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侍HOLE!!  作者: 詩音
12/34

じゅうに。

「……困った」

 布団の中であたしは一人呟く。体が鉛みたいに重くて仕方ない。

「寿々、いつまで寝てる気だい?」

 部屋の外で静さんがあたしを呼んでる。

「静さーん……」

 情けない声で静さんを呼ぶ。少し間があってから障子が開いた。

「どうした?」

「肩痛い……」

 ズキズキとうずくように痛むあたしの肩。そのせいで体が動かないようだ。

「昨日走ったんかい?」

 眉を寄せて静さんは言った。

「少しばかり」

 変な三人組に追い回されたから、仕方なかったんだよ……。

 静さんはどこか遠くを見ていたあたしの額を手で叩いた。

「痛い……」

「暴れるなって言ったのに聞かん罰が当たったんよ。今日は寝とり」

「はーい」

 動く気にもなれず、あたしはおとなしく布団にもぐった。




 眠ってたあたしの邪魔をしたのは、首筋に当たる冷たい何か。

「あら、起きました?」

 瞼を上げて最初に入ってきた光景はあたしの上に跨って、雄吉さんが笑う姿だった。

 あたしの首筋には彼のものであろう刀の刃が当たっていて、少しでも動けば赤い液体が噴き出す。

「……な、にかご用ですか」

 冷や汗があたしの頬に流れる。雄吉さんはただ笑みを浮かべて、あたしを見ていた。

「美しい」

「は……?」

「人間の戸惑い、恐怖する顔があっしは一番好きでさぁ」

 冷たい笑みがあたしを射る。あたしはこれ以上出ないくらい汗が噴き出すのがわかった。

「今日は、ずいぶん態度が違いますね」

 前はあたしにすら弱々しい感じだったのに、一体何があったわけ。

「色々と……良いことがありやしてね」

 ニタリと笑う顔に背筋が凍った。

「あたしを殺すの?」

「最初はその気でいたんですが……気が変わりやした」

 雄吉さんがあたしから退く。それにつられるようにあたしは上半身を起こした。

「利用出来る限り、利用させてもらいやすぜ?」

「……勝手にしてください」

 どうせ今までだってこの人に利用されてたんだし、前と変わらないよ。

「では、早く良くなってくだせぇ」

 上辺だけのいたわり、ありがとうございます。

 ニヤリと笑みを浮かべた後、ひらりと彼は走り去った。首筋にはまだ刀のひんやりした感触が残ってる。

「とうとう死ぬかと思った」

 まだ生きた心地しない。

 あたしの呟きは空に消える。肩の痛みなんてもうなかった。だるくもない。

「ある意味医者?」

 有り得ないか。なんて一人突っ込みをいれつつ、あたしは縁側に出た。さっきの危機的状況に反して暖かな陽射し。

 そろそろ、本格的にヤバイかもしれない。誰かにこのことを伝えるべきだけど……。

「誰に言うの」

 ふさわしそうな人が思い浮かばない。

「寿々さん?」

「あ、先生……」

「肩の傷が開いたと聞きましたが……大丈夫ですか?」

「はい。もうすっかり」

 心配かけてばっかりだな、あたし。

 安心してもらいたくて、あたしは笑顔を見せる。それにも関わらず、先生は真顔であたしに近付いた。

「……先生?」

「寿々さん」

 普段ずっと微笑んでる先生が、いつもと違う。

 無意識のうちにあたしはジリジリと後退していた。

「どうか、しました……?」

 戸惑うあたしを先生は悲しそうに見て、そっとあたしの首筋に触れた。

「ここ、誰にやられたんですか?」

「え……」

 首筋から離れた先生の手には少量の……赤い血。

「うそ」

 動揺して声が震える。手で触れば水のような感触が伝わる。

「や、だ……やだやだ!」

 死の一文字があたしの頭に焼き付いた。それを振り払うようにあたしは取り乱した。

「寿々さん、落ち着いて……」

「いやぁっ!」

 先生が伸ばした手を振り払うあたし。頭が真っ白になって何も考えられない。

「先生? どうし……っ寿々!?」

 騒ぎを聞き付けて健ちゃんがやってきた。でもそれにも気付けないくらい、あたしは動揺してしまっていた。

「寿々!」

 両手を振り乱すあたしを抱き込み、健ちゃんは必死にあたしを呼んでくれた。

「あたし、死ぬの……?」

 泣きながら健ちゃんを見上げる。あたしの頭は霞がかってなんだかはっきりしない。

 健ちゃんも困惑気味だった。

「死にませんよ」

 その言葉があたしにどれだけ救われたんだろう。

「死なせたりしません。だから、落ち着いてください」

 自然と体が暴れるのを止める。健ちゃんもあたしを抱く腕を緩めた。

「寿々……大丈夫か?」

 不安そうな健ちゃんを最後に、あたしは意識を手放した。







 まただ、また同じ。

「毎回あたし意識なくすなぁ……」

「今回はいつもと違う」

 聞き慣れた声。顔を横に向けると稽古仲間がいた。

「俺がここにいる」

 刀を脇に置き、柱に寄りかかる健ちゃんと視線が交わる。それだけで胸がざわざわした。

「大丈夫か?」

「うん……」

 あたしの中で気持ちはだいぶ落ち着いてた。

「俺が肩を斬ったときはあんなに動揺してなかっただろ?」

「……前は健ちゃんに怒りが向いてたから、気にならなかった」

 でも今回は違う。斬った本人の雄吉さんがいなくて、怒りや驚きを誰にぶつければいいかわからなくなった。

 それに首は斬られたらホントに危険な場所だって、先生が言ってたから。恐くて恐くてたまらなかった。

「誰にやられた?」

 核心をついた質問にあたしは唇を結んだ。

「何で黙ってんだよ。斬られたんだぞ?」

 言ったらまた雄吉さんが怒って刀を持って来るかもしれない。

 負けない気でいたあたしが、なんだか愚かに思えてきた。

「雄吉さん」

 肩が跳ね上がる。気が付けば、先生が障子を開けてあたしと健ちゃんを見ていた。

「そうですね?」

「あ……」

 否定出来るほどあたしは嘘をつくのが上手くない。二人から顔を背けて黙るのが、精一杯だった。

「本当なのか?」

「ごめんなさい……」

 あたしは泣きながら謝っていた。

「馬鹿。何でお前が謝るんだよ……」

 健ちゃんはあたしを慰めようと頭を撫でてくれる。溢れる涙は止まらなくて、布団に染みを作った。

「あたし、寝てて全然気付かなくて」

 声が震える。

「もし気付いてたら、こんなことにならなかったかもしれない……せっかく、先生に剣術教わったのに」

 申し訳なかった。今までの稽古を無駄にした気がした。

「寿々さん、傷が治ったらまた稽古しましょう」

「先生……?」

 いつも通り先生は笑っていて、怒られると思ってたあたしには意外としか言えなかった。

「無防備な人を襲う人間は、自分の弱さを認めています。大丈夫、貴方は彼よりも強い」

 涙を拭われ、あたしは目を大きくして先生を見つめた。

 先生はただ一つ頷く。健ちゃんを見れば、同じように首を縦に振った。

「……ありがとうございます」

 あたしはずいぶんな幸せ者かもしれない。こんなに優しい人達に囲まれているんだから。嬉しくて嬉しくて、あたしはまた泣いてしまった。








今回は短めの話が続いたので二話更新しました。


読んでくださった皆様、ありがとうございます。

更新出来るときにきちんといたしますのでよろしくお願いします。


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