけたおじいさんにあたしは足を止めた。

 うつぶせに転がる姿が倒れてるようしか見えない。呼吸はしてるから死んでないけど気にはなる。

「もしもーし」

 揺すってみても反応なし。

「医者とか呼んだ方が良いかな」

「変わった娘だな」

「は?」

 聞き返す前にあたしは後ろから抱き付かれた。さっきまで寝転んでたはずのおじいさんだ。

「ちょっ、何!」

「通る人間は皆ワシを見てすぐに目をそらす」

 唸るしわがれた声が耳元で聞こえる。

 なんだろう、この人凄く強いような気がする。首に回されたおじいさんの腕力がそう言ってる感じ。

「何で声をかけた」

「……死んでるかと思ったから」

 嫌味っぽく言っただけなのに男は高笑いしだした。

「何よ」

「いや、何でもない」

 笑い泣きするほどあたしは面白いこと言ってないんだけど!

「お前名は?」

「人に聞くときはまず自分からでしょ!」

 一気に気分が冷めて怒った口調で返したら、また笑い出してあたしはおじいさんを睨んだ。

「怖い怖い。そう睨まんでくれ。ワシは喜一(キイチ)、盗賊の奴等でワシの名を知らん者はおらん!」

「トーゾク?」

 何だろうそれ。威張って話すくらい凄い役職なの?

