ハッキョウ式
私のカバンの奥底で、おもちゃの宝石がついた指輪が眠っているからだ。もしそんなことを自白しようものなら、イマナカさんは、嬉々としてそこを穴と狙ってくるだろう。だから、言い出せるはずがなかった。ゆえに、厳重に隠蔽した。隠して、何事もなかったかのように振舞う。
それだから、ツジくんのポケットからおもちゃの宝石が出てきた時に。いったいなんなのかと、思ったのである。
私はツジくんに語りかけた。
私のカバンに、入れ忘れたと思った宝石を、偽造して、庇ってみせたのでしょう。理由? それは今から話すわ。
私はツジくんのことが一年生からずっと好き。
だったのに。ツジくんは、私のイジメに裏からこっそり加担している。おそらくは、私に大掛かりなドッキリをかけている。ツジくんに好意を抱かせることこそがワナなのだ。
天気予報士が予報を外すことなんてよくあることだ。だから、植木鉢が降ることだってあるだろう。でも、私は知っている。父の頭上に落ちた植木鉢のおいてあった四階の教室に、ツジくんとクボくん、イマナカさんがいたことを。
悲しくて頭が追いついていないだけだよ、とツジくんは言ってくれたわ。私は言う。
私はね、この時からもうすでに気づいていたの。あなたが、私へのいじめに加担していたことを。だから、父の上に植木鉢が降ったのだって、あなたたちの仕業。それをした張本人が慰めてくれるものだから、悲しいんだか滑稽なんだかよくわからなくなっちゃって、それでなんの反応もできなかったの。
ツジくんは言った。
違う! 違うぞ! 俺は、お前をたすけ――
言葉を遮った。
楽しかったか!
お前ら!
私をいじめていたすべての人間どもよ!
私は無力じゃないぞ!
だから見ていろ!
どうせカメラかマイクで声はそちらに届いているだろう!
だから見せしめにまず!
私の前にいる!
この最愛の!
一年生の時からずっとずっとずっとずっとず――――っと好きだったツジくんを!
この手で!
殺します!
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これで最後、グランドフィナーレまであと少し。
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まず私は、あらかじめ用意していた包丁で、ツジくんを刺した。心臓は筋肉の塊で、私みたいな非力な女性では容易に貫けない。だから、喉を掻き切った。つぎに足の付け根。最後に脇。
計五か所を切りつけて。
簡単に絶命してしまったツジくんを見て、ただ純粋に興奮した。人の命を一つ、無為に消したという全能感に酔いしれた。
それから、なんの未練もなくツジくんに火をつけてから。
ツジくんの握り締められた手を開いてみた。
なにも、握られていなかった。
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「あああああああああああああああああああああ!」
服にも火が移りそうだ。最高に気分がハイになったので、思わず叫んだ。あまりの興奮に、体中のあらゆる体液をぶちまけて、そこらをびくんびくん跳ね回りたくなる。




