いち。
真面目な歴史小説ではありませんので、それでもかまわないと言う方のみどうぞご覧ください。
あたしは葛西寿々(カサイスズ)、十七歳の高校生。
成績も見た目も中の中、特別な趣味も能力もない平凡を地で行くあたしはたった今。
「ぎゃぁぁぁっ!」
異様に深い暗闇の中に落ちてます。女らしからぬ奇声はまぁこの際置いておいて。
「ちょっと待って! いやホント意味わかんないからぁぁっ!」
叫びは暗闇に吸い込まれるように小さく聞こえる。せっかくセットした自慢のロングヘアは逆立って、着地したらきっと悲惨なことになってるんだと思う。
「っていうか何処まで落ちるの!?」
落ち続けること五分くらい。……落下時間長くないですか?
いつも通り授業を受けて、いつも通り部活をサボって帰ってたらマンホールに落下。
「いぎゃぁぁぁっ!」
我ながらこれだけ叫べるのはすごいと思う。そんな馬鹿げたことを考えてると、下の方から光が見えてきた。
「日本の真下に落ちてるから、日本の裏側……ブラジル? え、ブラジルに落ちるの? 何語だっけ……」
落下しているせいか頭はパニック状態を通り越して開き直り気味。その間にあたしは暗闇の穴の出口を抜けた。
「い……ったいなぁ」
落下先は何もない、ただ真っ白な世界。うつ伏せに着地、もといへばり付いたあたしの視界にビーチサンダルを履いた足が入ってきた。
徐々に視線を上げていくと、ブラジル人らしからぬ白い貧弱な足。もっと背中を反らすと薄く白い布を纏った中年男がいた。
「こんちはー、葛西寿々さん」
無精髭の生えた中年男はニッと笑う。フレンドリーぶって、ひらひら降る手のひら。
でもあたしにはそこより気になることがある。
「ブラジル人じゃなくて日本人?」
「や、何言ってんのよ君」
冷静な中年男の突っ込みに、あたしの頭は冷却まっしぐら。
いつまでも寝そべってるわけにはいかないから、制服のスカートをはたく。埃なんてないくらい真っ白な世界なんだけど気分的にね。
「アンタ誰?」
「落ち着いたみたいだな。俺は……カミサマだ!」
自分を指差し偉そうな口調で言った。後ろには眩しい光を背負っている。
「はあ?」
目の前の人が頭打っておかしくなったのかと思った。っていうかカミサマだ、までの間は必要だったんだろうか?
「いいんだ……どうせ俺はカミサマになんか見えないよ」
いじいじ地面に指を突っついて落ち込む自称カミサマ。このままじゃ謎が解けず話が進まない。
「カミサマ、とりあえず信じてあげるからさっさと立ち直って」
「……ようやく俺がカミサマだとわかったか。じゃあ俺を敬え!」
「殴るよ?」
「ごめん、ホント申し訳ない」
変わり身の早い、小心者なカミサマにあたしは小さくため息を吐いた。
こんな人が神とか……有り得ないんですけど。
「で、ここはどこ?」
「天国……っていうのは嘘! 嘘です!」
拳を作ればカミサマは怯む。妙なことを知ってしまった。
「ここは時の狭間」
「時の狭間?」
「現代と過去の間って奴だ」
「何であたしがそんな場所にいるの?」
普通に考えてあたしがカミサマに選ばれるなんて有り得ないでしょ。
身長も体重も何もかも平均値のあたしを選んで何の得があるって言うわけ?
「面白そうだから」
「……は?」
「江戸に行ってこい、葛西寿々」
カミサマが無駄に決め顔で指をパチンと鳴らす。
その瞬間、あたしのところにあった床が消えた。
「へっ?」
再び転落。暗闇に真っ逆さまだ。
「せいぜい新しい生活を楽しめ」
「ふざけんな馬鹿ぁ!」
不敵に笑うカミサマに、あたしの叫びは届いたかは微妙なところだ。
「駄目だって! ホントに無理だって!」
叫んでも叫んでも、聞いているのはあたしだけ。それもそのはず、今は空から地面に急降下中。
青い空が涙で霞んで見える。気圧で耳がおかしくなりそう。
「誰かあたしを助けてくださいー!」
結局あたしは落ちた。ただ良かったのは、海に落ちたこと。
「ぐえっ……!」
勢いよく海に落ちたせいか、体がムチ打ちに遭ったように痛む。制服が海水を吸い込み、どんどん重さを増していく。
意識が遠のく中、最後に見たのは金髪の男の人だった。
いかがでしたか?恐らく長々と続くかと思われますが、読んでやってください……。