「盗賊を知らないのか?」

「興味ないもん」

 我ながらばっさり切り捨てると思うけど、昔から好きなこと以外集中力持たなかったんだよね。

「元気そうだしあたし帰る。これあげるよ」

「包帯?」

「そこ、血が出てる」

 左腕にあるかすり傷だけど、まぁ何かの縁だしばい菌入ったら困るから。

「あたしが買い出しの途中だったことに感謝してよね」

「気に入ったぞ娘! 名は何だ!」

 おじいさんはまた大きな声で高らかに笑った。

「名乗る必要ないよ。もう会わないんだしさ、トーゾクさん」

「ワシは喜一だと言っておろうが!」

 結構面白い人かも。いじりやすい。

 背中に届くツッコミにあたしは少し笑った。




「あんまりはしゃぐと転ぶぞ」

「だって健ちゃんの奢りで甘味屋でしょ? 凄い楽しみ!」

 下駄でもスキップ出来そうなくらいあたしは浮かれてた。

「甘味屋はついでだ」

「わかってるって、先生や静さんにお礼を買うのが目的でしょ?」

 最近寺子屋でバイトを始めた健ちゃんは、もらったお金で先生達にプレゼントを買うらしい。

 選ぶのを手伝うついでにあたしにも奢ってくれるとのこと。

「でも甘味屋も行ってね? あたし楽しみにしてたから」

 苦い顔をして健ちゃんは頷いた。

「仲が良いね」

「加地さん」

 先生の元教え子さんで、今は警察に働いてる。

 普段はのんびりした雰囲気だからあんまり警官っぽく見えない。

「こんにちは、先生はいるかな」

「いますけど……何かあったんですか?」

「頼まれていた調べ物とちょっと野暮用をね」

「調べ物?」

 あたしが聞き返すと少し渋った顔で口を開いた。

「烏って輩を知ってるかい?」

 健ちゃんの仇討ち相手だ。先生は加地さんに調べてもらってたんだ。

「その話、俺も聞いて良いですか」

「それは構わないけど……出掛ける予定だったんじゃないの?」

「問題ありません、今度にしますから」

 つまりあたしの甘味屋もまた今度ってわけね……。

 あたしはため息を吐いて家に入る二人を追った。

「早かったですね加地君」

「急ぎだと言ったのは先生でしょう、まったく……」

「無理を言ってすみませんでした」

 悪びれた様子もなくただ微笑む先生に、加地さんは短く息を吐き出して顔つきを変えた。

「烏というのは本当の名前ではありません。正式には三羽烏、つまり三人の烏と呼ばれる人間が存在しているようです」

 皆にわかりやすいよう、わざわざ紙に書いてきてくれた。

 それを覗き込みながら加地さんの説明を頭に入れていく。

「殺し専門の烏、密売専門の烏に盗み専門の烏、それが誰なのかまではわかりませんが手掛かりをつかみました」

「手掛かり?」

「盗み専門の烏です。狙った獲物は絶対に盗み出す天才が、うちに挑戦状のようなものを送ってきました」

 さっきとは別物のよれよれの紙切れを畳に広げる。

「我、烏なり。次の満月に薬売りの屋敷に有る無色透明の石を奪う……」

 読みづらい雑すぎる字でそう書いてあった。

「次の満月は明日、薬売りの屋敷も判明して現在警備にあたらせています」

 流石加地さん、なんて心で称賛してたあたし。

「透明の石って?」

「ダイヤモンドと呼ばれている石だそうです」

「ダイヤ?」

「知ってるのか?」

「あたしのいた世界でも高い宝石だった」

 セレブの持つものって決め付けてたけど江戸にもあったんだ、ダイヤモンドなんて。

「捕まえれば烏の情報を知ることが出来るでしょう。ここは一つ、先生に手伝っていただきたいのです」

 野暮用はそれだったわけね。先生に烏捕獲作戦を手伝ってもらうってやつ。

「なるほど、話はわかりました。人助けになるのなら私で良ければ使ってください」

「使うだなんてそんな……ありがとうございます」

 律義に一礼する加地さんにあたしは挙手して提案する。

「あたし達も手伝っちゃ駄目ですか?」

「俺もか?」

 達って言われたから健ちゃんは少し驚いてる。

「やりたいんでしょ?」

 気付いてないかもしれないけど、さっきからずっとそわそわしてるんだよ。

 別人の烏でも、烏は烏だもんね。

「君達まで巻き込むわけには」

「どうでしょう、私の助手ということで二人も手伝ってもらうのは」

 先生素晴らしいフォローありがとうございます!

「先生が良ければ、まぁ」

 もごもごと口を動かして加地さんは承諾した。

「駄目と言ってもついてきそうですからね、寿々さんは特に」

「あはは……」

 間違ってないです、先生。




「今まで烏はどうやって屋敷に侵入していたんですか?」

「近くで爆発を起こして騒ぎに乗じてだとか、眠り薬をかがせて寝ている隙にだとか……」

「つまり色々なんですね」

 ややこしくなりそうな話だわ。

 烏が現われるのは翌日、あたし達は標的にされてる薬売りの屋敷に来てる。

「こちらも様々な対処が出来るよう最善をつくしているんだ」

 屋敷内と烏の情報を事前に聞くためと、屋敷の当主に挨拶が必要ってことらしい。

「でも人数が足りなくてね。烏もどきのせいでこっちまで手が回らない」

「また見回りですか?」

 屋敷の廊下に出てきた細い目のおじさんはあたしを見て顔をしかめた。

 何かあたしの顔に文句でもあるわけ?

「あ、榊原さん。新しい助っ人に場所の説明をしているんです」

「ほぉー、女も助っ人ですか」

 腹の立つ口振りに文句の一つでも言ってやろうかと思ったけど、健ちゃんに腕をつかまれて仕方なく黙る。

「狙われる前日に大人数で押しかけて申し訳ありませんが宜しくお願い致します」

「こちらこそ、うちの宝をしっかり守ってくださいね。まぁ、誰が来たって盗られはしないでしょうけど」

「嫌な感じ」

 何よ偉そうな態度しちゃってさ。第一印象最悪だよ。

「……実は烏に狙われる屋敷は曰く付きが多いんだ。賭博場を経営してたり人身売買に手を染めていたり」

 やってることは江戸も現代も変わんないのね。

「ここもそうだ、貴重な薬を買い漁って金持ちとしか商売をしようとしない」

 確かに屋敷はピカピカ、使用人もいるみたいだし裕福なのが一目でわかる。

「じゃあその烏は悪い人じゃないってことですか?」

「いや、どちらにしても盗みは犯罪、捕まえる必要がある。でも今回はやりにくくてね」

「やりにくい?」

「あれだよ」

 加地さんが指差した先には前に戦ったことのあるようなガラの悪いお侍さん達。

 適当に歩いてる姿は屋敷と不釣り合いだった。

「榊原さんが雇った用心棒らしい。ふらふら歩き回ってはうちの部下に絡む」

 警察に絡むって凄い勇気あるなぁ。

「皆さんが手伝ってくださって良かった。少しでも味方が多ければ心強いです」

「微力ですが、役立てるよう努めさせていただきますよ」

 先生はいつも通りにっこりと笑った。








もう何かごめんなさい。

キャラがまったく安定してない……どうしよう。


出来る限り頑張ってキャラを定着させなきゃと思ってしまいました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