ソツギョウ式(火事)
書きなぐる。髪の毛が焦げるのも厭わずに。
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ツジくんは言った。
俺、新聞配達のアルバイトしてるんだ、と。
いつもは三時くらいから配り始めるんだけど、今日はちょっと早めに終わらせて出てきた。もしかしたら君が起きてるかもしれないと思ったから。
それで、一体何の用?
私は言った。
ツジくんは恥ずかしそうに後ろ手でゴソゴソしながら言った。
俺、告白しに来たんだ。
私はいった。
へえ、誰に?
ツジくんは、右手は体の後ろのまま、左手で頭を掻いて言った。
君にだよ。俺は君が好きなんだ。今日は卒業式だから……。つい先走って、こんな時間に来ちまった。でも、好きだ。よかったら俺と、付き合ってください! お願いします!
私は言った。頬を赤らめ、興奮絶頂といった様子のツジくんに。
もちろん構わないわ。
ツジくんは驚いたような、歓喜と達成感が入り混じったような顔で頷いた。
でも、と、私は言った。
条件があるわ。難しいことじゃない。
ツジくんは言った。
なに? と。
だから私は言ったのだ。
ちょっと、私のひとりごとに付き合って。
ツジくんは。
あ、ああ、それくらいでいいなら喜んで!
地獄の釜は開いた。
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髪が焼ける匂いに顔をしかめる。あと少しだ。あと少しで、私の独白は終わる。
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そうね、まずは。
私は言う。
今ツジくんが後ろ手に持っているものを当ててみましょう。指輪? 花束? なにかしら。まさかラブレター?
ツジくんが言った。
今日はどうしたの? そんな変な喋り方で。普段より饒舌だし……
私は言う。歌う、上機嫌に。
私は、ずっとこういう喋り方をしていたはずよ。気づいていなかったのかしら? あんなにも長い時間を一緒に過ごしたのに。
それに。
話を逸らさない頂戴。私は、今、独り言に付き合ってもらうと言いながら、ツジくんに質問したの。だから、この一瞬は会話よ。まさか普通の会話にも付き合わないつもり?
ツジくんは言う。
つ、付き合うよ! これはね、その、ばれてしまって形無しなんだけど、その、君にプレゼントしようと思って。
私は更に言う。
そう、なら、楽しみにしているわ。
それなら次に、そうね、ツジくんが、私の部屋に取り付けたものについても聞いてみようかしら。
ツジくんは狼狽して言った。
つ、つけてねぇよ! さすがに……えっと、その、……ぁ、女子の部屋にカメラなんか取り付けたりするわけないだろ!
そう、と私は相槌を打った。まるで独り言じゃないけれど、ここからがひとりごとだ。ツジくんに何を言われようとも、独り言は独り言。
今から、ちぎりとった日記を貼り付けていく。だいたい同じような内容のことを言ったので、時間短縮になるはずだ。
私は、おもちゃの宝石を、実は持っている。




